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溺愛は最上級爆裂魔法のあとで〜ちびっ子従者は運命を巻き戻す〜  作者: 撫羽


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85/100

85ー大真面目

 俺の様子に気づいたアイレが、引き留める。


「ベルちゃん、駄目よ」

「あいれ、おれはおじょうをまもる」


 だってお嬢が、ギュッて身体を強張らせているじゃないか。ガツンと言ってやるなんて、強気なことを言ってたお時間がだぞ。

 あれは絶対怖がってる。

 王子がツカツカとお嬢に近寄り、手を伸ばした。王子の手がお嬢の腕を掴もうとした時だ。

 ヒュンと瞬時に移動して、俺はお嬢の前に立ち王子の手を遮った。

 俺には、王子が出す手がスローモーションに見えた。

 俺はその手とお嬢の間に体を入れ、手を広げてお嬢を庇う。

 一瞬の出来事で、周りは何が起こったのか分かっていない。このちびっ子は、どこにいた? くらいだろう。

 小さな風が起きて、お嬢の長い髪がすぐ前に入った俺の頬を撫でる。

 うほッ! 良い匂いがするぜ。いやいや、ここは浮かれてはいけない。

 今日は、大真面目にやるって決めたんだ。


「な、な、なんだおまえ!?」


 突然現れた俺に驚いたのか、動揺したのか? 手を振り上げ殴りかかろうとしてきたから、それをパシンと片手で払ってやった。

 なんだ、こいつと鼻息も荒く、睨みつける。

 もしかして前の時もこんなだったのか? いきなり女の子の腕を掴もうとするなんて、どんな思考なんだ。

 しかも、あの言いようだぞ。これって教育係は何をどう教えているんだ?

 奥様は、魔道具を使っているか? チラリと目だけを動かして奥様の方を見たら、しっかりこっちを正面に捕らえていた。そして俺に向かって小さく頷いた。


「おじょう、だいじょぶ」

「ベルゥ……ふ、ふ、ふえぇーん! ええーん! こわかったのよ~! ベルー! ええーん! ふえーん!」


 お嬢が声を出して泣き出した。しかも号泣だ。

 やっぱお嬢は無理していたんだ。前の時を覚えているのに、何もなかったかのように笑っていた。

 そんなの無理しているに決まってる。だから王妃に聞かれた時に、すぐに返答できなかったんだ。

 俺の背中に隠れて、服をキュッと掴みながら泣くお嬢。そこからお嬢の体温が伝わってくる。

 声を上げて泣いてるんだ、あの気丈なお嬢が。そう思っただけで、この腕の中に囲い込んで守りたい。今すぐお嬢の涙を拭いてやりたい。

 でも、王子から目を離すわけにはいかない。

 王子を正面から、ギリリッと睨みつける。くっそ、俺よりちょっぴり背が高いじゃねーか。明日から毎日牛乳を飲もうと決心した。


「おじょうに、なにちゅ()ちゅ()もりだったんら!」

「だ、だ、だまれ! わたしはわる()くない!」


 ちびっ子なのに、もうこんなに偉そうなのか?

 お前、ちょっと痛い目に遭ってみるか? 下から顎をバコーンと殴ってやろうか。


「わたしは、おうじだぞ!」


 だから何だ、それがどうしたってんだ。俺はお嬢が一番大事なんだ。お嬢の体も心も守ることが最優先だ。

 王子だろうが、王妃だろうが、お嬢を傷付けるなら許さない。

 そう思って、俺は王子を睨みつけていた。一歩踏み出そうかと思っていたところだ。


「ベル、そこまでよ」

「らって、おくちゃま!」

「もういいわ」

「おじょうが、()いてるんだじょ!」


 お嬢が声を上げて泣いているんだ。それだけで、俺には十分な理由だ。

 ガツンとやってやる! そう思って拳を握りしめる。


「王子殿下、今なんとおっしゃいました? 婚約してやるとおっしゃいましたか?」


 奥様の声がいつもと違って低い。体の正面で、しっかり王子の姿を捕らえている。


「わ、わたしは!」

「婚約なら、ご辞退させていただきますわ。殿下にネーネルファを、嫁がせるつもりはございませんので」

「な、なんだと!?」

「私共は、王子妃の立場など望んでおりませんの」

「え……でも、ははうえが!」

「王妃様が、何とおっしゃったのですか?」

「なにをしているのですか!?」


 ここに来てやっと王妃の登場だ。

 俺はずっとお嬢を背中に庇ったまま動かない。

 第2王子にお嬢の涙を見せてなるものかと思っている。こんな綺麗な涙を、お前なんかが見る資格はないってな。

 奥様が王妃に向かって正面に立つ。奥様も肝が据わっている。王妃に向かって一応の礼を取るが、目は笑っていない。


「シリスは悪くないわ」

「話を聞いておられましたか?」

「ええ、もちろんよ。公爵家の令嬢が王族に嫁ぐのは、当然ではないかしら?」

「当然ですか? では、自分が王子だから嬉しいだろうと思われるのも当然なのですね」

「あら、だってそうでしょう? 王子妃になりたい令嬢なんて捨てるほどいるわ」

「お言葉ですが、ネーネルファはそうではありません」

「何を馬鹿なことを言っているのかしら? 公爵家がどうなっても良いの?」

「何かできるのでしたら、どうぞご自由になさってくださいませ。ですが、当家といたしましてもネーネルファを、シリス殿下に嫁がせるつもりは毛頭ございません」


 ひょー! 奥様ったらカッケーな! 見直しちゃった。家では、ポヤヤ~ンとしているのに。

 奥様の周りに公爵家の奥方たちが集まった。皆王妃を睨みつけている。

 公爵家は奥様の見方をしてくれているんだ。周りの奥方たちは、遠巻きに見ている。

 明日は我が身だぞ。油断してると、王妃の野望に巻き込まれるぞ。それが分かっているから、誰も近寄らない。


「おや、どうしたのですか? ベル、ネネ嬢、久しぶりだね」


 場にそぐわない声がして、第1王子のシュテファン殿下がやってきた。


お読みいただき有難うございます!

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