84ー何言ってんだ?
頬張ったものの、ちょっとそのままフリーズしまった。思っていたのと違うから。
頭で思っていたクッキーと、味も食感も良くなくて裏切られた気分。
「あれ」
「どうしました?」
「りょうりちょうの、クッキーのほうがうめー」
「ふふふ、そうですか?」
料理長って凄いじゃん。めっちゃ上手だったんだな。王城で出されたクッキーより、料理長に作ってもらったものの方がずっと美味いぞ。
「ベルちゃんが色々教えるからですよ」
「え、おれ?」
「はい。あんなパンケーキなんて他では食べられませんよ」
「なになに? パンケーキだって?」
え? パンケーキにそこまで反応する? レーニスが体を乗り出して聞いてきた。
アイレったら、ちょっと美味しそうな顔をしているように見えるのは気の所為かな? もしかして思い出しているとか?
「そうです、うちのパンケーキはふわっふわですよ」
「おー! それは食べてみたい!」
ああ、そっか。ヴェント家の当主って甘い物が好きだった。従者も似るのか?
「たべにおいれ。りょうりちょうがちゅくるから」
「おー! 本当にいいのか!? マジで行くぞ!」
「あら、私も一緒に行きたいわ!」
おやおや、メイドのアネッタまで身を乗り出している。ヴェント公爵家は、みんな甘いものが好きってことに決定。
「プリンも美味しいですよ」
「プリン! 旦那様がめちゃくちゃ美味しかったとおっしゃってた!」
ふふふ、そうか。美味しかったか。料理長は良い仕事をしたぜ。
ヴェント家の従者とメイドさんが釣れちゃった。ふふふ。
「私はローストビーフを是非」
「私もです」
「野菜がお花だったと聞きましたわ」
「それも見てみたい」
結局、全員釣れちゃった。今日は大量だぜぃ。
「ベルちゃん、そろそろお嬢様たちは自由行動になるみたいですよ」
アイレが言ったとおり、ちびっ子は席を立っている。だけどちびっ子が集まっているのに、子供が遊べる物なんてなにもないじゃないか。
このお茶会って、ご夫人方がお茶をするためなのじゃないか? それでもちびっ子たちの交流会になるのか?
この場に三輪車や魔道バイクを持ってきたら、夢中になっちゃうだろうな。
せめて絵本くらいは置いとけよ。全然子供目線じゃないじゃないか。
王妃の魂胆が丸わかりってもんだ。子供がどう思おうとどうでもいい。自分が観察できればそれでいいんだ。
もしかして、だから見渡せる中庭なのか? ヒデーな。
そんなことを思いながら、俺はお嬢から目を離さないように見ていた。あまりの可愛さに、目が離せないんだけど。
公爵家の四人は、輪になって何やらにこやかに話している。皆、ちびっ子なのに落ち着いている。
これってあれだろう? 家でしっかり教育されているからだろう? なにしろ、国で四家しかない公爵家だから。
その輪を囲むように、他のちびっ子たちが集まってきた。きっとあの子と仲良くなれとか言われてんだぜ。
お嬢に兄のブレイズ様がいるように、他の公爵家にも兄や姉がいるらしい。公爵様たちって、皆同じような歳頃だったもんな。
それにしても、女の子がお嬢だけってのが不運だ。どうしても目立ってしまう。
第2王子の同年代となると、四家の公爵家で唯一の同年代の女の子だから。
しかも超可愛いときたもんだ。今日のワンピースもよく似合っている。
お嬢は本当は精霊さんなんじゃないか? 何度もそう思うのだけど。
「ちょうかわいい」
「ふふふ、ベルちゃんったら」
「だってアイレ、おじょうがいちばんかわいいじょ」
「はい、そうですね」
アイレとそんな話をしていたら、第2王子が輪に近寄ってきた。当然、周りにいたちびっ子たちは道を開ける。
そしてお嬢たち四人は礼を取る。ああ、礼はいい。とか王子が言っているのかな? 片手を軽く上げている。
「もち~、おじょう、まりょくをながちて」
俺が魔道具でそう言うと、一瞬すがるような目で俺を見てお嬢は魔力を流した。まだ離れているから小さくだけど、耳につけた魔道具から王子の声が聞こえてくる。
「――こうしゃくけだからって――」
ん? なんだ? あんまり聞こえなかったぞ。
俺はじっと耳の魔道具に集中しながらお嬢と第2王子を見る。えっと、第2王子はたしかシリスって名前だっけ。
「おうじでんか、それは――」
「なんだ、わたしのいうことが、まちがっているか?」
「そうではないです。でもネネじょうは、なにもいってないです」
お嬢の肩を持ってくれているのは、さっき一緒に話していた水属性のヒュドール家の坊ちゃんだ。
「わたしはおうじだぞ。まちがったことはいってない。わたしがこんやくしてやろうといっているんだ。えいよだろう? うれしいだろう? すなおによろこべ」
え? こいつ何言ってんだ? まだ4歳のちびっ子だぞ。どうやったらそんな思考になるんだ。
しかもお嬢に近付いてくる。もうその時点で俺は臨戦態勢だ。椅子から降りて、お嬢をじっと見ている。
その時に頭をよぎったんだ。お嬢がキレる直前に王子が言った言葉を。
『私を生涯支える栄誉を与えてやろうと言っているのだ! そんなことも分からないのか!』
婚約破棄を言い渡した時に、確かにそう言ってお嬢を突き飛ばした。
あの時と同じ思考じゃね? まだ4歳のちびっ子だぞ。
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