81ー表情がない
こんな広くて綺麗な場所で、魔道バイクでお嬢をのせて走ったら気持ちいいだろうな。うふふ、あははって楽しく遊びたい。
「ぷっぷー」
いけない、思わず魔道バイクに乗りながらラッパを鳴らしている想像をしてしまった。
「ふふふ、ベルちゃんったら」
「だって、いいてんきら」
「本当ね」
程なくして、城の奥から王妃に連れられて第2王子の登場だ。
あいつ、ちびっ子の頃はあんなだったか? 確か、お嬢より1歳上だったはずだ。
ちびっ子だというのに、表情がない。なんだ? 能面みたいじゃないか。
上下真っ白に金色で刺繍をしてある豪華な服を着ているけど、なんだか似合わないな。
子供らしさがなくて、人形が着ているみたいだ。黙って無表情で王妃の後を歩いてくる。
二人が登場すると、皆立ち上がり頭を下げた。俺もアイレに促されて、頭を下げる。仕方ねーからな。
「よく集まってくれました。今日は年頃が近い子供同士の交流を目的にしております。良い出会いがあることを願います」
ふふん、そんなこと思ってないだろう。王妃の目は、お嬢を捉えて動かない。
お嬢、そのまま顔を上げないでくれ。なんて本気で思った。あれは最初からお嬢を狙っているぞ。
とうとうお茶会は始まった。元々公爵家の四家は交流がある。だから奥様方の四人は顔見知りだ。おほほ、うふふと和やかに話している。
子供たちは、目の前に並べられているスイーツにまず目がいく。
ここからはお嬢の横顔しか見えないけど、今のところ落ち着いているみたいだ。
おっと、隣の男の子が話し掛けたぞ。なんだ? もう最初から魔道具に魔力を流してもらっておけば良かった。
気になるじゃん、俺の可愛いお嬢と何を話しているんだ? うふふ、とお嬢が笑っているぞ。
それからすぐ、高位貴族から順に王妃と第2王子に挨拶をするために席を立つ。だから公爵家は最初だ。
お嬢、念のため魔道具を使って欲しいな。俺から話し掛けてみるか?
「もち~」
返事はできないみたいだけど、お嬢がチラッとこっちを見た。よし、聞こえている。
「もち~、おじょうは、めちゃかわいい」
ぷぷぷ、とお嬢が笑いを堪えているのが見える。えへへ、つい言っちゃうよね。いやいや、今日は真面目に。
「もち、おじょう、まりょくながちといて」
小さくコクリと頷いた。よし、お嬢に伝わった。それからすぐに耳に付けた魔道具から音声が聞こえてきた。
「王妃殿下、本日はお招きいただき感謝いたしますわ。ネネ、ご挨拶を」
「おはちゅにおめにかかりまちゅ。ホルハティけのちょうじょ、ネーネルファともうちまちゅ。おみちりおきくだちゃいまちぇ」
おふッ、超可愛い。魂が持っていかれそうだ。舌足らずなとこがまたいいぞ。
思わず、グーと親指を立ててしまった。
「ベルちゃん、駄目ですよ」
「あ、ごめんね」
お嬢が王妃と第2王子の前で、可愛らしいカーテシーをした。
フワリとしたスカートを少し摘まみ、膝を軽く曲げて片足を後ろに引き上半身を軽く屈める。
こんな不自然な体勢はちびっ子には難しい。なのにお嬢は完璧だ。さすが、俺のお嬢だ。
その時フワリと風が吹いた。まるでお嬢を見せないでおこうとしているかのように、体勢を戻したお嬢の長い髪が風に靡いて顔を隠す。
それでも王妃が、じっとお嬢を見つめている。だけど、当の第2王子が無関心だ。とういか、まだ表情がない。
「ネーネルファ嬢はもう火属性魔法を扱えるのかしら?」
こら、お嬢が今超可愛い挨拶をしただろう? それに返答は無しかよ。褒め言葉はなしか?
能力のことしか考えてないとか? お嬢を一人の女の子として見ていないってことか?
「…………」
どうした? お嬢が黙り込んでしまった。ワンピースのスカートをキュッと持って、前を見ているようだけど。
「いえ、まだ3歳ですので、魔法は教えておりませんわ」
「あら、そうなの? でも瞳は赤ね」
「ホルハティ家ですので」
奥様がそう言いながら軽く膝を曲げる。奥様、ナイスフォローだぜ。王妃と第2王子を目の前にして、動揺しちゃったか?
まだ後がつかえているから、挨拶をしてさっさと掃ける。元より王妃と長く話すつもりなんて全くない。
だけど王妃はお嬢と奥様の後ろ姿をじっと見つめていた。扇子で口元を隠して。
「きもちわりー」
「これ、ベルちゃん」
おっと、口にでちゃった。だってあの王妃の、爬虫類みたいな粘りつくような目線だ。
あれってお嬢を値踏みしているんだ。この子は第2王子の役に立つかどうかって。
挨拶が進み、お嬢たち公爵家はテーブルに戻っている。
王妃と王子に挨拶を済ませた侯爵家以下の人たちが、戻る時に公爵家が集まっているテーブルに挨拶に向かう。
皆、穏やかに挨拶を済ませていく。受ける公爵家の面々も、微笑みながら受けている。
この時のお嬢はまだ普通に振る舞っていた。だけどさっき、言葉がでなかったのが気になる。
このまま何事もなく終わってくれたら良いのだけど、まだお茶会は始まったばかりだ。
「アイレ、おれもおやちゅたべたい」
「もう少し我慢ですよ。挨拶が終われば私たちも座れますし、お茶も出ますよ」
「ほー」
そうなのか。従者にまで悪いね。
「あの人はどこの従者だと、覚える良い機会なのですよ」
「なるほろ~」
ほうほう、なら公爵家はどこだ? その時とっても視線を感じて隣を見上げたら、女の人とバチッと目が合った。
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