74ーぴこん
お嬢の周りに、キラキラとした粒子が舞っているみたいに見える。いや、お嬢自身が発光しているのか!?
思わず俺は、隣に立っている親父の足をバシバシと叩いていた。
「ベル、落ち着け」
「お、お……」
「ベル? にあってないかちら?」
「お、おじょう! ヨメになって!」
思わず言っちゃったよ。お嬢に抱きつこうと走り出したかったのに、親父に首根っこを掴まれてジタバタしただけで前に進めなかった。
親父ったら、よく分かってるぜ。だって、我慢できなかったのだもの。
「こら、ベル。落ち着けと言っただろう」
はぁ~……と、大きなため息を付きながら親父が言った。
「だって、おやじ」
「気持ちはよく分かる」
「だろっ!?」
「ああ、でもこんな時は、他にも言うことがあるだろう?」
親父がニヤリとしながらウインクをした。なんだよ、おじさんのウインクなんて誰も望んでないぞ。
なんだ? 他にも言うこと? ん? あ、そうだ!
「おじょう! めちゃくちゃかわいいじょ! おはなのちぇいれいちゃんみたいら!」
「ふふふ、ありがとう」
ふんわりとしたスカートで、ロイヤルブルーをアクセントにした淡いブルーのワンピース。腰に大き目のおリボンが付いている。
そのロイヤルブルーと、髪のおリボンと色を合わせたのだな。
光に溶けてしまいそうなくらいに、輝いて見えるのは俺だけか? 凛とした中にも可愛さが溢れてる。
こんなに着こなせるのはお嬢くらいだ。
「ベルはちょっと大げさや。けどお嬢はめっちゃ可愛いな」
「ちょうらろ?」
いかん、こんなのめっちゃ目立っちゃうじゃん。王妃にロックオンされるぞ。
可愛いのは隠しようがないから、仕方ないのだけど。
心のアルバムに保存しておこう。と、両手の短い親指と人差し指で、縦長のフレームを作る。片方の人差し指をヒョイと動かして……。
「ぴこん」
「ベル、何をしているんだ」
「こころに、やきちゅけるんら」
また親父の、大きなため息が聞こえてきた。いいじゃん、写メを撮ってるつもりだ。
あー、スマホが欲しい。お嬢の写メを壁紙にするんだ。
いっぱい撮って、俺のアルバムの中はお嬢ばっかだぜ。なんて自慢したりして。
親方に作れないかな? 相談してみよう。
「ベル、馬鹿なことをしていないで、それを着てみてちょうだいな」
「あい」
奥様に、馬鹿なことって言われちゃった。ごめんね、そんな空気じゃなかったね。
はいはい、と俺の服を持ってスタンバっているメイドさんのところへ行く。衝立の向こう側で、全部脱がされ着替えさせられる。俺はされるがままだ。
「ベルちゃん! もっと食べなきゃ駄目よ! 可愛そうにぃ」
メイドさんが俺の身体を見て言った。まあ、まだガリガリだからな。その内、ムッチムチな幼児体形になるさ。
可愛くてギュッてしたくなっちゃっても知らねーぞ。
メイドさんに新しい服を着せられて、奥様の前に出る。
「ん~、ちょっと体が泳いでいるわね」
「奥様、ベルちゃんはまだガリガリなので、仕方ありませんわ」
「そうよね。ベル、たくさん食べるのよ!」
「あい」
「うん、可愛いわ。ベルも見た目は可愛いちびっ子だもの」
ん? 引っ掛かっちゃったぞ。今、奥様が『見た目は』て言ったぞ。
「黙って大人しく立ってなさい」
「おやじ、どういういみだよ」
「喋らなきゃ、可愛いちびっ子だ」
「ちちゅれいらな」
第1王子が言っていた、小さな執事みたいな俺の出来上がりだ。
親父が着ているみたいな執事服ではないのだけど、一応上着の中にベストも着ている。
首元の、ふんわりとしたクラバット代わりのおリボンの中央に、親方の魔道具を着けている。
まんまブローチじゃないか。真ん中の魔石に薄っすらと模様が彫ってあって、周りを囲んでいる枠にも小さな魔石が着いている。
親方ったら、あれからまた凝ったな。
よく見ると、お嬢も首元に色違いの魔道具を着けている。
これで話せるぞ。まあ、俺はお嬢から目を離さないから何かあったら、呼ばれるよりも先に駆け付けるけどな。
「その模様は、ホルハティ家の紋章だ。あれから親方が彫ったんだ」
「ほー」
「それを見れば、この家の者だと分かる」
ほうほう、それに盗難防止にもなるな。親方、頑張ったじゃないか。
「ベル、靴下をこっちにしましょう」
「あい」
なんでもしてくれ。俺は着せ替え人形になった気分だぜ。
「足もガリガリなのよ、だから長めの靴下にしましょう」
そんなにか? まあ、ガリガリだけどな。黒いひざ下までの靴下に履き替えて、お上品な靴を履く。
「おくちゃま、このくちゅはちりにくい」
「あら、そんなことないわ」
「ええー」
だってこんなピカピカの靴だと、気を遣うじゃん。いつものでいいって。
「おくちゃま、いちゅものでいい」
「それは駄目よ。お城に行くのだから」
「ちかたねー」
まあ、いざってときは飛ぶか。羽だけ出せるかな? 戻ってから出したことないけど。
ふんッと力を入れようとしたら、親父に止められた。
「ベル、今は止めとけ」
「え、らってためちてみねーと」
「せっかくの服が破けるだろうが」
「ちかたねー」
「そうか、それも親方に相談しておこう」
てか、行くまでまだ時間があるから、一度脱いでもいい?
俺、これを汚さない自信がないぞ。特にこの首元のおリボンだ。ふんわりしていて、絶対に食べる時に汚してしまう。




