73ースコッチエッグ
どこの家でも、卵は必需品だから少しは買ってくれるらしい。
だけど一度にそんなにたくさん食べるものでもないし、ということで困っていた。
「卵か、うちは買ったばかりじゃないか」
「やっぱ、そうッスよね……」
え、卵ってゆで卵を煮込んだらそれだけで美味くね? おでんの卵なんて大好きだよ。おでんがないのが残念だ。
そんなことを思いながら見ていた。すると、料理長がこっちを向いた。
「ベル、何か料理を知らないか?」
「ええー、たまごって、ゆでたまごがちゅき」
「ベルが好きなの、聞いてんじゃないんだよ」
えへへ。俺だけじゃなくて、ガンちゃんも好きだぞ。そうだなぁ、卵がメインになれば良いのかな?
卵なぁ、と考えて思いついたのが、スコッチエッグだ。だってその時、肉のことも聞いていたから。
毎朝出している、スクランブルエッグや目玉焼きだけじゃなくて、ポーチドエッグも美味しいぞ。とか言ったら、二人は知らなかった。
料理長も知らないなんて、どうしてだ? とか思いながら、俺は簡単に作り方を説明したんだ。
「なんだ、それは湯の中に卵を入れるだけか?」
「ちょうちょう、おちゅと、おちおをちょっといれて」
「ぼく、そうなのか?」
「ぼくじゃねー、ベル」
「おう、ベルくん。それ、他の家にも教えていいか?」
「いいじょ」
そんな感じで、ポーチドエッグが広がったらしい。まあ、レシピも何もないからな。
「簡単だな」
「ちょう。けろ、きみがとろ~り」
「おう、いいな」
「ふふふん」
しかし、それだけではないのが、ベルくんなのだよ。
「りょうりちょう、ちゅこっちえっぐ」
「なんだと?」
「ちゅこっちえっぐ。ゆでたまごを、おにくでちゅちゅむ」
「ベル、肉ってなんでもいいのか?」
「みんちにちゅるんだ」
「み、み?」
「えっちょ、こまかくきる?」
「よし! 分かった。作ってみよう!」
丁度良かったんだ。色んな種類の肉をどうしよう? なんて言ってたから。
御用聞きの兄ちゃんがいるのに、料理長は作り出してしまった。俺は横から口を出すだけだ。
肉をミンチにする機械なんてないから、包丁だ。両手に包丁を持って、ダダダダと肉を細かくしていく。
「たまねぎもこまかく」
「おう、みじん切りか?」
「ちょうちょう」
俺はちょっと離れてみている。目にしみるのは嫌だから。
「ちょれから、こねこね」
「おう」
そして黄身は半熟がいいと言った、俺の希望を取り入れてもらったゆで卵を肉で包む。
「で? どうすんだ?」
「えっちょぉ、どうらったかな?」
「おいおい、ベル」
「えっちょ、たまご、こむぎこ、パンこのじゅんに、まぶす」
「これは食べ応えあるッスね」
「な、良いおかずになるぞ」
兄ちゃん、食べる気だろう? それから油で揚げても良いのだけど、今回はオーブンで焼く。
「よし、切ってみるぞ」
「めっちゃいい匂いッスね!」
領理長がナイフで二つに切ると、黄身がいい感じでとろ~り。
「おおー! 超美味そう!」
「けちゃっぷちゅけて」
「なんだと?」
おっと、ケチャップがないか? ならあれだ。お手軽で美味しいトマトソースだ。
「トマトとたまねぎ、にんにくをきじゃんで、ワインとハーブと、ちおとこちょうをちょっといれる」
「煮たらいいのか?」
「ちょうちょう」
「それをつけて食べるのか?」
「ちょちたら、ちょううまい」
そんなこと関係なく、もう兄ちゃんは食べてるけどな。
「料理長! これ、美味いッス!」
「おまえ、もう食べてんのかよ!」
「肉もジューシーですよ!」
どれどれ? と、周りにいた料理人たちも摘まむ。それから三食連続で、スコッチエッグが食卓に並んでいる。
「美味いぞぉーッ!」
と、まずハマッたのがフラン爺だ。そして親方。それからこいつ、ガンちゃんだ。
料理長が作った特製トマトソースも美味いんだ。
「このソースは他にも使えるな」
料理長が、そう言ってた。そうそう、トマトソースは美味しいからどんどん使ってほしい。
「ベル、これってなんだっけ?」
「ちゅこっちえっぐ」
「他の家にも教えていいか?」
「……ちょれは、りょうりちょうと、ちょうだんちて」
「えー、さっきのはいいっていったじゃん」
だってあれは、湯に卵を落とすだけだもん。これはそうじゃない。
「ちょうだんちて」
「分かったよぅ」
その後、レシピをどうすることになったのか俺は知らない。美味しい物が食べられたらそれでいいや。
でも俺は、スコッチエッグは一回でいいかな。
俺は朝食を食べ終わると、親父に連れられて奥様のお部屋へ向かう。
俺にもお茶会用の服を買ってくれたらしい。今着てるのは駄目なのか? これでいいじゃん。従者だしさ。
「城へ行くのだからな、アイレも余所行き用のメイド服だろうよ」
「ちょんなのあるの?」
「ああ、公爵家だからな。城に呼ばれることもある。その時用だ」
「へえ~」
奥様の部屋に入ると、そこには精霊がいた。もとい、お嬢がいた。
窓から入っている陽の光にキラキラしている白銀の髪に、ロイヤルブルーのふんわりとしたおリボンを結んでいる。
そして、光を反射して輝いているストロベリーレッドの瞳。吸い込まれそうだ。
そのお嬢がクルリと回って、流れるようにカーテシーをした。フワリとワンピースのスカートを揺らして、サラサラとお嬢の白銀の髪がなびく。
「うふふ。ベル、どう?」
あ、あ、あ! マジでお姫様だ! 精霊の国の姫がここにいるぞ!




