71ー心も守る
ガンちゃんを起こさないように、そっと抱っこして親父の部屋へ向かう。
「ベル」
「おじょう、どちた?」
「あちたは、よろちくね。おやちゅみ」
「おー、おやちゅみ」
ふふふ、お嬢におやすみって言われちゃった。いい夢見ろよ、なんて言ったりなんかして。
「ベル、お前はモロに顔に出るな」
「おやじ、ちょう?」
「ああ、ニヤケてるぞ」
「らって、おじょうが、おやちゅみって」
「ああ、明日はよろしくと、おっしゃってたな」
「おー」
なんだ、親父ったら何か言いたそうだな。
親父が部屋に戻ってからやっと話し出した。
「ベル、前の時は明日のお茶会で、お嬢様の婚約が決まったも同然だった」
「おー」
「前の時は、嫌な予感がビシバシしたものだ」
「ちょうなのか?」
「お前は前の時は、まだ知らなかったからな」
前の時に親父は、明日のお茶会をどうにかして辞退できないものかと、旦那様に相談したことがあるらしい。そこまで嫌な予感がしていたのだそうだ。
だけど欠席するなんて無理だ。王家主催のお茶会を、余程のことがない限り欠席なんてできない。
それこそ、高熱を出したことにしようかとまで考えたらしい。
「あの時、一時しのぎでも欠席しておられたらと何度後悔したことか」
それは仕方ないさ。親父の勘はよく当たると旦那様も分かっている。それでも、無理だったのだから。
案の定、お茶会の翌日には王家から婚約者にと内々の打診があった。
「それでも旦那様は抵抗なさったんだ。それはもうギリギリまで抵抗された。丸2年も抵抗されたんだ」
そりゃそうだろう。だって最後は王妃の『まさか謀反の意でも?』という一言で、抵抗できなくなったと俺は聞いている。
婚約相手が悪い。第2王子だ。旦那様が城で働いていることもあって、第2王子の様子はよく知っていた。
せめて第1王子だったらと思ったかも知れない。
だけど王妃は、このホルハティ家の後ろ盾が欲しかったんだ。
お嬢の能力なんて、まだ子供だから分からない。成長して、お嬢が必死で第2王子をサポートしているのを見て、これはラッキーとか思ったのだろうか?
お嬢が補佐しないと第2王子の執務は進まないとさえ、言われるようになってしまった。
まあ、お嬢は優秀だからな。なんでもできるし、それにお嬢は優しいから。
「おじょうは、やちゃちいんら」
「そうだな。精一杯仕えておられたな」
「おー」
見ていられなかった。旦那様と奥様もよく我慢されたよ。
「だが、今回はそう嫌な予感はしないんだ」
「ちょうなのか?」
「ああ、ベルが余計なことをしないかとは思うがな」
なんだよ、それ。余計なことなんてしない。
でも第2王子がお嬢に近付いたら、俺は臨戦態勢に入るぞ。いつでも飛び出せるようにだ。
「ベル、いいか。落ち着くんだぞ。お嬢様はあれでも、しっかりとしておられる。ご自身で大抵のことは対応できるだろう。だから出過ぎたら駄目だぞ」
「おやじ、ちょんなのかんけいねー」
「だからベル」
「おじょうは、きじゅちゅいてんら。おうじが、めのまえにいたら、どうなるかわかんねー」
「それはそうなのだが」
「おれはまもる。おじょうをまもるために、もどちたんら」
ここでお嬢を守れなくてどうするんだよ。
確かにお嬢は前の時の記憶もあるから、今の年齢以上にしっかりしてる。
だけどそんなこと、関係ないんだ。どれだけお嬢の心が傷付いたと思ってるんだ。
お嬢の心も守る。それができないなら、大魔法を使って時を戻した意味がない。
「ベル……お前本気なんだな?」
「え? なんら?」
「本気でお嬢様が好きなんだな」
「なにいってんら。らから、おじょうはヨメにちゅる」
今更何言ってんだよ。何回いってるんだ? お嬢は俺の嫁にするんだって。
「アハハハ! そうか、そうだったな! 頑張れ、俺は応援しているぞ!」
「おー」
親父に応援してもらわなくても、俺は頑張るし。
ホルハティ家全体の、運命も掛かっているのは理解している。
だけど旦那様は、他のことは考えなくていいと言った。元からそのつもりだったけど。
旦那様も同じだと分かった。だからお嬢の心を最優先で守る。
ここで妥協して、前と同じことにでもなったら、家がどうこうなんて場合じゃなくなるぞ。国が危ないレベルなんだ。
「おちろが、ぶっとんだら、くにがやべー」
「まあ、そうだな」
今だとばかりに、攻めてくる国があっても不思議じゃない。
まあ、そんなこと俺はどうでも良いのだけど。お嬢が幸せならそれでいい。
「ふわぁ〜……」
大きな欠伸が出ちゃった。色々考えたくても、眠くて頭が回らない。
「ほら、明日はベルも大事な時だ。早く寝ろ」
「おー」
ガンちゃんに布団をかけて、自分もモゾモゾと布団に入る。すぐに俺は眠った。
翌朝、親父に起こされるまで爆睡だった。
「ベル、ガンちゃん、そろそろ起きろ」
「ん〜……」
親父が、俺の身体を揺さぶって起こそうとしている。まだ眠いぞ。
「ベル、今日は大事な日だそ! ガンちゃん、料理長のスコッチエッグがなくなるぞ!」
ん? なんだそれ?
「んー、おきる……」
「ガンちゃん! 食べてしまうぞー!」
「フガッ! なんでやねん! わいも食べるっちゅうねん!」
ガンちゃんの起こし方はそれなの?
お読みいただき有難うございます!
応援して下さる方、続けて読んで下さる方は是非とも下部↓の☆マークで評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。




