67ー離れない
俺はこのチャンスを、不意にするような男じゃない。
「お嬢! じゅっといっちょら!」
「ええ! ありがとう! ベルがいっちょなら、こわくないわ!」
うひょーッ! ガンちゃん、ガンちゃん、ちょっと聞いた!? 聞いてたよな!? これってもう両想いじゃないか!? な、決まりだよな!
「ベル、お前ほんまに健気というか、イタイ子っちゅうか、なんか言葉があれへんわ」
「なんらよ」
「なんでもないわ。お嬢を大事にせんとな」
「おう!」
そんな夢のような時間は、あっという間に過ぎるものだ。
「ベル! 早くネネから離れろ!」
ほら、戻ってきたらブレイズ様のお邪魔虫がうるさいんだ。
「おじょうと、じゅっといっちょにいる」
お嬢の肩を持ったまま、ピトッとくっついて動かない俺。ふふふとお嬢が笑っている。さっき約束したもんな。
「馬鹿なことを言ってるんじゃない! 交代だ! ネネ、今度は僕が乗せてあげよう!」
「あい、おにいちゃま!」
ええー、そんなぁ。だって一緒にいるって言ったじゃん。
「ベル、はなれないと、おにいちゃまとのれないわ」
「ええー、おじょう」
「ほら、ベル。しつこいで。しつこい男は嫌われるんやで」
ええー! ガビーンだ! お嬢には嫌われたくない。仕方ないなぁ、と肩を落としてゆっくりと降りる。
代りにブレイズ様が後ろにお嬢を乗せて走り出した。あーあ、もっとお嬢と一緒に乗っていたかったなぁ。
それを側で見ていた王子が話しかけてきた。
「ベルはネーネルヴァ嬢が好きなんだね」
「あたりまえ。おじょうは、ヨメにちゅる」
「アハハハ! お嫁さんかぁ、頑張るんだね」
「おう」
王子に言われなくても頑張るさ。今度こそだ。
「でんかの、こんやくちゃ」
「ん? 婚約者と言ったかい?」
「ちょう。いっちょに、くればいい」
「そうだね、今度連れてこよう」
おう、王子も婚約者と一緒に声を上げて笑うといい。きっと婚約者のご令嬢だって、喜ぶぞ。
「でも彼女は怖がるんじゃないかなぁ、ふふふ」
優しい笑顔だった王子の表情が変わった。どうした?
「ベル、ガンちゃん、もしものことがあったら、僕に力を貸してくれないかな?」
「殿下、なんです? その、もしものことって」
ほら、王妃のことをしらない護衛が心配しているじゃないか。俺より先に護衛に話しておく方が良くないか?
チラッとフラン爺を見ると、難しい顔をしている。まだ判断できないってことか?
「フランじいに、ちょうだんちて」
「そうだね、そうするよ」
俺は判断できない。まだ王子がどんなことを考えて、今どんな状況なのかをよく知らないから。
フラン爺が行けと言うなら、俺は行くぞ。フラン爺の判断を信じるからだ。
「殿下、そう心配なさいますな」
「フラン爺、そうかな?」
「はい。用心は必要です。しかし、必要以上に心配されると、身動きができなくなりますぞ」
「そうだね」
それだけ婚約者の令嬢が大切だってことだ。しかも関わっているのが自分の実の母親かも知れないのだから、思い悩むだろう。
だけど、王子もまだ子供だ。自分一人で考えたって限界がある。信頼できる大人に相談できるといいな。
それがフラン爺や旦那様だけじゃなくて、王にも話せているのだろうからまだ希望はある。
「父上、親方」
お邸の中から旦那様が出てきた。手にはあの魔道具を持っている。
「どうした?」
「この話せる魔道具を、殿下にも持っていただこうと考えています。それで親方、城とこの邸とだと話せるのだろうか?」
「まあ、場所にもよるんだ。あまり入り組んだ場所だと通じないかも知れねーぞ。遮る物のない広い場所だと大丈夫だ」
あれか? 電波が届かない的なやつか? 電波なんてないんだけど。
城の中って入り組んでいるんじゃなかったっけ? まして王族の生活圏なんて城の一番奥だ。
こっちの邸は大丈夫でも、城の方が問題だろうな。やっぱあれだ。魔石を設置したいな。
「そうか、微妙だな」
「だけどまだまだ改良するぞ。取り敢えず、お守りで持ってもらったらどうだ?」
ほう、まだ改良するのか。改良したら俺も欲しい。
「改良したら、それと交換するとかどうだ?」
「そうだな、取り敢えずそうしようか」
旦那様がそんなことを考えるくらいだ。王子が、王妃が黒幕だと言ったことを考慮しているのだろう。
大人の中に一人ちびっ子の俺が混じって、ふむふむと話を聞いていた。手を後ろで組んで片足だけちょびっと前に出して、自分が一番偉いみたいなお顔をして。ふふふ。
「ベル、お前がキーマンだと言っただろう!」
また大きな声で、訳の分からないことをフラン爺が言っている。なんで俺がキーマンなんだよ。
「ベルは飛べる! ガンちゃんは転移できる! これはとんでもなく有利なんだぁッ!」
はいはい、叫ばなくてもいい。すぐ側にいるのだから、普通に話せは聞こえる。
「ベル、父上の言う通りだ」
「だんなちゃま」
「念のため、殿下に魔道具を持っていただくが、万が一連絡があった時に真っ先に動いてもらうのはベルだ」
正確に言うとガンちゃんの転移が必要になるってことだな。ガンちゃん聞いてるか? 分かってる?
「なんやねん、わいに任せときっちゅうねん」
「ガンちゃん、頼んだぞ」
「おうよ!」
ちょっと調子に乗りやすい魔モモンガだから、そんなに当てにしない方がいいと思うぞ。
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