66ー筋金入りの恋
ちなみに旦那様が、騎士団や衛兵が所属する軍部の長だ。『国防大臣』という役職名だけど所謂軍務大臣だ。
実は旦那様は剣も使えるし、体術だって習得している。
一番は火属性魔法で戦うことだけど、一時期は近衛兵に在籍していたこともあるらしい。若い頃のほんの一時期だけだそうだけど。
ほら、あれだ。上に立つ者は、実践も経験しておかないといけない。みたいな感じらしい。
俺は目の前にいる、精悍な王子の護衛を見上げて言った。
「かっけーな」
「そうか? ありがとう」
うん、このティムって兄ちゃん、カッコいいぞ。爽やかで好感が持てる。騎士団の制服もよく似合っている。
「それよりベルくん。さっきから気になっているんだけど」
「なんら? ベルでいいじょ」
「じゃあ、ベル。その肩に乗っているのはなんだ?」
「このこは、ガンちゃん」
「ガ、ガンちゃん?」
「ちょう、ちゅかいまのガンちゃん」
「おう! ガンちゃんて呼んでや、よろしくな!」
「しゃ……喋ってるんスけど!?」
普通のモモンガじゃないから、喋りもするさ。フラン爺、説明してやって。俺はまたあれに乗りたい。
「ワッハッハッハ! 驚くだろう? あれはベルの使い魔だ」
フラン爺のそんな声が聞こえてきたから任せておこう。
「おじょう! もいっかいのろう!」
「ええ! こんどはあたちが、まえにのるわ!」
「えー、あぶねーじょ」
「へいきよ! ベルはうちろね!」
もう、お嬢はお転婆さんなんだから。まあ、いいか。だって俺が後ろってことは、お嬢の肩を持てるもの。ぐふふふ。
「ベル、キショッ! めっちゃキショイで!」
「おもってるだけ」
「それでも、キショイわ」
何回も言うな。ふふふん、大丈夫さ。口には出さないから。もちろん顔も力を入れて、ニヤケないようにしよう。
お嬢はさっさと魔道バイクに乗ってスタンバッている。あらまあ、可愛い。お嬢は何をしても可愛いわね!
「ベル、はやくのって!」
「おー」
めっちゃ走る気だな、でも気を付けるんだぞ。
二つの後輪の間に、足を置くための小さなステップがある。これはきっと三輪車に二人乗りをしていたから、親方が付けてくれたのだろう。
そこに乗って、俺はそっと遠慮気味にお嬢の小さな肩を持つ。
「ベル、だめよ。ちゃんともたないと、あぶないわ!」
え、いいの? そんなことを言ったら遠慮なくガシィッと持っちゃうぞ。
「ベル、はやく!」
「お、おー」
じゃあ、遠慮なく。俺がお嬢の肩をしっかりと持った時だ。
「あー! ベル! ネネに触るんじゃない!」
「だって、おじょうがもてって、いったも~ん」
「おにいちゃま、だってもたないと、あぶないでちょう?」
じゃ~ね~。と片手をフリフリしてお嬢と一緒に出発だ。ぶぶーッと魔道バイクが動き出した。
「ベル! もっと速くちゅるわよ!」
「おー!」
いきなりスピードアップした。お嬢の長い髪が靡いて俺の顔をくすぐる。
ふわりと良い香りがするし、柔らかくてサラサラだし。ああ、このままお嬢の髪に、顔を埋めたい。
「きっしょ! ベル、何思ってんねん!」
「うへへへ、ガンちゃん、ひみちゅだじょ!」
「そんなん言えるわけないやん! めっちゃ引かれてまうで!」
「だから、ひみちゅ!」
「アハハハ! 自覚あるんや」
当然だよ、お嬢に対してはかなりヤバイ奴になっていると自覚がある。
だってやり直す前の時から、ずっと我慢してるんだぞ。そりゃ、筋金入りで恋してるっての。
「アハハハ! 恋か!」
だからガンちゃんったら言うなって。恥ずかしいから。
「ぐふッ!」
まだ笑いを堪えているガンちゃん。
お嬢の肩を持って、一緒に風になるってか!? ひょ~ッ! なんかご褒美貰ってる気分だぜ。
「ベル! これってとまるのはどうちゅるの!?」
「ええー!? ちょこ!?」
こらこら、止まり方を知らないのに、乗っているのか!? しかもめっちゃスピード出してるし!
お嬢ったらなんてお転婆なんだ。いや、お転婆なんて言葉は違うな、無謀だ。
「おじょう、てのとこにあるやちゅにぎるの!」
「これね、わかったわ!」
おー、こえー! 魔道バイクに乗るのも命懸けだ。アハハハ!
「ベル、笑ってる場合とちゃうっちゅうねん!」
「らって、ガンちゃん! アハハハ!」
「キャハハハ! ベル、たのちいわね!」
「おー!」
お嬢が一番不安なはずなんだ。前の時に辛い思いをしたのだから。
魔力が暴走して、最上級の爆裂魔法をぶっ放すくらいに傷付いてキレてたんだ。それを出さないで笑ってる。
不安てもんじゃないだろう。怖いはずだ。なのにこうして笑ってる、強い子だよ。
ガンちゃん、そう思わないか?
「そっか、そうやな」
「うん、ガンちゃん」
だからさ、今回はお嬢をなんとしても守る。もう二度とあんな思いはさせない。お嬢の心も守る。こうして、遊んで笑うことだって大切なんだ。
前の時の記憶があるといっても、今はまだ3歳なのだからもっと自由に遊んだっていいんだ。
「ベル! いっちょにいてね!」
え……!? 今お嬢は何て言った? 俺に一緒にいてと言ったか? 言ったよな!?
「ベル、何惚けてんねん!」
「だってガンちゃん!」
そんな、まさかお嬢の口からそんな言葉が出るなんて!
ああ、これってやっぱ夢なんじゃないか? あまりにも嬉し過ぎるぞ。この際、夢でもなんでもいい。
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