61ー遊ぼう
もう一つを持っているのは、意外な人だった。
「親方だ」
「おやじ、おやかたが、ちゅけてもな」
「だが親方は、この邸から動かないからな」
ほう、だけど親方より親父が持っている方がよくないか?
「ベルは注意力が散漫なんだ」
ここでまたブレイズ様が大きな顔をして突っ込んできた。なんだよ、いちいちさ。
「まじ、うじぇー」
「ベル」
親父に睨まれちゃった。だってウザイんだもん……て、ちょーっと待った!
「おやじ、ちょ、ちょれ!?」
「ああ、私も持っている。今まで気付かないなんて、本当に注意力が足らないな」
フンと鼻で笑いながら親父が言った。親父の胸にブローチが、耳にはイヤーカフ型のものが存在感を訴えていた。
あれれ? なんでまだ魔道具があるんだ? だって一組しかなかったじゃん?
「親方が、あれからまた作ったんだ。僕が魔力を流す手伝いをしたんだぞ」
ブレイズ様が、大袈裟に胸を張りながら髪を耳にかけた。そこにもあの会話できる魔道具が!
「え……ちょーじゅりー!」
「アハハハ! どうだ!」
なんだよ! 俺も欲しいぞ! マジでズリーな!
「ふふふ、ベルったら」
あ、お嬢が笑った。まあ、なんてことでしょう! ここは天国でしょうか? 周りを幸せに包み込むような笑顔だぜ!
ひょーッ! て叫びながら飛んじゃってもいいかなぁ? ウホウホと喜びの小躍りをしちゃってもいい?
「ベル、それはやめとき」
「ガンちゃん、おもってるだけ」
「まあ、そうやけどな。わいには、分かるんやもん」
「ちかたねー」
そんな馬鹿なことを話している間にフラン爺は、王子に魔道具を着けて説明していた。
「これで話せるのか?」
「そうです。お試しになりますか? 今ならブレイズと話せますぞ。魔力を流しながら、誰と話したいか思ってください」
小さな王子が、初めて年相応の顔をした。好奇心いっぱいで、ワクワクしているような。そうだよ、いつもそんな顔をしていていいんだ。
達観して、自分を律しているような顔ばかりしてないでいい。王子だけど、まだ子供だ。そんな時間も必要なんだ。
「おうじでんか、もち〜って」
「ん? もち〜なのか?」
「ちょうちょう。もち〜」
「アハハハ! そう言うのか?」
「いえ、殿下。ベルはまだ舌足らずなので、正確には『もしもし』と言うそうです」
「それは何かの詠唱なのかな?」
「いえ、単純にこの魔道具で呼びかける時の言葉だそうです」
「アハハハ、聞いたことがないよ」
楽しそうな顔をするじゃん。耳につけた魔道具にそっと手をやりながら、ちょっぴり恥ずかしそうに王子は話しかけた。
「もしもし?」
「はい、殿下。聞こえますよ」
「うわ、本当にブレイズの声がここから聞こえてくるよ!」
「殿下の声もちゃんと聞こえてますよ」
「素晴らしいね!」
そんな目の前にいる人と話してもさ。もっと離れようぜ。
「でんか、ブレイズちゃま、おちょといこう!」
「もっと離れても話せるのかい?」
「ちょうちょう。ちょれに、ほかにもまどうぐあるじょ」
「そうか! ブレイズ、行こう!」
「はい、殿下」
いいよな? 王子も偶にはいいだろう? 旦那様を見ると、微笑みながら頷いていた。
よし、行こうぜ! お嬢も行こう! ピョンと椅子から降りてお嬢の側に行き手を出す。
「おじょう、いこう!」
「ええ、ベル」
小さな柔らかい手で、俺の手を取ってくれる。ふわわわ、幸せだぁ! この手をずっと離したくない!
なのにブレイズ様が、ビシッと俺とお嬢の手を引っぺがした。一瞬だったじゃないか。
「ちっ」
「ベル! 舌打ちするんじゃない!」
「うっじゃ」
「なんだとー!」
「アハハハ!」
ほら、王子が笑ってるじゃないか。ブレイズ様の、よそ行きの顔が剥がれているぞ。
「ワッハッハッハ! 殿下、参りましょう!」
「ああ、フランオーネ殿」
「私のことは、フラン爺で構いませんぞ!」
「アハハハ! では、フラン爺」
「はい! 行きましょう!」
フラン爺ったら、やっとフラン爺らしくなってきた。フラン爺はちびっ子には優しくて、放っておけないんだ。
「子供が育たない国に未来はないッ!」
なんて言っている人だ。王子にも子供らしい顔をして、笑ってほしかったのじゃないかな?
ずっと母親の愛情を求めて、でも早い時期にそれを諦めるしかなかった王子。
それってフラン爺にしてみれば、不憫で仕方なかったのだろう。せめてうちにいる時くらいはと、思ったのかも知れない。
王子と一緒に外に出てきた。もちろん真っ直ぐに親方のいる裏庭に向かう。そこで親方が何かを磨いてた。
「おやかた!」
「おう! なんだ、みんな出てきたのか!?」
手に布切れを持って、ふぅ~ッと息を吐いている。何を磨いていたのかな? と見てみると、なんと!
「おやかた! これ!」
「おう、いいだろう? ちょっと工夫してみたんだ!」
「ちゅげー! もうのってもいいのか!?」
「まだだぞ。これは先に、魔石に魔力を満タンに溜めておかないと駄目なんだ」
「ええー」
「大型だからな! それにある程度スピードを出したいだろう!?」
「おー! おれ、まりょくながちゅじょ!」
「よし、ベル!」
俺と親方が盛り上がっているところに、フラン爺が割り込んできた。
「まてまて、親方。先に紹介しよう。シュテファン第1王子殿下だ」
「王子殿下ってか!? ほぉ~! そりゃまたどうした!?」
親方って動じないんだね。一応、この国の王子と言われたら、もっと恐縮しないか? 俺はしないけど。
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