60ー子供なのに
「陛下はお茶会で、婚約者を選ぶことはさせないと、おっしゃってましたが」
「父上はそう思っていても、母上がそれを聞くかと言えば分からないだろう? 何しろ、母は焦っている」
「なるほど」
王妃がそうだとしても、王が許さなければ良いだけじゃないか。なのに前の時は王妃がゴリ押ししたんだ。今回はそうはさせない。
「きっと今頃は、シリスに言い聞かせているだろうね。ネーネルヴァ嬢と仲良くなれと」
王子が言ったことが、十分に有り得ることだから皆黙り込んでしまった。
そんな中、心は決めているという表情をした奥様が言った。
「殿下、当日は私も同行いたします。母として、ネーネルヴァを守りますわ」
奥様がハッキリとそう言ったんだ。
「夫人、当日はなんとか私も顔を出すようにしよう」
「いえ、殿下。それは止めておかれるほうがよろしいかと」
「公爵、どうしてそう思うのだ?」
「ただでさえ、クァンイン侯爵令嬢が狙われているのです。王妃殿下の目につくようなことは、なさらない方がよろしいでしょう」
旦那様のこの言葉に、俺はびっくりした。旦那様と対等に話している王子にも驚いたのだけど、旦那様は王子が言ったことを当然のように肯定しているんだ。
王妃が第1王子の婚約者の令嬢を狙ったと。
俺はいくらなんでも、そんなことまでと思う気持ちがあった。だけど旦那様はそれを信じている。
俺が思っている以上に王妃ってヤバイじゃん。
これは当日、絶対に俺もついて行かないと! そう思って、思わず拳を握りしめる。
「ベル、また何を考えているんだ」
親父が小さな声で聞いてきた。話を邪魔したら駄目だからさ。
「おやじ、おれはじぇったいにいっちょにいく」
「おう、今度こそだな」
「おー」
そうだ、今度こそお嬢を守るんだ。お嬢の心も全部。でないと、巻き戻した意味がないじゃないか。
そんな俺の心とは全然違う話を、王子がし出した。
「私は常に、国家にとって王家とは必要なものなのかと自分に問いかけている。多くの貴族や兵たち、それに民には象徴となる拠り所が必要であって、王家はそれではないかと思っている。実際に国を動かす実務を担っているのは、官吏や公爵たちだ。なのに国母ともあろう母が、皆に尊敬されないようでどうする?」
えっと、王子って何歳だっけ? 確かまだ13歳だよな?
もしかして、あれか? どうしてだか分からないけど、第1王子も前の時の記憶があるとかか?
どこの世界にたった13歳の少年がそこまで考える? 俺は未だに考えたことないけどな。
そんなことを思っていると、親父にめっちゃ呆れた顔をされてしまった。
なんだよ、いいじゃん。てか、俺の気持ちを読むんじゃないって。
「ネーネルヴァ嬢も気を付けてほしい」
「はい、でんか」
ああ、一言喋っただけなのに、どうしてこんなに可愛いのだろう。一気に場の空気が和らぎ、周りに花が咲いたようだ。
やっぱ天使だ。背中に真っ白な翼が見えてしまうのは、俺だけか?
だけど俺はそんなこと顔に出さないぞ。もういい加減俺は顔に出るのだと学んだから。俺は常にアップデートするお利口なちびっ子なのだ。
「ふふふん」
「ベル、大人しくしてなさい」
せっかく一つ学んだと思ったのに、ついニヤけてしまった。
「公爵の家は穏やかで良いね」
しみじみと言いながら、王子はゆっくりとお茶を飲む。まだ王子だって子供なのに、環境が子供でいさせてくれないのか?
これも一つの不幸だと俺は思う。
だって、もっと子供らしい時期があっても良いのにと思うから。
「おうじでんか、いっちょにあちょぶ?」
「これ、ベル。また何を言いだすんだ」
「らって、だんなちゃま」
「そうだな。ベルの言うとおりだ! 殿下、今うちにはドワーフが滞在しているのです。一緒に見に行きませんか?」
初めて口を出したフラン爺。とっても頼りないと思っていたのだけど、ここにきてやっと発言した。
「ドワーフですか? それは珍しいですね」
「そうでしょう!? 領地に押しかけて来た変わり者ですが、今ベルと一緒に楽しい魔道具を作っておりますぞ!」
「魔道具ですか? それは興味深い」
魔道具と言えば、あれだけ焦って作った話せる魔道具。俺がスマホと命名したのだけど、誰もそう呼ばない。
あれって結局出番が全くなかった。
でもフラン爺と親方はあれを発展させて、どこでも魔石の設置の必要がないように改良するつもりだ。なにしろ、大奥様が怖いから。
「まろうぐ、ちぇっかくちゅくったのに」
「そうだな、ワハハハ!」
後々役に立つならまあいいか。俺も欲しいし、皆が持てるように数を作ったらもっと便利になる。
使用人たちもみんな持っていて、インカムみたいに使ったりすると便利じゃん。みんなで『もち〜?』て、しようぜ。
「昨日そのドワーフと、ベルが作った魔道具をご覧になりますか?」
「それは是非見てみたい」
ふっふっふっ、驚くなよ。この世界では、こんな物ないぞ。
フラン爺が、徐に自分の首元に着けているブローチを外した。そして耳を触っている。今日も着けていたのか? 必要ないのに。
「大旦那様はいつどこに行かれるか分からないから、常時着けていただいてるんだ」
親父が、手に負えないと言いたそうな表情で教えてくれた。やんちゃ小僧かよ!
ならもう一つは誰が持っているんだ? そう思ってジッと旦那様を見る。
旦那様が、私じゃないぞと言いたそうに首を横に振った。なら誰だよ?
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