56ー大奥様が
旦那様が話を続けた。
「王家には、カラスと呼ばれる者たちが付いているのを知っているな?」
王家に付いているカラスとは、姿を現すことはないが、常に王族を見守っている人たちのことを指す。
何か突発的なことがあったら、もちろん身を挺して守る。そんな凄腕の人たちが守っていることは、高位貴族なら皆知っている。
王城では、誰も見ていないなんてことはないんだ。プライバシーがないってことにもなるのだけど。
でもそれは王家の人たちの命だけじゃなく、陰謀の類からも守るためだ。
「そのカラスの報告から、王妃殿下の素行を疑われている」
「他公爵家の当主たちも、王妃殿下を良くは思っていなかったな」
あれだろう? 旦那様が言っていた、最近わがままが過ぎるってやつだろう?
王妃ってきっと立場を勘違いしているんだ。自分は偉いと思っちゃうんだな。ま、確かに偉いのだろうけど。
「お茶会で婚約者候補を決めることはさせないと、おっしゃっていた」
ほうほう、ならいいじゃん。安心だ。ね、親父。
俺はちょっと安心して、足をプランプランさせながら、親父を見上げた。そんな俺を、親父は呆れた目で見ているけど。
「お茶会は元々高位貴族の子供たちの交流の場として、開催されているのだからな」
「それを婚約者選びに、利用しようとされているのだ。そんな勝手なことをと、公爵家の当主たちも憤っておった!」
フラン爺はもう怒っている。公爵や王がいた場では、あんなに大人しかったのに。いつもより言葉数が少なかったもの。
お邸にいるフラン爺とは、別人かと思ったぞ。借りてきた猫状態だ。ジトッとフラン爺を見る。
「なんだ、ベル」
「ふらんじいって、だめだめ」
「な、何を言う!?」
「だって、べんとうもっていったとき」
あの時フラン爺って、口数も少なくて大人しかったじゃんって言った。
「そ、そんなことは……」
「父上は苦手なのですよね」
「フランヴァ! そうハッキリ言うでないッ!」
ああ、やっぱ苦手なんだ。
「お前たちは同級生みたいなもんだろうが、私は違うんだ!」
「けろ、みんなフランじいより、じゅっと、とちちた」
「ベルーッ!」
人には得手不得手があるから、仕方ない。それに旦那様が一緒だったのだから大丈夫だろう。
俺は話の分かるちびっ子だからな。それくらいは許してあげよう。
ふふふんと、腕を組んだりしちゃって。そしたら、パコンと頭を叩かれた。
「おやじ! なんらよ!」
「偉そうにするんじゃない。ベルだって何も言わずに帰ってきたのだろう?」
それを言ってはいけない。俺は小さくなっちゃった。大人しくしておこう。
「ワッハッハッハ! ベルもゲイブには弱いのか!」
も? 俺もって言った? もしかして、フラン爺もそうなのか?
「ゲイブは鋭いところを突っ込んでくるからな!」
ああ、これはいかん。フラン爺って思っていたより頼りないかも知れないぞ。
家ではこんなに豪快で、大奥様に叱られるのも構わずにこっちに来てしまう人なのに。ああ、そっか。叱られてるんだ。
「おおおくちゃまに、ちかられてるから」
「ベル! それは関係ないだろう!」
ふふふ、フラン爺って思ったより小心者だよね。可愛らしく感じるぜ。
「ああ、そういえば父上」
「なんだ?」
「母上に、また何も言わずに来たのですね?」
おっと、またか? フラン爺の顔色が変わり、ダラダラと汗をかき出した。蛇に睨まれた蛙みたいじゃないか。
「いや、ちゃんと文は残してきたッ!」
こらこら、一緒に住んでいる奥さんに置手紙かよ。それってどうなんだ?
「母上も、こちらに来ると文が届きました。父上、ネネの一大事だと書いたのですね?」
そんなことを置手紙に書いたら、大奥様はめっちゃ心配になるじゃないか。しかもフラン爺は行ったきりで連絡がつかない。それって超不安だぞ。
「父上、そうなんですね? 一言言ってくれば、母上も心配しないと思いませんか?」
うわ、血を争えないとはこのことだと俺は思った。フラン爺を責めている旦那様と、昨日親方を責めていたブレイズ様がそっくりなんだもの。
ひえ~、怖い怖い。俺は大人しくしておこうっと。
チョコンと座り直して、両手を揃えてお膝の上に置いた。澄まし顔で、俺は関係ないです~と存在を消す。
「ぶふふ」
こら、親父。笑うところじゃないぞ。
「お前は大旦那様に似たところがあるな」
なんて小声で言ってきた。なんでだよ、似てねーよ。俺はあんなに駄目駄目じゃない。
いざという時は、いつでもお嬢を連れて飛んで逃げる覚悟はできている。
「おれは、いちゅでも、おじょうをちゅれてにげる!」
「ベル、今関係ないことは黙ってなさい」
「あ、あい」
いかん、つい口に出ちゃった。旦那様に叱られちゃったよ。小さな身体を余計に小さくして、できるだけ存在を消す。
「フ……ベルは馬鹿だな」
あ、ブレイズ様ったらムカつく。けど、ここはスルーだ。だって旦那様が怖いから。
「父上、来るのは構いません。ですが、母上に心配を掛けるなら出入り禁止にしますよ」
「フランヴァ! それはない!」
「ですが、そんな置手紙をしてくる父上が悪いのですよね?」
「い、いや。その、フランヴァ……」
「母上が心配するのも当然だと思いませんか?」
これはフラン爺の惨敗だ。負け戦だ。旦那様に口で勝てるわけがないんだ。
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