53-旦那様のだから
「陛下、とても美味しいですよ。この料理は見たことがありませんね」
「こっちは、デザートなのか?」
「ちょれは、プリン」
「プ?」
「プリン、あまくてちょううめー」
「そうなのか!? 私は甘いものに目がないのだ!」
そう言ってプリンを手に目を輝かせているのが、シュートス・ヴェントだ。
旦那様と同じくらいの年齢だろうか? 髪はひまわりの花みたいに少しオレンジがかった黄色をしていて、瞳は風属性の鮮やかなグリーンだ。長い髪を片方に持ってきて結んでいる。とっても気軽に話してくれる人だ。
火と風は相性がいい。だからよく一緒に任務に当たることがあるから、一番気軽に話してくれる。俺もよく覚えている人だ。
四公爵家の当主は、皆若い。どの家も跡継ぎが育つと、とっとと代替わりをする。
旦那様はフラン爺が領地経営や貴族の社交が苦手という理由もあったのだけど、どの公爵家もそれだけ負担が大きいからだ。
こんなこと長くやっていられるかって、思っていそうだ。なので、他の貴族よりずっと早くに代替わりをする。
確か、この四公爵と王は学年も近く、学生時代から交流があったと聞いた。だから名前で呼び合っていたり、この気取らない雰囲気なのだろう。
実は王家は短命だと言われている。使える魔法が特殊なことと、その上聖女の特殊な魔法も継ぐことで負担が掛かるのだろうと推測されている。
だからどの王も四公爵家と同じように、次代が育てば早々に代替わりをして隠居する。
そのためか、王家と四公爵家は自然に良く似た年頃の者になる。それが問題なんだ。
親の年代が同じなら、自然と子供の年代も同じくらいになる。だから、王子や王女の婚約者に四公爵家から選ばれ易くなってしまっている。
だが、今回は第2王子と同じ年頃の公爵家の令嬢はお嬢しかいない。偶々、他公爵家の同じ年頃の子供は男の子しか生まれなかった。
「これは……!」
突然、料理長の切った人参を態々手のひらに乗せてじっと見ているのが、水属性魔法のフォスヌン・ヒュドールだ。
髪は優雅なラベンダー色で、瞳は水属性の海のようなブルーだ。前髪を長くしたショートボブの髪が頬にサラリと掛かり、中性的な雰囲気を漂わせている。
カッコいいというより、綺麗という表現の方が似合う人だ。
この人は確か……細かいものが好きなんだ。細かい細工物に目がない。細工物が好きなだけあって、いつも凝ったアクセサリーをしている。
だけど、手にしているのは人参だぞ。普通に料理長が、ちょっと可愛くしてみたとか言って、ウホウホと嬉しがって作っていた。
花びらに見たてた人参のスライスを重ね合わせて、バラの花のようにしてある。
「人参を花にするとは、素晴らしいです! 神業ですか! ゴッドハンドなのですか!」
はいはい、食べてね。見る物じゃないから。美味しいよ、料理長の人参グラッセ。食べないなら俺が食べようか?
「おいちいよ」
「ん? ああ、そうですね。ですが、食べるのが勿体ないです」
そんなことをしていると、パクリと俺が食べちゃうぞ。この人は、俺にも丁寧な言葉を使ってくれるんだ。
ちょっと呆れながら、王の側近が取り分けている。一通り皿に取り分け、王に持って行く。
あれれ、プリンはいいのか? 仕方ないな、俺が持って行ってやろう。
フラン爺のお膝からピョンと降りてプリンを手に、トコトコと王の側へ行く。
「ん、これプリン。あま~くておいちい」
「アハハハ! そうか、ありがとう」
俺の頭をガシガシと撫でる。王は気の良い人だったと覚えている。
もちろん気が良いだけじゃない。旦那様が穏やかなだけじゃないのと同じだ。
この四公爵と王は、無駄に偉そうにはしない。虚勢を張る人種とは違うんだ。穏やかで皆人当たりがいい。
「ちびっ子、これはなんだろう?」
「ちびっこじゃねー、べるだ」
「おう、すまん。ベル、これだ。想像を絶する美味さだ」
フォークに肉をぶっ刺しているのは、土属性魔法のゲブソル・ティエーラだ。
髪は若葉のような明るいグリーン色の短髪で、瞳は土属性の茶色をしている。土がかかると、洗うのが面倒だという理由で短髪にしているらしい。
ちょっとだけぶっきらぼうで、一番言葉数が少ない。
フォークに刺しているのは、料理長特製のローストビーフだ。柔らかくて肉の旨味が最大限に引き出されている。
俺も料理長のローストビーフは大好きだけど、今はまだ食べられない。
「ちょれは、ローストビーフ。ちょーうまい」
「ああ、美味い」
「こら、ゲブソル。そればっか食うんじゃない!」
「シュートスにはプリンをあげよう」
「私だって肉は食べたいんだ」
「ワッハッハッハ! うちの料理長の料理は美味いだろう!」
フラン爺がちゃっかりベーコンエッグのサンドイッチを手にしている。あれは、俺も好きなのにな。早く食べられるようになろう。
「これは、美味いな。皆もいただくといい」
王がそう言った。いやいや、誰の弁当だと思っているのだ。何度も言うけど、旦那様の弁当だぞ。
まあ、たくさんあるから良いのだけど。肝心の旦那様は食べてるか?
「ベル、ありがとう」
「おー、いいじょ」
「わいのおかげやで」
「そうだな、ガンちゃんもありがとう」
ガンちゃんったらまた食べている。手に持っているのはなんだ? お花みたいに切ってあるじゃないか。
「フラン爺にもらってん。茹で卵や」
「へえ~」
「ベルは食べないのか?」
突然王に聞かれた。だって俺はまだ食べられそうもないから。




