52ー王と公爵
側近が深刻な表情で言った。
「陛下、これは大問題ですよ。転移などされたら……」
そりゃそうだろう。ホイホイ王城の中に転移されたら、暗殺だって可能になってしまう。俺はそんなことしないよ。
「ああ、分かっている。だが、ベルとガンちゃんは大丈夫なのだろう? ベル、この国に同じことをできる者がいるのか?」
「いねー」
「ベル、言葉に気を付けなさい」
「あ、だんなちゃま、ごめんなちゃい。いないとおもいまちゅ」
だって転移ができる使い魔を持っているのは竜族くらいだ。人の魔術師は自由に転移できるほどの魔力量がない。あらかじめポイントを決めて魔法陣を置いておかないと無理だ。
俺以外の竜族はこの国にはいないと思うぞ。同じ竜族がいたら、気配で分かるからな。エルフさんは対象外だけど。
「けろ、エルフしゃんはちらねー」
「ああ、エルフ族か。彼らは人の国には来ないだろう」
そうなの? そんなことはないと思うけど、まあいいや。
「だんなちゃま、おべんとー」
「ああ、ありがとう」
「フランヴァ、紹介してくれ。楽しそうな子じゃないか」
んん? お前誰だ?
「だれ?」
「ベル、私は今日誰と話すと言っていたか覚えているか?」
「おー、フランじいは、ほかのこうちゃくと、はなちゅって」
「その公爵家の当主方だ」
ふ~ん、ここに? んん?
「えっちょぉ……こうちゃく?」
「そうだぞ。今話をしていたところだ」
俺は旦那様のところに、弁当を持って来ただけなんだ。なのに、その話し合いの真っ最中に出てきてしまったらしい。
しかも王がいて、他の三家の公爵がいる部屋にだ。でもこれって不可抗力だから、怒らないでね。さあさ、もう昼だぞ。
「だんなちゃま、たべて。おべんとー」
「ああ、ベル。あとでいただくよ」
「フランヴァ、どんな弁当なんだ?」
「興味があるな」
「この大きさですから、皆で摘まむだけの量はあるでしょう?」
俺の知らない人たちが、口々に言ってる。だから、お前ら誰だっての。公爵と言ってもだな。
「ベルは覚えてないか?」
旦那様がそう言いながら紹介してくれた。
水を司る家系のヒュドール家当主、フォスヌン・ヒュドール。
風を司る家系のヴェント家当主、シュートス・ヴェント。
土を司る家系のティエーラ家当主、ゲブソル・ティエーラ。
そして、ラフィーナ王国国王、ナーティオ・ラフィーナその人だ。
とっても明朗快活な印象を受ける。俺とガンちゃんに興味津々といったところか。ずっと物珍しそうに見ている。
髪はゴールドで瞳はシルバー、どっちもキラキラしている。第2王子とはあまり似ているようには思えない。どちらかというと、第1王子の方が似ている。
この王も、王家に代々受け継がれてきた無属性魔法の才や、聖女の直系の子孫である王族たる所以とまで言われている魔力量の多さを受け継いでいる。その証とも言えるキラキラしたシルバーの瞳だ。
周りの公爵に急かされて、仕方なく旦那様は弁当の包みを広げた。料理長特製のお弁当だ。
「めっちゃ、美味そうやん!」
「ガンちゃん、ちゃっき、た《食》べたのに」
「ベルのん、ちょ~っともらっただけやん。わいはあんなんで、足らんっちゅうねん」
俺とガンちゃんがそんなことを話していると、周りの公爵や王がキョトンとしている。なんだ? どうした?
「ベル、その使い魔はとても流暢に話すのだな」
えっと? ああ、そっか。見た目はモモンガだから。そう聞いてきたのは、風属性魔法の家系の、シュートス・ヴェントだ。
「えっちょぉ、まモモンガだから」
「『魔』ということは、もしかして魔物なのか!?」
そう王が言った途端に、また控えていた騎士が腰の剣に手を掛けた。だから、止めてくれって。ガンちゃんは無害なんだから。
「わいの頭を見てみ? 立派な角が目に入れへんか?」
自分の頭を指しながら、小さなモフッとした胸を張っているガンちゃん。みんなガンちゃんに注目だ。
触りたくて手をワキワキ動かしているのは誰だ? 可愛いだろう? モフりたくなるだろう?
ガンちゃんは、余計なことを言わなくていいっての。
「なんでやねん! わいをそんじょそこらのモモンガと、一緒にしてほしないっちゅうねん!」
「ワッハッハッハ! なんだその言葉のイントネーションは!?」
「ガンちゃんのいちじょくは、みんなこう」
「一族は皆そうだと言ったか?」
「ちょうちょう」
「これ、ベル。だから言葉使いに気を付けなさい」
「あい、だんなちゃま」
また怒られちゃた。だって、俺にとっては王とかそんなの関係ないって。ま、この国に住んでいるから仕方ないか。
その間にも公爵たちは料理長が作ったお弁当を、各々思うものを食べていた。
本当に重箱みたいなのが三段もあった。どんだけ多めに作っているんだ。でもそれって旦那様の弁当だからな。
「だんなちゃま、たべて」
「ああ、ありがとう」
よしよし、俺の使命はもう終わったな。帰ろっかな~。早く帰ってお嬢と遊びたい。
「これ、美味いぞ」
「これは見たことがない飾り切りですね」
「この肉は……!」
ふっふっふ。料理長の飯は美味いだろう? 全部食べてしまいそうな勢いだ。
「私も食べるぞ!」
「陛下、何をおっしゃいます! 毒味をしておりませんのに!」
「毒味なら目の前で、公爵たちがしているだろうが」
まあ、そう言えるかな。王様の前だからと遠慮することもなく、思うままに食べている。
あんまり緊張感というものがないな。思っていた以上に気さくな雰囲気だ。
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