50ー焦ってる
邸に入ったら、親父とばったり。こう見えて、親父は執事なんてしているから、このお邸を仕切っている。今日は親父も忙しそうだ。
「ベル、どうした?」
「こばらがへった」
「ああ、料理長が何か作ってくれてるだろう。食べてこい」
「おー」
「ベル、旦那様だけどな」
なんだ? 仕事に行っているのだろう? それで王の時間が空いた時に、拝謁できるって言ってた。
「昼前に拝謁することになっている」
「ほ~」
「他三家の公爵家のご当主様とも、王城にあるそれぞれの執務室で会われるそうだ」
「なんら、じゃあフランじいも、おちろか?」
「そうだな。他のご当主様も職務があるからな」
それって、魔道具が必要なくね? もしかしてみんな一緒に会えたりして。その方が手っ取り早いかも知れない。
俺は料理長のところへ行こう。小腹が空いたら力も出ないってな。
トコトコと歩いていると、親父も一緒に付いてきた。
「ベル、飛べるのか?」
「おー、らくちょー」
「アハハハ、そうか」
親父ったら、やり直した今は安心だとか言っていたのに、本当は心配してるんだ。平静を装っているけど、気になって仕方ないのだろう。
今日が運命の日じゃあるまいし、前の時にお嬢が正式な婚約をしたのは2年先なんだ。そう心配しなくても、今日が駄目でも次があるさ。
「おやじ、ちんぱいねー」
「そうか?」
「おー」
親父と一緒に調理場へ入って行くと、料理長が何故か慌てていた。オロオロして調理場から出ようとしていたところだ。
「あ! ちょうどいい、ゲイブさん!」
「どうした、そんなに慌てて」
「旦那様が持って行かれなくて!」
なんだ? と思っていると、料理長がズズイと包みを出してきた。風呂敷包みじゃないのだけど、もっと綺麗な布で包まれた四角い物。なんだこれ?
「ああ、弁当か」
「そうなんッス! 今日はいつもより早く出られてしまってお渡しできなくて!」
ほうほう、旦那様はいつも弁当なのか。いいな、じゃあ俺が代わりに食べてやろう。小腹が空いたとこだし。
「りょうりちょう、おれがたべる」
「何言ってんだ、ベルのはそこに用意してあるぞ」
そこ? ああ、これか。お、今日はクロックムッシュだ。ラッキー。ハムをサンドしてあるじゃないか。
まともな食事になってきたな。ふむふむ。と思いながら、椅子に座ろうとするのだけど、俺ってまだチビだから。
「おやじ、ちゅわれねー」
「ああ、座らせてやろう」
親父にヒョイと抱き上げられて、座らせてもらう。料理長はまだテンパっているけど、俺はお構いなしで食べよう。モグモグと。
「ベル、美味そうやな」
「うん、おいちい」
ガンちゃんも食べる? と小さく切って前に出すと、パクリと食べた。
「美味いな! もっとちょうだいや」
「おー」
ガンちゃんと二人で食べていると、側にいたメイドさんが世話を焼いてくれる。ジュースを出してくれたり、俺のほっぺを拭いてくれたり。
悪いね、ありがとう。むさ苦しい親父に拭かれるより、良い香りのするお姉さんに拭かれる方がいいな。
「ベル、ガンちゃん、出番だぞ」
「えー、いまくってる」
「おお、わいもや」
な、美味しいもんな。モグモグと。
「ベル! なんだか分からんが、頼むよ。旦那様に届けてくれ!」
「えー、べんとう?」
「そうだ」
「おれ、いまくってる」
「アハハハ、食べてからでいいぞ。弁当は昼飯だからな」
「おー」
親父は落ち着いているのだけど、料理長の目が超焦っている。早く届けてくれないと、自分は何も手が付かないと訴えている。
仕方ねーな。ガンちゃん、食べた?
「え? わいまだ食べてるねんで」
「おれも、もうちょっとたべようっと」
「ベル! ガンちゃんッ!」
だからそう焦らなくても大丈夫だって。親父が俺だけじゃなくて、ガンちゃんもと言ったのには意味があるんだ。
ガンちゃんの能力を覚えているかい? そうだ、転移できるんだ。
ガンちゃんの視認できる範囲に限られるけど。それだけじゃない。ガンちゃんの認識している人のところへは、距離が関係なく転移できる。
親父はそれを知っているから、俺とガンちゃんにと言ってきたんだ。
俺が行かなくてもいいんじゃね? 俺はもう少し食べてるから、ガンちゃん行ってきて。
「なんでやねん! わいも食べるっちゅうねん!」
「あら、ちょう?」
「そうやで」
俺のクロックムッシュなのに、ガンちゃんが横から手を出してくる。まあ、良いのだけど。まだこんなに食べられないし。
二人で美味しくクロックムッシュを食べて、りんごジュースをコクコクと飲む。
「ごっちょーちゃん」
「美味かったな!」
「腹はふくれたか?」
「おー、おやじ」
「ベル、頼む!」
「おー、いいじょ」
仕方ねーな、持って行ってやるか。ガンちゃん。
「やっぱわいは、有能な使い魔やからな」
「ちょっと、だんなちゃまのとこまで、とんで」
「よっしゃ、まかせとき!」
「ありがとう! ベル、ガンちゃん、頼んだぞ!」
しかし、弁当が大きいな。三段の重箱くらいあるぞ。これって旦那様一人で食べるのか?
「いや、余分にある。いつも周りの人たちと一緒に食べておられるからな」
ほうほう、でもこの大きさは俺には持てそうもないぞ。親父、なんとかしてくれ。
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