45ー朝ごはん
「ガンちゃん、おなかちゅいたな」
「おうよ、料理長のとこ行こうぜ」
ベッドからのそのそと起き出して、着替えようとパジャマを脱ぐ。脱いだは良いのだけど、俺って今はちびっ子だった。
「えっと……あれれ?」
「アハハハ! なんや、自分で着替えられへんのかいな」
「だって、ガンちゃん」
やっとの思いでシャツに袖を通す。でもボタンが問題だ。この小さな手の短い指でどうすんだ?
いや、これってお手上げなんじゃないか? その時親父が部屋に入ってきた。
「おう、起きたか」
「おやじ、たいへんら」
「なんだ?」
「おれ、きがえられねー」
「アハハハ! ちびっ子だからな」
結局親父に着替えさせてもらって、顔を洗う。まいったね、着替えもできないのかよ。超不便だ。
「朝飯を食べに行くぞ」
「おー、おじょうは?」
「ああ、食堂で食べておられる」
親方は作れたのかな? あれが必要だとフラン爺は言っていたから。
俺は別になくてもいいんじゃね? て思うのだけど。ガンちゃんに行ってもらえばいいじゃん。
「ベル、それは言うたらあかんで」
「わかってる」
「ああ、親方は作ったぞ」
「ちょうなのか!?」
「朝食後にテストをするらしい」
「ちょれで、だめだったら?」
「いや、大丈夫だろう。親方はああ見えて、凄腕だからな」
「へえ~」
あれができたら、俺とお嬢の分も作ってもらおう。
それにあの三輪車も、もう少し改良したいし。ゴーカートみたいなのにできないかな~なんて思ってる。
どうしてかって? だってその方が、かっちょいいだろう? ふふふん。
どうせ魔石が動力なんだから、わざわざ足で漕ぐ必要があるのか? て思ったんだ。ハンドルを握って走らせるって、良いと思わないか? 親方に相談しよう。
親父と一緒に調理場へ行く。と思ったら、そのすぐ隣にある使用人用の食堂だった。
使用人は皆それぞれ都合の良い時間に食べる。調理場とは繋がっていて、トレイを持って行けばそこに乗せてくれる。学食みたいな感じだ。
ちょうどアイレが食べていたから、同じテーブルに座る。
「ベル、ここで待ってろ」
「おー」
すまないね、全部してもらって。俺はまだチビだから届かないし、トレイをちゃんと持って歩ける気がしない。
「ベルちゃん、おはようございます」
「あいれ、おはよー」
「あら、もしかして泣きましたか?」
「え……」
「ふふふ、瞼が少し腫れてますよ」
えー、マジかよ。どうしよう。思わず両手で目を隠す。
「それくらいなら、すぐにひきますよ」
「ちょう?」
「はい、大丈夫です」
俺はいいんだ。ちゃんと起きていて自分の意識がある時に泣いたから。
でもお嬢はそうじゃないだろう? ちょっと気になるから、こっそり聞いてみようかな。
「あいれ、おじょうらけど……よるにないた?」
「あら、知っているのですね。昨夜は大丈夫でしたよ」
「ちょっか」
ふぅ、少し安心した。毎晩じゃないんだな。お嬢は笑っているけど、一番傷付いているのはお嬢なんだ。
「昨日は、ブレイズ様やベルちゃんと遊ばれたから、疲れたのでしょうね」
あ、そうだった。思い出したぞ。ブレイズ様は抜け駆けしたんだ。ズルイよな!
「ベルちゃん、お嬢様とたくさん遊んでください。昨日はよく笑っておられましたから」
「おー」
いくらでも笑わせてやるさ。お嬢の笑顔は最高に可愛いからな! 天使の笑顔とはこのことだ。
「おじょうは、てんち」
「ふふふ、天使ですか」
「めっちゃかわいい」
「ベルちゃんも可愛いですよ」
「ちげー。おじょうは、てんちのかわいちゃ」
「ふふふ、じゃあ今日もたくさん天使の笑顔を見ないといけませんね」
「おー」
親父が両手にトレイを持ってやって来た。お腹が空いたぞ。
俺の前に置かれたトレイには、やっぱまだスープにパンを浸したものが乗っていた。それにフルーツだ。
「ええー、おれもう、ふちゅうのがたべたいのに」
「今日からパンがしっかり残っているそうだぞ」
「ちょう?」
「ああ、スープに浸してあるだけだと言っていた」
なら、いいか。そのスープもクラムチャウダーみたいで美味しそうだ。
それより料理長、俺のまで苺をハートに切らなくていいって。
なんだよ、この可愛い苺さんは。しっかりハート型に切った苺が並んでいた。しかもウサギさんのりんご付きだ。何を考えているのだか。
「親父、わいも食べるで」
「ああ、ガンちゃんのもあるぞ」
小さな器をガンちゃん用に置いた。ガンちゃんは超チビだから、テーブルの上に乗って食べている。
その小人さん用みたいなスプーンはどうした? モモンガって、カトラリーを使うのか?
そんなのあったのか? 料理長ったら、何を張り切っているんだ。
「まあ、可愛い!」
昨日初めてガンちゃんを見てから、アイレはガンちゃんがお気に入りだ。まあ、可愛いことは認めてあげよう。
「なんやねん、わいはカッコいいねんで」
「えー」
「ふふふ、ガンちゃんもベルちゃんも可愛いですよ」
「なんでやねん!」
はいはい、食べようね。アイレは先に仕事に戻って行った。きっとそろそろお嬢が食べ終わるんだ。俺もさっさと食べてしまおう。
「ベル、食べたら裏庭だ」
「おー。ためちゅんらな」
「そうだ」
大きなお口を開けて、モグモグと食べる。美味いね。今日はちゃんとパンも歯応えがある。
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