44ー辛かった
「アハハハ! また明日乗ればいいじゃないか」
「らって、ブレイズちゃまはみたんだじょ!」
「まあ、一緒に遊んでおられたからな」
なんだとぉ!? 一緒に遊んでいただとぉッ!?
俺は? 俺はここで、ずっとむさ苦しい親方を手伝っていたというのに!
「ちんじらんねー!」
「アハハハ! お前は本当に馬鹿息子だな!」
何嬉しそうに笑ってるんだよ。親父ったら、ちょっと安心しすぎじゃないか?
「ベル、俺は嬉しいんだ。お前が戻ってきて、皆さんご一緒におられて、前とは全然違っている。それがきっと良い結果をもたらすさ」
親父ったら、何綺麗にまとめてんだ。
親父と一緒に邸に戻った。親方はこのままの勢いで全部作ると言って作業場に残っている。明日、間に合うと良いのだけど。
それから俺は親父と一緒に夕ご飯を食べて、同じベッドで眠った。
「こうしてちびっ子のベルと、同じベッドで寝るのも久しぶりだな」
「おー……」
「疲れたか? 目が覚めてすぐに色々動いたから」
「ちょうじゃねー」
まあ、そりゃ目覚めてすぐ色々やったけど。でもそんなことじゃないんだ。
「おやじ、おれははやく、おおきくなりてー」
「ベル、それは仕方ない。こうしてやり直せるだけでもめっけもんだ」
「ちょうか?」
「ああ、そうだ。ベルのお陰だ」
そう思ってくれるなら、また奴隷になった甲斐があるってものだ。
親父が俺の頭を優しく撫でる。
「お前も辛かっただろうに……よく耐えてくれた」
「おやじ……」
ああ、そうなんだ。俺もあのお嬢を見ているのが辛かった。
あんなことになって腹が立った。怒りが激しい雷のように身体を駆け抜けた。
あの場で暴れることだってできたんだ。あの時、もう俺は成龍だったから。あんな城なんてドラゴンブレスを使うまでもなく、叩き潰せた。
でもそれはできなかった。旦那様が、奥様が、俺の手を握っているブレイズ様の気持ちが、苦しいほど伝わってきたから。
このままだと駄目だ。なんとかしないと。それしか考えられなかった。
俺の腕の中で、感情が抜け落ちた状態になっているお嬢を助けたかった。
「おやじ、ごめん。おれ……おじょうのちょばに、いなかった……!」
ギュッと手を握りしめ、身体を震わせながら言った。あの時親父に『悪い予感がする』と言われていたのに。
「ベル、自分を責めるんじゃないぞ。お前が機転を利かせてくれたから、こうしてやり直せてるんだ」
「けろ……けろ、おじょうはおぼえてる。きじゅちゅいてる!」
「ああ、昼間は笑っておられるが……」
俺がこの邸にきて皆の記憶を確認するまで、何も知らない親父は身動きできなかったらしい。
この記憶はなんだ? と疑心暗鬼だった。
だって未来の記憶なんだ。一体どうして? と思うだろう。だから下手に動けず、何も言えなかったそうだ。
その間、お嬢は夜泣きをすることがあったらしい。
突然、火が着いたように泣き叫ぶ。アイレが驚いて部屋に行き、大声で泣いているお嬢を抱きしめる。優しく声を掛けながら、背中をそっとさすって落ち着かせる。
そんなことがあったらしい。それを知って親父は、もしかして覚えておられるのでは? と思ったそうだ。
だが、俺が来るのを待った。下手に動いて、お嬢の気持ちが壊れてしまうことを恐れたんだ。
記憶にあった日に街へ出て俺を見つけた。ああ、この記憶は真実なんだと思ったらしい。
「あの時ベルを見て、確信したんだ。お前が何かしたのだろうと」
「おやじ、ごめん」
「謝ることはない。あの時の最良の判断だったのだろう」
「いや、それちかなかった……」
「そうか。これからお前がお嬢の心に寄り添えばいい」
「うん……」
俺は声を出さずに、静かに涙を流した。親父に気取られないように。
「ベルも辛かっただろう。よく堪えたな。偉いぞ、馬鹿息子」
「うぅ……ヒック。おやじ……うぇぇ……」
親父が俺を自分の腕の中に囲い、優しく抱きしめてくれる。頭を撫でてくれる。
俺はそこでやっと気が緩んで泣いた。俺も辛かったんだ。
あのまま城を壊してやりたかった。あの王子と、えせ聖女に報復してやりたかった。俺にはその力があった。
それをグッと堪えて、この家の人たちのことを最優先に考えた。幸せになって欲しかった。
俺が世話になった家だし、お嬢と一緒に過ごした時間は俺の宝物だったから。
その夜、俺はそのまま眠った。親父の腕の中で、やっと安心して眠れたんだ。
大人になった記憶はあっても、身体や気持ちがちびっ子に戻っていた。
ああ、本当に俺って戻ってきたんだ。このままじゃ、済まさない。ここから反撃だ。いや、まだ何も起こってないのだけど。
翌朝、起きたらもうベッドに親父はいなかった。
「ベル、起きたか?」
「あ……ぐしゅ、ガンちゃん」
「ほら、朝飯いこうぜ!」
ああ、昨夜泣きながら寝てしまったんだな。ちょっと瞼が重い。ホケーッと宙を見つめてしまう。
寝起きだからか動かない頭でも、これからどうなるのだろうと考えてしまう。
「まだ時間はあるんや。大丈夫や」
「ガンちゃん」
「ベルだけやない。みんなの力が合わさったら、でけへんことなんてないで!」
「おー」
ガンちゃんに励まされてしまった。ちょっと悔しい。
よし、もう大丈夫だ。ちゃんと自分の気持ちを受け止めた。吐き出した。自己嫌悪にも陥ったし、反省もした。
なら後は進むだけだ。ここからまた歩き出すんだ。
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宜しくお願いします。
ベルちゃん!!( ߹꒳߹ )




