40ーチャンスなんだ
「だからベル、お前はもっと考える方がいい」
「おやじ、ちょう?」
「ああ、そうなったら王家に反意を現したも同然になるのだからな」
もう、面倒だな。王家とかなんとかさ。いくら王家だって、あの第2王子があれなのだから、嫌がられても仕方ないじゃないか。俺はそう思うぞ。
だけどそれってこの家だけじゃなくて、この家に連なる家全部に影響があるってことだろう? それって一大事じゃないか。
「明日、私が王に相談してくる。第2王子の素行だけじゃない、王妃の強引なやり方にも前々から不満の声は上がっていた」
「ええ、あのお方は自分の思い通りにしないと気の済まない方ですもの」
「私用ならまだ良い。だが、最近では公用にまで口を出されるようになってきた」
ほうほう、俺はそんなこと全然知らないのだけど。何にしろ、お嬢があの第2王子と婚約しなければそれでいい。後は俺が嫁にもらうから。ふふふん。
一人にやける俺を見ながら、旦那様は少し悲しそうな表情をしながら言った。
「ベルがどこかの高位貴族の子息だったらな」
「あなた……」
「それはないなッ! なにしろベルだ。ワッハッハッハ!」
フラン爺ったら酷いな。俺は貴族らしくないか? ん、ないな。全く全然ないな。
だって俺は貴族があまり好きじゃない。奴隷だった頃に酷い目に遭わされているから。
「きじょくって、しゅきくない」
「ベル、それはお前が売られた貴族が変だっただけだぞ」
「おやじ、けろ、しゅきくない」
俺が親父に連れてこられた時の状態を思い出してくれ。あんなに酷い目に遭わされているのだから、どんなことをされたか想像できるってもんだ。
まだちびっ子の俺に、殴る蹴るの暴力を振るい挙句に返品だぞ。まあ、返品してくれたから親父に買われたのだけど。
おっと、なら俺って親父の奴隷ってことになるのか?
「おやじ、おれっておやじのどれいか?」
「何を言ってるんだ?」
「らって、おやじにかわれたから」
「お前は私の養子だ。馬鹿息子だけどな」
親父って旦那様たちの前だと『俺』じゃなくて『私』と言う。
そんなことにまで気を使えるなら、俺にももう少し気を使って欲しいものだ。お嬢との仲を取り持ってくれてもいいんだぞ。
俺と繋がっているガンちゃんが、呆れた顔をしているけど。
「ベル、お前そこから離れられへんのか?」
「だって、ちゅき」
「アハハハ! お嬢様のことか?」
決まっているだろう? 俺が『好き』といえば、お嬢しかいないじゃないか。
それより、おやつだ。アイレが用意して待っているぞ。そういえば、お嬢はブレイズ様と一緒に庭にいるのじゃないか? もう食べてるかな? 俺のラブを。
「おやちゅ、いこう」
「ああ、そうだったな」
「今日は何かしら?」
「|りょうりちょうとくちぇい《料理長特製》の、フレンチトーストとプリン」
「まあ、ベルのプリンね」
「ちょうら」
「楽しみだわ。美味しいもの」
「ああ、ベルのスイーツは美味いな」
「私もベルのスイーツは好きだぞ!」
はいはい、俺は作ってないけどね。口だけ出した。だってまだ身体も手も小さいのだもの。
皆で部屋を出ると、旦那様が俺をヒョイと抱き上げ歩き出した。
え、抱っこしてくれんの? 旦那様に抱っこされたことなんて、なかったと思うのだけど。
「ベル、また辛い思いをさせてしまったな。こんなに痩せて軽くなって」
「だんなちゃま、いいんら。おれが、かげんできなかったから」
「ベルがくれたチャンスを、無駄にはしないからな」
「おー」
「そうね、ベルがくれたチャンスだわ」
「ああ! 皆で乗り切るぞ!」
そうだよ、みんなでだ。俺はお嬢を守るけど、みんなで一致団結するんだ。
前の時のことを覚えているから、俺たちは有利なはずだ。同じ出来事が起こったとしても、冷静に対処できる。先手を打てることだってあるんだ。
あの時は緊急だったから、俺の一存で時を戻した。でもみんなが『チャンス』だと思ってくれるなら、またちびっ子になっても良かったと思える。
だけど今回はマジでもう死ぬかもって、思ったことは内緒だ。
「ベルー! お前いい奴やなー! わいは泣きそうやわ!」
そんなことを言うガンちゃんは、泣いた試しがない。いつも、キショイとか言うくせに。
「だってあれは、キショイって。まだ口に出せへんだけいいけどな」
「ちょうらろ? くちにはだちゃない」
お嬢にキショイと思われたらマジへこむし、しばらく立ち直れないかも知れないから。
「そうやな、思うだけにしとき」
「うん」
そんなガンちゃんと俺の会話を聞いていた旦那様が爆弾を落とした。
「だがベルは顔に出るから、どんなことを考えているのか分かるな」
「え、だんなちゃま、ちょれって、おじょうにもばれてる?」
「ネネは気付いていないだろう」
「ならいい」
「アハハハ、まあ頑張りなさい」
「おー」
ずっと旦那様が抱っこしてくれた。楽でいいやなんて思っていたら、親父の視線が痛かった。
こいつ、いつまで旦那様に抱っこされてるんだとか、思っているのだろう。だって楽だもの。俺ってまだ体力がないから。
庭の四阿に行くと、ブレイズ様とお嬢、それに親方も一緒におやつを食べていた。
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