39ー最終手段
俺はいつでもお嬢を思っているって、知っていて欲しい。
「おい、ベル。わいは泣けてきたで!」
どうした、ガンちゃん。涙は全く出ていないけどな。
「なんて健気なんや! お前やっぱキショイだけと違うんやな! ええ奴やな!」
何を言ってるんだ。ガンちゃんは俺の使い魔だろう? これから先もずっと一緒なんだ。
「おう! わいがちゃんとフォローしたるからな!」
「ん、たよりにちてる」
「任せとき!」
小さな胸をポンと叩いて、ケホッとむせている。本当に頼りになるのか?
料理長がデコレーションしてくれた、今回は初のプリンだ。フレンチトーストを一口サイズに切って、ホイップクリームも添えてある。
お嬢のには、もちろんハート型の苺付きだ。俺のラブだからな。
「よし、持って行こう」
「ブレイズちゃまは、うらにいるじょ」
「なら四阿にお茶の用意をしよう」
ほうほう、四阿か。それはいい。綺麗な花を見ながら、俺のラブを感じて美味しく食べて欲しいってもんだ。で、誰が持って行くの?
「私がお持ちしましょう」
アイレだ。いつの間にか調理場の隅で見ていた。お嬢の側に付いてなくていいのか? なんでいつもタイミングよくいるのだろう?
「午後のお茶の時間ですから」
ほう、そうなのか。あれか、アフタヌーンティーってやつか。お貴族様だもんな。
「強制的にお茶の時間にしないと、旦那様も奥様もずっとお仕事をなさいますから」
え、そうなの? 旦那様は分かるけど、奥様もそんな感じだったっけ? 覚えてないや。
そういえば、貴族院の婦人会副会長をしているとか言ってたな。それも辞める方向で進めているのかも知れない。
じゃ、おやつはアイレに任せよう。アイレとメイドさんたちが、お茶の用意もしてワゴンで持って行ってくれる。俺は一緒にトコトコと歩く。
「おれ、だんなちゃまと、おくちゃまよんでこようか?」
「ええ、お願いできるかしら?」
「おー」
よし、行こう。腹も膨れたし、二人を呼びに行こう。そう思って、取り敢えず旦那様の執務室へ向かう。
チビの俺が見ると大きなドアの前に立って、小さな手でコンコンとノックする。
「べるでちゅ」
「ああ、入りなさい」
旦那様の声がして、ドアが内側から開けられた。なんだ、親父はこっちに来ていたのか。フラン爺もいるじゃないか。みんなお揃いだ。
「ベル、どうした?」
「だんなちゃま、おくちゃま、おやちゅのじかんでちゅ」
「まあ、ベルが呼びに来てくれたの? ありがとう」
「あじゅまやれ、アイレがよういちてる」
あれれ、ちょっと空気が重いのだけど。みんなどうした? 深刻な顔をしているじゃないか。
「ベル……」
「あい?」
「私たちは不安で仕方がないんだ。またネネが辛い思いをするのじゃないかと」
「フランヴァ! だから今、私たちにできることをするしかないのだッ!」
「父上、それは分かってます」
「ベルもお茶会に参加できれば良いのだけど」
「え、おくちゃま、おれ、いくじょ」
なんだよ、当然行くつもりだぞ。俺はもう二度とお嬢の側を離れないと決めたんだ。
「ベル、それは無理だ。お前は何の立場もないだろう?」
「けろ、おやじ。おれはもう、おじょうのちょばをはなれない!」
そうだよ、こっそりと影からでも見守る。絶対に離れないぞ。そうだ、いいことを思いついた。絶対にバレない方法だ。
「ガンちゃん、おれもとうめいにちて」
「それは無理やって! しかも、わいの息が続く間だけなんやから」
「ちょっか」
ふむ、それなら空から見守るか? チビドラゴンになってさ。お城の上空でパタパタと飛んでいよう。いや、屋根の上がいいか?
「おれ、おちろのやねにいる」
「アハハハ! チビドラゴンになってか?」
「おやじ、わらうなって。ちょれちかないだろう?」
「いや、ベル。お前は一緒に馬車で行って、会場の隅で待機だ」
「旦那様、それは可能なのですか?」
「ああ、ベイル。皆、高位貴族の子だ。従者くらいはいる。ベルは従者として一緒に行ってもらおう」
なんだ、行けるんじゃないか。
「あなた、アイレではなくてベルですか?」
「アイレと一緒に行って、いざという時にネネを連れて逃げてもらおう」
「まかちぇろ! ぴゅーっとんでにげる!」
「ああ、そうしてくれ」
じゃあお嬢が、チビドラゴンの俺に乗る練習をしないとな! うん、お嬢を背負って飛ばないと! 俺は思わず拳を握った。
「ベル、変なことを考えてないだろうな」
「おやじ、ちちゅれいらな。じゅんちゅいなきもちだって」
本当に、失礼な親父だよ。だって練習しておかないと、いざという時にお嬢が怖がったら駄目だろう?
それにあの電動三輪車にも乗せたいし。いや、魔石で動くから魔導三輪車か。ふふふん。思わずにやける俺を見て、親父はため息をついていた。
「やっぱり変なことを考えているじゃないか」
「へんじゃねーって。いじゃというときにって」
「そうならないように、私たちが動くが……ベルに連れて逃げてもらうのは最終手段だ」
「おー」
なんか、カッケーな。俺って最終手段なんだって。まだチビドラゴンだけど。
「そうなったら、我が一族の身の振り方も考えないといけないな!」
え、そんな感じなの? あれれ? それってヤバイじゃん。
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