36ー取り敢えず掃除
「おやじ、せちゅめいちて」
「なんだ、面倒になったか?」
「らって、いちいちな」
「おう、仕方ないな」
親父に説明してもらった。聞く方と喋る方を別々にしようと。その両方に魔石を組み込めば、問題ないだろう?
その魔石をどう使うのか俺は全然知らないのだけど。とにかくこの世界で、超便利な万能アイテムである魔石が必要なことは分かる。
「ふむふむ、なるほどな! ベル、それを作ってみるぞ!」
ええー、今からかよ。どうせ、王都には魔石を設置していないから使えないんだしさ。
「親方、それを作ってもここでは使えないのだろう?」
そうそう、ブレイズ様の言う通りだ。今回はガンちゃんに伝達役をしてもらって、我慢しようぜ。
「ベル! 我慢ってなんやねん! わいはまだ協力するって言うてないで!」
「ガンちゃん、ちょんなこという?」
「いや、やったるけどな!」
「ありがと!」
ほら、ガンちゃんもこう言ってるし。明日はそれでいいんじゃね?
俺はとっくに諦めてたんだけど、親方はそうじゃなかった。
「これじゃなくてな、もう少し大きくなっても良かったら魔石を設置する必要がないんだ」
「え? 親方、必要ないのか?」
「ブレイズ様、そうなんだ。ブローチ型にしてるのは奥様の希望なんだ。どうせ大旦那様は失くすか持って行かないと言うから、ブローチにして旦那様の服に着けるようにしたんだ。だから本体に大きな魔石を使えなくて、領地に中継する魔石を立てる必要があったんだ」
なんですと!? ならそれでいいじゃん、何言ってんだよ。
「きっとお祖父様は、面倒だと言って持って行かないんだ」
大奥様の苦心の作ってわけか。けど、親方が今話してた物が使えるんじゃないか?
「おやかた、ちょれでいいじょ」
「そうか?」
「おー、あるのか?」
「あるぞ、試作品だけどな」
なんだよ、なんだよ。あるんじゃないか。親方が側に置いてあった小汚いズタ袋の中から、ゴソゴソと取り出した。
それを見て俺は参ったよ。いやいや、マジで。
「おやかた! これでいいじゃん!」
「そうか? そう思うか!?」
「おー! じぇんじぇんいいじょ!」
前世で例えるなら、無線マイクが別にあるヘッドセットだ。アンテナみたいに少しだけ細く出ている箇所があって、喋るところと聞くところがそれぞれにある。
そのどちらにも魔石を使えば問題は無くなるんじゃないか? 連絡を取るくらいならこれで十分だろう。
「話す方は変わらないんだ。でもこれは声が聞こえてくる方を、耳にかけるようにしてある。そこから声が聞こえてくるんだ」
「ちゅげー!」
「ガッハッハッハ! スゲーだろう!? ワシは凄いんだ!」
さっきまで、俺みたいなちびっ子に縋りついていたくせに、もう自慢げに胸を張っている。
親方って単純だな。親父もこれくらい単で素直になる方が良いぞ。
「ベル、なんだ? なんで俺を見る?」
「親父も素直になれって思ってるんや」
こら、ガンちゃん! そんなことは言わなくていいって!
「わいは、超素直やからな!」
何を言ってるんだ。そんなの素直って言わないんだ。チクってるって言うんだぞ。
「なんでやねん! わいはそんな卑怯なことはせーへんわ!」
まあ、いいや。脱線しちゃったけど。とにかく明日はそれでいいだろう。
「おやかた、ちゅかってみたいじょ」
「そうか? じゃあ、ベル。ちょっと離れろ」
「おー」
親方に貸してもらって、俺はトコトコと今いるお邸の裏側から表に行こうとした。
「ベル、そんなに離れたら届かないぞ!」
「え……」
ちょっと待った。そうか、そこを確認していなかった。悪い予感がするけど、一応確認しておこう。
「おやかた、これってどれくらいのきょりで、ちゅかえるんだ?」
「だから試作品だと言っただろう? すぐそこだ」
「ええー……」
せっかく良いじゃんと思ったのに、これだよ。俺の喜んだ気持ちを返してほしい。
そんなの使い物にならないじゃないか。大きな声で話す方が早いじゃん!
「親方、駄目だね」
「だから、ブレイズ様。試作品なんだ!」
それにしてもだ。何が駄目なんだ? やっぱあれか? 魔石か? パワー不足なのか?
「いや、だから試作品なんだ。両方に魔石をはめ込むようにして、魔力回路をもっとしっかり組み込まないと距離は出ねー」
「じゃあ、ちょれをやって」
「そう簡単にいくかよ! 魔力回路組み込むのもずっと魔力を流しとかないと、なんないんだぞ! ワシはそんなに魔力がもたねーっての」
「ちょのまりょくながちゅの、おれがちゅる」
「お? ベルがか?」
「おー」
俺の魔力量は膨大だからな、ドワーフの親方に比べるとアリとドラゴンだ。
「よし! なら今から始めるぞ!」
「親方、先に作業場を掃除しないと使えないぞ」
「じゃあ、さっさと皆で掃除だぁッ!」
じゃあ、俺はオヤツをもらいに行こうっかな~っと。
「ベル、どこに行こうとしているんだ!?」
「ブレイズちゃま、おれはこばらがちゅいた」
「ワッハッハッハ!」
また親父が笑っている。親父ってこんなに笑い上戸だったっけ?
「ブレイズ様、手伝いを寄越しましょう。ベルはまだ体力がないです」
「そうだね、仕方ない」
「ガリガリだからか!?」
「親方、そうなんだ。俺が奴隷商から買ってきて今日目覚めたとこなんだ」
「奴隷商ってか!? 竜族がか!?」
「ワッハッハッハ! だから馬鹿息子だ」
「確かにそれは馬鹿息子だ! ガッハッハッハ!」
人のことをネタにして笑うのは止めろ。
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