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溺愛は最上級爆裂魔法のあとで〜ちびっ子従者は運命を巻き戻す〜  作者: 撫羽


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29ーお嬢と俺の物語 7

 まだ3歳だというのに、そんなことを言われるなんてな。一体どんな子供だったんだって話だ。

 旦那様が王城で働いていたこともあって、それをよく知っていた。だから必死で抵抗されたんだ。旦那様と奥様が二人で、それこそ一族全員で領地に帰ろうとまでされた。

 第2王子がどういう人柄かも問題だけど、旦那様たちはそれ以上にこんな小さな頃に婚約を決めるつもりは毛頭なかったんだ。

 しかも王家だ。自分の娘が苦労するのが目に見えている。

 王家と縁をと願う親もいるだろう。貴族なのだから王子殿下の妃の地位を狙っている家はある。

 だけど旦那様たちはそうじゃなかった。

 貴族だから仕方ないこともあるが、それでも自分の娘が少しでも苦労しないようにと。お嬢自身が信頼できる子息の元へと、そう考えておられた。

 だけど婚約の辞退は受け入れられなくて、お嬢が5歳の時に正式に決まった。3歳から5歳までの2年間、一族中で抵抗されたのに王妃がごり押ししたんだ。


「王家の意向に逆らうつもりですか。もしや謀反の意でも?」


 そう言われた。そんなことを言われて、それでも抵抗するとどうなるものか分かったものじゃない。

 この家だけじゃない、親戚縁者大勢の人の生活がかかっている。

 どれだけ悔しい思いをされたことだろう。お嬢もどんな気持ちで決意したのだろう。そう思うと胸が痛くて仕方なかった。


「ベル、もうお嬢を嫁にするとは言ってはいけないぞ」

「おやじ、こんやくちゃ(婚約者)にきまったからか?」

「そうだ、王家に反意があると思われてはいけない」

「なんれだよ、おじょうはきっと、いやだって!」

「それも口に出しては駄目だ」

「おやじ!」

「お嬢さまやお家のためだ」


 その日の夜、俺は我慢できずにお嬢の部屋に忍び込んだ。

 バルコニーのある大きな窓にドラゴンの姿で飛ぶと、ビタッと窓に張り付いて尻尾でコンコンと叩いた。

 カーテンが開けられ、そこに小さなお嬢が立っていた。

 チビドラゴンの姿で張り付いている俺を見ると、クスクスと笑いながらすぐに窓を開けて中に入れてくれる。

 もう灯りが落とされたほの暗い部屋でお嬢は一人何をしていたのだろう?

 部屋に入ったチビドラゴンの俺を、お嬢はギュッと抱きしめた。月明りに光るお嬢の白銀の髪が揺れる。

 まるで前世の映画のワンシーンのように、俺の心に焼き付いている。

 ポポンとちびっ子になった俺は、お嬢を抱きしめ髪を優しく撫でた。

 ああ、俺がもっと大人だったら……ちゃんと成長したドラゴンだったら、お嬢を連れて逃げるのに。


「ベル、聞いたのね?」

「お嬢、いいのか?」

「わたしには、どうしようもできないわ」

「けど、お嬢!」

「だって、王家からの申し入れですもの」

「そんなこと、聞いてねー。お嬢は、どうなんだって聞いてんだ」

「ベル……」


 この時、初めてお嬢の涙を見たんだ。ポロリと一筋頬を伝った涙を。

 月明りで辛うじて見えたお嬢の涙を、俺は一生忘れられない。

 キュッと唇を強く結んで、静かに涙を流したお嬢。


「わたしは、公爵家の娘なの。貴族の令嬢なのよ」


 涙を流しながら言った表情を見て、俺はもう言葉が出なかった。

 俺がお嬢を連れて逃げて、それで済む話じゃないんだって理解した。

 お嬢は華奢な肩に、たくさんの人の運命を背負って決断したのだと。なら、俺にできることは一つだけだ。


「お嬢、おれはずっと側にいる。おれの全部でお嬢を守る」


 そう言って俺はお嬢を自分の腕の中に囲い込んだ。このまま離したくない。

 まだ5歳だぞ。どこの世界にまだ5歳の女の子が、家のことを考えて自分の未来を我慢するなんてことを決心できるんだよ。

 俺が5歳の頃なんて、なんも考えてなかったぞ。ただフラフラ~とガンちゃんと一緒に空を飛んでヘラヘラ笑いながら喜んでたぞ。


「ふふふ、心強いわ。ねえ、ベル。わたしのお願いをきいてくれない?」


 その夜、俺は初めてお嬢を背中に乗せて飛んだ。

 それまで何度も乗ってみたいと言われていたけど、危険だから駄目だと頑なに断っていた。

 初めて会った頃よりほんの少し大きくなったドラゴンの背中にお嬢を乗せ、夜の空に飛び出した。

 飛びながらお嬢が危なくないように、シールドを展開し落ちないように魔法で身体を固定する。

 黒い翼を動かして、月夜の中をゆっくりと飛ぶ。綺麗にまん丸の月が出ていて、空一面に星が宝石のように煌めく夜だった。

 すぐにお邸や王都の街並みが眼下に見える。怖がらないか? と、俺は心配だった。

 まだ大きなドラゴンじゃないから、お嬢を背負っているみたいになっちゃうんだけど。

 俺の首に両手を回しているお嬢が大きな声で言った。


「ベル! すごいわ! ステキ! なんて綺麗なんでしょう!」

「キュィ!」

「ふふふ、ベルも綺麗ね。漆黒の鱗がキラキラしているわ。それに温かいのね」


 当たり前じゃないか、俺は生きているんだ。


「ベルの温かい背中を忘れないわ」


 そう言ってお嬢は俺の背中を撫でていた。

 大きな丸い月に浮かぶチビドラゴンのシルエット。それにお嬢の長い髪が靡いている。星の煌めきに負けないくらい綺麗だ。

 俺は月明りの中を悠々と飛び、王都上空を一周した。

 お嬢が俺の首にトントンと合図するから、お邸に戻ってきた。フワリと部屋のベランダに降りる。


「ベル、ありがと。一生忘れないわ」


 まだ頬の涙が乾かないのに、お嬢は俺に微笑んだんだ。天使……いや、女神かよ!


お読みいただき有難うございます!

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