28ーお嬢と俺の物語 6
「ベル、どうしてだ?」
「ちらねー」
「なんだ、お前は分かっていてやったんじゃないのか?」
「らって、ドラゴンはちょんなのかんがえねー」
「まあ、そうだが」
「ときどき、だちゅのがいいみたいだな」
「なるほど」
俺たちの会話を聞いて、やっとブレイズ様が気付いた。そして自分の両手を見て、またポロポロと涙を流した。
「僕は……僕はもう人を傷付けなくて良いのか……?」
「ブレイズ様、どうしてなのかは分からないそうですが、時々こうしてベルに消してもらうのが良いみたいです」
「ベル、頼めるか? 僕がもっと魔力制御を覚えるまで」
「おー、いいじぇ」
「アハハハ、生意気だ」
笑いながら涙を流すブレイズ様。そして離れたところで、涙を流しながら見ている従者を呼び寄せた。
「シリー、いつも火傷をしていたのに、ずっと僕に付いていてくれてありがとう」
「ブレイズ様、何をおっしゃいます!」
シリーと呼ばれた従者も良い子だ。火傷を負いながらも側にいたんだ。この子がいなかったら、もっと寂しかっただろう。
ブレイズ様と一緒になって泣いてくれる子がいてくれて良かった。
敢えて水属性魔法が使える従者にしたらしい。水の障壁で身を守れる。それでも急に出た火には対応できずに、火傷を負う。そんな感じなのかな?
「すまない、本当にごめん」
泣いている従者の手を恐々取り、謝っている。結局二人して泣いてるんだ。
このブレイズ様の従者はヴァシリー・アクスといって、皆からシリーと呼ばれていた。
淡いブラウン色の髪にスカイブルーの瞳をしているから、そこそこ水属性魔法が使えるのだろう。
このシリーは、アクス伯爵家の次男だった。
実家が管理する領地が水害で没落寸前まで財政困難に陥った時に、旦那様が援助し持ち直したらしい。
今から4年前、まだ6歳の頃にブレイズ様の従者になった。ブレイズ様より2歳上だ。
実家を支援してもらったことを恩に思っていることもあるが、ブレイズ様の境遇を不憫に思い自ら従者にして欲しいと名乗り出たらしい。
それからブレイズ様を実の弟のように接して、献身的に支えている。
「良かったです! 本当に良かった!」
「まだ魔力制御ができたわけじゃないがな」
大丈夫だぞ、しばらく火は出ないぞ。
「ベル、ブレイズ様の魔力量が見えるのか?」
「おー、まがん」
「お前、魔眼を持っているのか」
「ドラゴンらからな」
「いや、ドラゴンでも魔眼を持っているのは珍しいだろう?」
「ちょうか? おれのかじょくはみんなもってる」
ま、そんなことはどうでもいい。とにかく今のでしばらくの間は火が出ることはない。さて、それとだ。
俺は従者の側に歩いて行き小さな手を翳すと、光が従者を包み込んだ。
「あ……痛くない」
「ベル、もしかして回復魔法か?」
「ちょうら。なおちた」
「ありがとう! ベル、ありがとう!」
フワリとブレイズ様に抱きしめられた。俺を腕の中に閉じ込めながら、ブレイズ様は泣いた。胸の中にあったものを吐き出すようにしばらく泣いた。
それからのブレイズ様は、魔力制御の習得が早かった。
俺が何度もブレイズ様が出す特大の炎を消していた。最初は一日に何度も、それが一日に一度になり、二日に一度になり、一週間に一度になりと、どんどんその間隔も開いていった。
今まで何年掛かってもできなかったのに、この後たった1年で魔力制御を完璧にマスターした。
身体の中から無限に渦巻き生まれてくる魔力を、一度空にしたのも良かったのだろう。なにしろずっと魔力が多くて抑え込んでいた状態だったから。
「溜まっていく感覚が分かるようになったんだ」
「ブレイズ様、それは素晴らしいです! 天才ですか! 僕はそんなの全然分かりません!」
持ち上げるのも上手なシリーだった。
シリーと二人して庭に出ることもできるようになった。ただし、最初の間は俺も付き添っていたけど。
それまで危険だからと実際に会うことが叶わなくて、窓越しにしか見ることができなかったお嬢と対面した時のブレイズ様は笑えた。
「シ、シ、シリー、うちには天使がいるのか!?」
「ブレイズ様、落ち着いてください! 確かに天使のように可愛らしいですが、妹のネネ様ですよ!」
「あ、ああ! ネネ! お兄ちゃまだぞ!」
なんて涙を流して抱きしめていた。自分の妹を天使ってどうなんだ? しかも顔がそっくりなのに。俺はその時ちょっと引いたね。
「ブレイズちゃま、きっしょ」
「ば、ばか! ベル! 何を言う! 今まで会えなかったのだ! 当然だろう!」
「まあ、おじょうはてんちらけろな!」
「そうだろう!」
そんな出会いをしたブレイズ様なのに。俺が世話をしてやってたのに。
「ベルにネネはやれないぞ!」
「おじょうはヨメにちゅる」
思い返せば、戻す前の時から俺はお嬢をヨメにすると言っていたみたいだ。
この頃はまだお嬢が第2王子の婚約者には決まっていなくて、周りの大人も俺たちを微笑ましく見ていた。だけど、例のお茶会で空気は一変した。
その日のうちに王家から第2王子の婚約者にと知らせがあった。
だがその頃から第2王子の評判は良くなかった。あの頃から第2王子は勉学はできる、ある意味神童だと。
だけど、人の心が分からない人だと言われていた。覚めた子供だとも。
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「きっしょ」なんて言うちびっ子はお嫌いですか?(^◇^;)




