26ーお嬢と俺の物語 4
「それなら、無理か……」
親父が残念そうな顔をして言った。
「まだ子供なのにご家族と離れて暮らしておられて、使用人も近づけない。寂しい思いをされているだろう」
ふむ、家族と離れているのは可哀そうかな? なんてほんの気まぐれだった。
「おれが、あちょびにいこうか?」
「ベルがか?」
「ちょうら、おれなら、ひはこわくねー」
「なるほど、一度お会いしてみるか?」
「おー、いいじょ」
親父に邸の裏にある、小さな別邸に連れて行かれた。
他の建屋とは見るからに違う。本邸の小型版とでもいうのか? 小さいけど小綺麗な邸だった。ここにその兄という人が住んでいるのか?
そこで初めてブレイズ様に会ったんだ。第一印象は、なんて小生意気なガキなんだって思った。こいつとは気が合わないってさ。
だって階段の上で腕を組んで俺たちを見下げていた。少し離れたところに従者らしき少年がいて、腕に包帯を巻いていた。
あれ? 怪我してんのか? 俺、治そうか? なんて思っていた。
「爺、そんなちびっ子を連れてきたら、僕は怪我をさせてしまうぞ」
「ブレイズ様、こいつはベルといいます。先日私が保護しました。普通の人ではありません。まだちびっ子ですがこれでも竜族です」
「なんだと……!? まさか竜族がこの国にいるわけないだろう」
「それが奴隷商に捕まっていたのです」
「は!? それこそ嘘だ。最強種が奴隷商に捕まるなんてバカを、するわけないじゃないか!」
すまんね、そのバカなことをしたのだ。俺は来たくて来ているわけじゃないし、そんな生意気言うなら帰るか? と親父を見た。
「ベル、今日はブレイズ様と一緒にいろ」
「えー、おやじ」
「爺、だから僕は怪我をさせてしまうと言っただろう!」
ブレイズ様が大きな声を出すと、周りに火がボッと現れた。ああ、こういうことか。なんだ、制御ってそういうことなのか。
俺はそこでやっと制御できないという言葉の意味を理解したんだ。
偉そうに階段の上にいたわけじゃない。親父と俺に怪我をさせないように、距離をとっていたんだ。
ブレイズ様の感情が高ぶると、火が増える。周りに火の玉が何個か出ていた。それを自分でなんとか消そうとしているブレイズ様。
それは無理だ。無意識で出るのだから仕方ないだろう。誰も悪くない。
なのに小さいとは言っても、広いこの別邸で子供が一人で寝起きしているのか? きっと外にも出てないんだ。だって俺が毎日外に出ていても、会ったことがないから。
「おやじ、ちゃがってろ」
「ベル、何するんだ?」
まあ、いいから見てろって。
俺はトコトコとブレイズ様に近付く。そんな火なんて怖くもないし、もし当たっても熱くもない。
「く、来るな! 見えないのか!? 火で火傷するぞ!」
ブレイズ様が狼狽えると、それに反応して余計に火が出てしまう。
ま、俺にはそんなこと全然影響ない。だけど、俺は平気だと分からせてやろう。
近づきながら、小さな手を火に向ける。そう、ただ向けただけだ。それだけで、ボッと音をたてて火が消える。
「え……!?」
面倒だ、まとめて消してやろう。ボッボッボッとブレイズ様の周りに出ている火を全部消した。
「もっとだちても、へいきだじょ」
「お、お前、今何をしたんだ!?」
何をしたと聞かれても、説明できないから困ったもんだ。
「きえろって、おもった」
「はぁッ!? そんなことで火が消えるわけないだろう!」
今、目の前で消したじゃないか。自分の眼で見たことなら信じられるかと思ったんだけど、人ってそれも疑うのか? 分からなくて、親父を振り返った。
「なんだ?」
「いま、みたのに、ちんじられねーの?」
「ああ、そういうことか。そうじゃないぞ。まさかそんなことができるとは、思ってないんだ」
「ほう。けろ、おれはドラゴンだからな」
親父と俺の会話を聞いていたブレイズ様は、混乱したのだろう。さっきより大きな炎がボゥッと出た。
離れていた従者がもっと距離を取る。ああ、そっか。あの子の包帯はこれの火傷か。それは怖いだろうな。俺が後で治してやろうなんて、呑気に考えていた。
「いいから出て行け! 僕は誰も傷つけたくないんだ!」
「だから、きじゅちゅかねーって」
「な、なにを言ってるんだ!?」
俺はまた手を出して炎を消す。呆気に取られているブレイズ様に言った。
「もっとでっかいのを、だちてもへいきだじょ」
「爺、こいつは何なんだ!?」
「ブレイズ様! ですから竜族なのです! ドラゴンです!」
「本当なのか……? お前は僕の炎が平気なのか?」
「おー、へいきだ。なんともねー」
その時、ブレイズ様の眼からポロポロと涙が流れた。眉を下げ、苦しいような信じられないような表情をしながら、声も出さずに涙を流している。まだ子供なのに、ずっと我慢していたのだろう。
「おやじ、いちゅからここにいるんだ?」
「ずっとだ。お生まれになってからずっと」
なんだって? 正確に言うと、人は大半の人が生後半年くらいから魔力が増え出すらしい。
それは普通は緩やかで、何年もかけてその人の許容量を満たし身体に馴染んでいく。
だけどブレイズ様は違った。どんどん増える、その上許容量まで増える。身体に馴染む暇もなく増える。
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