22ーフラン爺の計画
ずっと逃げているのなんて、負けたみたいでムカつくから嫌だ。
「いくとちても、ちょびっとだけだ。ブレイズちゃまも、いっちょにいく?」
「僕か? そうだな、父上が許してくださったらそれも良いな」
これでもブレイズ様は嫡男だ。前の時には魔術師団に入団していたが、それは旦那様が元気だったから。
それにこう見えて、ブレイズ様も頭がいい。アカデミーと呼ばれる学校へ通っていた時に、旦那様から領地経営を教わっている。いつ何が起こっても良いようにだ。
旦那様だって国防大臣を務めながら、領地経営をしている。奥様が手助けしていることも大きいけど、親父だって手伝っている。
え? ならみんなで行けばよくね? 離れた場所から領地経営ができるのなら、いいんじゃね?
「みんなれ、いく?」
「馬鹿、それは無理だ」
「ちょうかな?」
下手に誰かが残っている方が、何かと言ってこられそうじゃね?
「だれかのこってたら、おうひとか、なんかいってきちょうだじょ」
「そうだな、それもそうだ」
まあ、父上と母上に相談だと言って、部屋を出て行こうとする。いや待って、俺も行くって。作戦会議だぜ。
「ベルはお祖父様が呼んでいたぞ」
「え……」
マジで? フラン爺が? まさか鍛練だとか言うんじゃないだろうな。それはちょっと……おっと、俺ってば、まだ体力がないからフラフラするんだ。ベッドに戻ろうかな~。
モゾモゾとベッドに戻ろうとした俺に、ブレイズ様が追い打ちをかけてきた。
「お祖父様が待っているぞ」
「ええー」
「ちゃんと自分の能力を見極めてこい。それもネネを守ることに繋がるんだ」
時々、尤もなことをいうブレイズ様だ。
「ちかたねー」
ブレイズ様に言われた通り、フラン爺に会いに行こう。
1階に降りると庭に出る前から、フラン爺の声が聞こえてくる。
「まぁだまだぁーッ! もっと思い切りかかってこんかぁーッ!」
ああ、張り切ってやってるよ。相手してるのは、アイレだろうな。そう思いながら、声のする方へトコトコと行く。フラン爺の大きな身体が見えてきた。
「もう一回ッス!」
「おう! 良い根性だぁーッ!」
フラン爺と体術の鍛練をしていたのは、なんと料理長だった。
えっと、この家って、料理長まで鍛練するのか? 強いのか? もしやあの料理長も戦うシェフなのか!?
「おう、やっと出てきたか」
側で見ていたのは、肩にガンちゃんを乗せた親父だ。なあなあ、ガンちゃん。何か食べるって言ってなかった?
「だって料理長が、フラン爺と鍛練してるんやもん」
「ちょっか」
「大旦那様が、お前を見ておきたいとおっしゃっていたぞ」
「うん、ブレイズちゃまからきいたから、きた」
「おう、お前にしては素直に来たじゃないか」
「だって、ちょれも、おじょうをまもるためだって、ブレイズちゃまにいわれた」
「アハハハ、そうか。その通りだな」
「なあなあ、ベルよぅ。お前ちびっ子になってしもてるから、体術なんてでけへんやろ?」
「わかんねー」
だって俺は目を覚ましたばかりだからな。何がどうなっているか、全く分からん。
「よぉーしぃッ! よく鍛練しているぞぉーッ!」
「はいッ! あざーッしたッ!」
料理長の鍛練は終わりらしい。身体ごと、グインと向き直ってフラン爺が俺を見た。そしてビシィッと指をさされた。こらこら、人を指さすんじゃない。
「ベル、お前がキーマンだぁッ!」
「え……?」
いきなりちびっ子に何を言ってるんだ? と俺はキョトンとしてしまった。意味が分からない。
「お前の能力がどれくらい使えるかが、重要なポイントだと言っているんだッ!」
それ以前に旦那様と奥様が、どうやってお嬢の婚約を回避できるかだろう?
フラン爺がいつもとは違う真剣な面持ちで俺を見た。しゃがみ込み俺と目線を合わせて、改まった声で言った。ガシィッと両肩を掴まれちゃっているけど。
「ネネと王子との婚約は、回避できないだろうと私は覚悟しておる」
「フランじい、ちょんなことねー!」
「最悪を考えておくのは必要なことだ」
フラン爺も前の時に、どれだけ王妃が強引にお嬢との婚約を進めたのかよく知っている。その王妃のお嬢への執着だ。
公爵家の令嬢であること。
他の公爵家に第2王子と歳の合う令嬢がいないこと。
旦那様が国防大臣をしていたこと。
なにより、お嬢の能力が高いこと。
これが、王妃のお眼鏡にかなってしまった。
そして俺が思うに、お嬢は誰が見ても美人さんで頭も良い。それも気に入ったのだろう。
王妃の気持ちも分からなくもない。自分の息子の後ろ盾になるように、力のある家をと願うのは当然だろう。
しかも第2王子を補佐できる能力があるとなると、何がなんでも手に入れたいと思うのだろう。
「あの、おうひだな」
「そうだ。あのお方は、自分の意見を通そうと躍起になるだろう。自分が望んだものを何がなんでも手に入れようとされる。だから、王妃より上の人を囲い込む」
「おうか!?」
「そうだ。明日、謁見の許可をもらった」
「フランじい、ちゃちゅがだなッ!」
「いや、私はそこまでだ」
「あー! ちょうだったぁーッ!」
思わず俺は頭を抱え込んでしまった。そうなんだ。フラン爺は相手の気持ちを読んだり、交渉したり根回ししたりが苦手なんだ。
じゃあ、今頃旦那様が段取りをつけているだろう。
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