17ーお嬢の乳母
お嬢は苺が大好きなんだ。瞳もストロベリーレッドだし。て、関係ないけど。
苺をハートの形に切って、俺のラブを伝えたい。普通に並べるより、可愛いだろう?
良い匂いがしてきた。えっと、一人二枚ずつと考えて、何枚焼こうか?
「お嬢様と奥様と旦那様とブレイズ様に、大旦那様もいらしたか?」
「ちょうら、おれもほちいじょ」
「アハハハ、そうだな。俺も食べたいな」
結局みんなの分と俺と料理長の分、それでも生地が余ったから全部焼いてしまう。厨房のみんなも食べたがっているし。
温かいうちに持って行こうぜ。俺は持って行けないけど。
「私がお持ちしましょう」
「ありがちょ」
最初から調理場の隅で気配を消して待っていた、お嬢の乳母のアイレ・バッヘムだ。
オレンジ色の髪をいつもお団子にしていて、イエローグリーン色の瞳をしている風属性魔法の使い手だ。
その風魔法を使って、さっき飛び散ったパンケーキの生地が自分に付かないように風の障壁を展開していた。
魔力の無駄使いのいいとこだと俺は思う。いや、それは生地を全部飛ばしちゃった俺か?
そのアイレは、乳母といってもまだ若い。奥様より年下らしい。
お嬢が生まれる前に、自分の赤子が流行病で亡くなり、それが原因で離縁された。その頃に奥様から、乳母として声を掛けてもらったと前の時に聞いた。
母乳も出て、お嬢の乳母に丁度良かったのだろう。アイレも自分の子供のように、お嬢を育てている。
乳母といっても貴族の令嬢だったから、ちゃんと教養もある。今はお嬢に勉強も教えているはずだ。
だけど、今のお嬢は前の時の記憶があるから、勉強なんて必要ないだろうな。
「おれ、べる」
「はい、ゲイブさんから聞きましたよ。ベルちゃんですね」
いやいや、『ちゃん』て。やめてくれ。こっ恥ずかしい。
「べるでいい」
「あら、可愛いのですもの、ベルちゃんで」
まあ、仕方ない。なにしろまだちびっ子だから。いや、このアイレは前の時に俺が成長しても『ベルちゃん』と呼んでいたぞ。
前に聞いたことがあるんだ。赤ちゃんが亡くなったのは病なんだから仕方ない。
なのに離縁されて腹が立たなかったのかってさ。そしたら意外な答えが返ってきた。
「お医者様がどうしようもないことだと、おっしゃったのです。なのにそれを理由に、一方的に離縁を言い渡されました。旦那様や姑のことも好きじゃなかったので、思わずグーパンをお見舞いしてしまいました。ふふふ」
な、びっくりだろう? グーパンだぜ。そこまでする理由がきっとあったのだろう。
「だって旦那様には外に愛人がいたのですよ。しかも妊娠中だったのです。その愛人を家に入れるために、私は邪魔になったのでしょう。もう腹が立っちゃいました」
なんだ、それは! 理不尽じゃないか。
「今しかないと思っちゃったのですね。プッツンきちゃいました。ふふふ」
それを聞いて俺は、女性を怒らせたら駄目だと思った。
アイレは風属性魔法もそこそこ使えるのだけど、この家に来てから何故かフラン爺に傾倒していて師事している。
大剣は持てないから短剣を、そして体術も習っている。
フラン爺は時々しかこっちにこない人なのに、一体何がそうさせたのか? と思って、前の時に聞いたんだ。そしたら……。
「元夫と元姑にグーパンした時に、相手に全然ダメージがなかったのですよ。私の手は痛いのにです。それが悔しくって」
なんて言ってた。けどもう必要ないだろう? て、そうじゃないらしい。
今度はお嬢様をお守りするためにとか言って、毎日鍛練を欠かさないストイックな人だ。
アイレとメイドがワゴンを押して、出来立てのパンケーキとお茶を持って行く。
俺はその横をトコトコと歩いている。3歳児にとってはこのお邸って広いんだよ。今はまだ体力がないから、ちょっと辛い。
「ベルちゃん、抱っこしましょうか?」
「ううん、あるく」
「そうですか?」
「うん。たいりょく、ちゅけねーと。おじょうを、まもれねー」
「まあ、ふふふ」
皆に生温かい目で見られている気が、しなくもないのだけど気にしない。気にしたら負けな気がするから。
そして俺が作った……いや、違う。俺が口を出して料理長に焼いてもらったパンケーキを、お嬢が可愛らしいお口でハムッと食べた。
どうだ? 美味いだろう? 久しぶりだろう? 前の時は色々作っていたけどさ。
「んん~ッ!」
とっても目をキラキラさせて、自分のほっぺに手をやるお嬢。なんて可愛いんだ。
やっぱ天使がここにいるぞ。神様に気付かれて連れて行かれないように、隠しておかなきゃ!
「ベル、変なことを考えてないで、お前も食べなさい」
「あい」
今度は旦那様に突っ込まれちゃった。俺ってそんなに分かりやすいか?
「お前は顔に全部出ているんだ」
「おやじ、ちょう?」
「ああ、黙って食べなさい」
「あい」
3日も気が付かなかったからかな? 起きてから、すぐにお腹が空いてしまう。成長期だからな、うん。え、違うか?
「そんなにガリガリなんだ、身体が欲しているのだろうよ」
「おやじ、ちょうおもう?」
「ああ、だから少しずつこまめに食べるようにしよう」
「おー」
みんな食べている時はとても静かだ。アイレさんも食べてるかな? と思って見てみると、しっかりとメイドさんたちと一緒に食べていた。
「おいちい?」
「はい、ベルちゃん。とっても美味しいです」
ふふふん、良かったぜ。いい仕事したぜ。
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今日ももう一話投稿します〜?
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