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少年の光る球体が空に飛び上がった。
「ようやく目が覚めたらしいな! 尾島くん!」
「すまなかった、閃光児。いけるか?」
「いけるけど、とりあえず君のなかに入りたいのだけれど……」
「ここは私の夢の中……ということだな」
「おちつかないね。雨、止ませたら?」
「いや、それはまだだ」
彼は気配を追った。
雨の中、走り出した!
ビチャ! ビチャビチャ!
「いったいどこにむかおうというんだい?」
「私の中に怪異があることは確定なのだけれど、どこにいるのか分からないから、取り敢えずいそうなところを巡っている」
「なるほど、」
「いい手、なにかあるか?」
「ごめん、わからない」
「なら、足で稼ごう」
神戯閃光児は彼のそういうところが好きだった。
出会った頃からそうだった。
誰かのために全力を出してしまう。
なんの躊躇いもなく、人を救ってしまう。
そういう彼だから、嫌な夢を無理矢理見せられたときは、腸が煮えくり返る気持ちだった。
この降り注ぐ大豪雨は、神戯閃光児のそういう気持ちも汲んでいるのだろう。
神戯閃光児と尾島青空はふたりでひとり。
影響はされてしまう。
「…………」
彼の心が弱っていることはわかっていた。
しかし、自分にはどうしょうもないからとほとんど諦めて、ノータッチを貫いてしまっていた。
彼は大して心のつよい人ではないのを、わかっていたのに。
「尾島くん」
「なにか?」
「ごめんね」
「なにが」
「君のこと、よく見えてなかった」
「そうかい」
「君のこと、特別な人間だと思ってた。力が強くて、僕の身体を気持ちよく使ってくれるから」
「そうかい」
「もう大丈夫、とは言い切れないけれど、それでも僕は君とこれからもビカットマンで有り続けたい。君が僕の力を君の思うように使える日が来るまで、僕は君の拳になる」
「そうか」
「僕は……」
「閃光児」
「……なに?」
「君と私が触れたあの日に、全部語り終えたろ」
しばらくの沈黙。
「ああ」
「だろ」
「うん」
身体と身体は深く混じり合っている。
自分の身に宿った光と彼の心に宿った光が、混じり合った。
「いっしょに、おかしくなっちゃおう」
◆
雨。
ザアザアと降り注ぐ雨の中、彼はようやくそれの前に現れた。
夢の中に現れ、悪夢に変えてしまう怪異。
怪異は、まっすぐに彼を見据え、逃げようともせず……ただ、笑うばかりだった。
人の頭蓋骨を身体に纏ったよう見た目。
尻からはらわたがあふれ出している。
両者、しばらく見つめ合い……そして、ほとんど同時に動き出した。
「異態肉彦よ死ね」
「やだよ」
赤が世界全体に広がる!
次の瞬間──現実世界、真っ赤に染まったモニターから怪異が飛び出してきた。
それと同時に彼も目を覚まし、大きく息を吸い込み、ビカッという強い輝きとともに姿をビカットマンにした。
ビカットマンは怪異を窓の方向に蹴飛ばした!
バリィィ……ィィイイン……。
「尾島!」
彼はその声に反応もせず、怪異に向かっていく。
赤い生体装甲に黒いラインが入っている。
「君が私に見せた夢、ナイスだよ」
ビカットマンは、言う。
「最近忘れかけていたことを思い出すことができた。……そうだ、私は親不孝者で、兄貴としても失格だ。ひとりのうのうと生きて、これからも生き続ける。私は何もできない。私には何もない。思い出させてくれてどうもありがとう。それに、幸せな夢だった。見たいものが見れた。一瞬だけでもだ。だから感謝をしてやる。イエスおよびノーではないことが分かるなら、きっとね。けれど君は、まだ思い出せなかったんだ。私が異態肉彦だということの、ほんとうの意味を。私は異態肉彦だ。尾島青空じゃない。異態肉彦は……神様なんだ。それを忘れた君は、安易に私の心に侵入し、私の心を傷つけた。おかげでもう立ち直れないと思う。私はもう立ち直れないと思う。死にたいほど泣く。二度と君に今日がないようにしてやる」
ビカットマンは言う。
「蹴撃」
パチッ、という音がして、次の瞬間、窓ガラスがすべて割れた。
次に足元にあった彼の影がパッと消えてしまい、風が起こり、閃光。
閃光の後、光の線が空中に一本綺麗に通り、怪異が爆発した。
「尾島……? 尾島!!」
朝飛はすぐに、腕に刺さったガラス片も気にせずに、窓から身を乗り出したが、どこにも彼の姿はなかった。




