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真・恋姫†無双~三人の御使い~  作者: 泣き虫
呉編
15/35

第二話「はじめの一歩」

他の御使い達が黄巾党に奮闘しているとも知らず、僕はただただベットに身を預けていた。

制服は目立つので、城から借りた古着に着替えている。


薫「はぁ・・・ふかふかだぁ」


小屋で藁を敷いて寝ていた生活から一転、清潔にされた部屋、背中に伝わる布団の柔らかさ、まだ昼時だけど寝てしまおうかな・・・。


[バンッ!]

雪連「かっおる~!」


どうやら、それは叶いそうにない。

今の僕は軟禁状態にある。のだが、変わらず雪連さんは仕事を抜け出して、顔を出してくるんだ。


薫「孫策さん・・・またですか?」


雪連「孫策じゃなくて、雪連! この前、真名を許したでしょー」


この前とは、家臣たちへの顔合わせの時だ。

軽く挨拶してすぐに解散したが、その時に雪連さん、冥林さん、祭さんから真名を受け取った。

他の人たちとは・・・まぁ、無理だよね。屋敷まで案内してくれた周泰ちゃんからも受け取っていない。

ちなみに、種馬の件も話されていない。そこは、自分で頑張れ、とのこと。


雪連「っていうか薫。私との約束、忘れたわけじゃないでしょうね?」


薫「うっ・・・」


雪連「ちゃんと"他の武将"と交流しなさいって言ったでしょ。それなのに、ここでゴロゴロして」


薫「軟禁されている人間が、そうそうナンパみたいな事できるわけないでしょう」


雪連「なんぱ?」


そうだった。この世界で英語は通用しなかった。

とりあえず、簡潔にナンパの意味を教えといた。


薫「第一、まだ戦いは落ち着いてなくて、声かけづらいです」


雪連「あーそれもそっか・・・じゃあ、ここは───


薫「遠慮します」


雪連「ちょっとー! まだ何も言ってないでしょー!」


薫「この前、陸遜さんと一緒に倉に閉じ込めたでしょ! あの時は大変だったんですから」


陸遜さんは、常にのほほんとして、ぼけ~っとしてるけど、孫呉の軍師として重要な人物。

のだが、どうも本が過剰に好きらしく、倉の本に興奮しっぱなしで。

勿論、二人っきりだからといって襲ったりしなかったよ・・・襲われそうになったけど。

思い出して顔が熱くなっている俺を横目に、雪連さんは笑いだした。


雪連「はははははっ! 薫ったら、ずっと"来ないでー!"とか"助けてー!"って叫んでて、っぷくく! 面白すぎて転がっちゃったわよ! ぷくくはははははっ!」


薫「・・・」


イライラ・・・。


薫「分かりました。雪連さんが昨日、城の秘蔵のお酒を盗んでここで飲んでいたこと、冥林さんに伝えますね」


雪連「っ!? ま、待ってよ薫! ちょっとした出来心だったの! ねっ! だからそれだけは!」


薫「ちょっ!?」


ベットに腰掛けてた膝に、雪連さんが擦り寄ってきて懇願してきた。

アングルとして際どい。だが、赤くなっている僕を見た雪連さんが、にまーと笑みを浮かべた。


雪連「ね~え~、お・ね・が・い」


薫「っ!」


密着度が上がる。

同時に体温が上がる。


薫「わ、分かりましたから! だから離れてください!」


雪連「んふふっ、は~い!」


すっと離れていく女性の感触と香り。

雪連さんは椅子に腰掛けて、まだにまにまと笑っている。


雪連「薫って本当にからかい甲斐があるわ。(それにちょろいし)。じゃあ、楽しませてもらえたお礼に、お姉さんが道を作ってあげましょう」


薫「道?」


雪連「とりあえず、関わりやすい子から紹介していきましょうか・・・うーん、明命なんてどう?」


薫「周泰ちゃん、ですか。確かに呼んだらすぐ来てくれる良い子ですけど」


雪連「へー。じゃあ呼んでみてよ」


薫「いいですよ」


そう言って僕は、外で拾ってきた木の枝を手に取って、天井をコンコン。


明命「どうかされましたか、南条様?」


天井の一部の板が外され、ひょこっと周泰ちゃんが顔を出した。

長い黒髪が重力に従ってさらぁっと下に垂れる。


雪連「み、明命? そこで何してるの?」


明命「はい、雪連様!」


すたっと床に降りて頭を下げる周泰ちゃん。


明命「南条様の警護です!」


雪連「・・・薫~?」


薫「ほ、本人が天井裏の方が落ち着くって言うから・・・本当はちゃんとした部屋でゆっくりしてほしいんだけど」


明命「いえ! 南条様は大切な御方です。でしたら、いつ何時もお側にいなければです!」


薫「だから、何も天井裏じゃなくても───


明命「ここが一番いいのです!」


薫「・・・」

雪連「・・・」


明命「それでご要件というのは・・・?」


薫「あ、あー、そのー・・・」


こんなに真面目過ぎる姿を見ていると、「連絡先教えてよ」的な感じで真名を聞けるわけもなく、お話をしようにも畏まられて、お互いの距離は近づかない。

何とかしてもらおうと雪連さんに目配せすると、


雪連「・・・[プイッ]」


ちょっと! さっきまで任せなさいって自分で言っていたでしょ!


雪連「あっ、私仕事が残ってた。あははっ、冥林に怒られる前に戻るね~」


薫「あっ───」


呼び止める前に、雪連さんは部屋から逃げ出した。

残ったのは跪く周泰ちゃんと僕の二人。

困ったように首を傾げる周泰ちゃんを見ていると、僕は「呼んだだけ」とは言えなかった。


薫「え、えっと・・・散歩、でもどう?」











という訳で、護衛という名目で周泰ちゃんと城下町に出た。


明命[ササッ]


薫「・・・」


明命[サササッ]


薫「・・・周泰ちゃん、ちょっと」


後ろを向いてちょいちょいと手招きすると、周泰ちゃんが物陰から姿をあらわれて寄ってくる。


明命「何でしょうか?」


薫「僕はね、散歩しようって言ったんだよ」


明命「はい! だから、護衛として気配を消しているのですが」


薫「いや、モロバレの警護だけど。ってそうじゃなくて、せっかくだし二人並んで歩こうよ。ほら、側にいた方が護衛しやすいんじゃない?」


明命「・・・それもそうですね。分かりました、失礼します」


すっ、と僕の横にたつ。

そこまで畏まらなくてもいいんだけど・・・。


明命「それでどこに向かうのですか?」


薫「うーん、特に決めてないんだけど、とりあえずお昼ご飯にしよう」


近くにあった店に入る。

店内を見渡すと男女問わずラーメンをすすっていた。


店主女「いらっしゃい! あら、周泰ちゃん!」


明命「お久しぶりです!」


店主女「本当に珍しいわね・・・こちらの方は?」


明命「この方は、天の───」


薫「ぶ、部下です! 南条と申します!」


明命「え? 南条様は───


薫「まだ僕が御使いってことは話しちゃダメだよ」


そっと耳打ちすると、周泰ちゃんはハッとなる。


明命「も、申し訳ありません!」


薫(い、いやだから、そこで畏まっちゃだめだって・・・)


店主女「は、はは。まあそういう事にしときましょうか」


呆れ気味に店主に誘導されて、カウンター席に腰掛ける。

字は読めないけど、メインメニューはラーメンのようだ・・・何ラーメンかまでは分からないけど。

適当に注文を済ませ、お互い無言でラーメンが出来上がるのを待った。


店主女「はい、お待たせ」


薫「いただきます」


明命「いただきます!」


手を合わせてラーメンをすする。


薫(そういえば、小さい頃に「お前は女みたいな食べ方するな」って言われたけど、未だに意味が分からないんだよね)


太麺を二、三本ずつ箸でつかんでちゅるちゅる・・・。

隣を見ると同じように、ちゅるちゅるしている周泰ちゃん。


薫(あっ・・・これが女みたいってことか)


逆の隣に座るおっちゃんは豪快に麺をすすっている。

麺に絡んだ汁が飛ぶのを気にも留めずに。


薫「・・・」


挑戦してみよう・・・。

ちらちらとおっちゃんを参考にしながら、豪快に麺をすくい上げる。

意を決して思いっきり吸って───


薫「ごほっごほっ!?」


むせた。

すくい上げた麺は、またスープに戻っていく。


店主女「別に食べ方なんて決まってないんだから、無理しなくていいんだよ」


薫「あっ・・・はい」


微笑ましそうに笑う店主。

恥ずかしすぎてしにたくなった。


薫「(周泰ちゃんにも恥ずかしいところを───)あれ?」


いない。隣に座っていたはずの周泰ちゃんが。

ラーメンは既に空になっている。


店主女「あー、周泰ちゃんならいつもの"アレ"だよ」


顎で店の外を指す。

僕はのれんを上げて、外の様子を伺うと向かい側の裏道で───


猫「にゃぁ・・・」


明命「はぁ~~~♫」


日差しから逃げてきて猫の毛づくろい様子に、周泰ちゃんは酔っていた。


店主女「あーなっちゃうと、夜になるまでずぅっと眺めてるのよね」


薫「ずっと、ですか・・・」


猫好きなのは察していたけど、そこまで陶酔しちゃうんだ・・・。

この短時間でラーメンを平らげたのも、今すぐにでも間近で猫を眺めたかったのかな。

僕も出来るだけ早めにラーメンを食べ、冥林さんから支給された通貨で二人分のお会計を済ませた。


明命[ポワポワ]


薫「・・・」


完全に、意識が目の前の猫にしか行っていない。

周囲の通行人はその様子をくすくす笑っているところを見ると、店主の言う通りいつもの事なんだろう。

僕は周泰ちゃんの真後ろに立って、声もかけず眺めることにする。


明命「えへへ、お猫様お猫様。今日こそは、是非ともモフモフの許可を・・・!」


手を合わせて祈ってから、手をわきわきして野良猫に寄っていく。

その姿は、失礼だけど変質者みたいな寄り方。

当然、嫌な予感を感じ取った猫は───


猫「[ピクッ]にゃっ!?」


明命「あっ!?」


猫はせっかくの昼休みを中断して、裏道の奥まで逃げてしまった。


明命「うぅ・・・今日も逃げられてしまいましたぁ」


薫「周泰ちゃん」


明命「はぅあ!? な、南条様! あっ私、護衛中に失礼しました!」


薫「ううん、別に大丈夫だよ。それにしても、本当に猫が好きなんだね」


明命「あぅあぅ」


薫「だけど、猫はあんな風に迫っちゃったダメだよ。お昼寝中とか食事中なら尚更。嫌われちゃうよ」


明命「そ、そうなんですか?」


薫「猫は基本マイペー・・・じゃない、気分屋だから。もし触りたいなら、向こうから来るのをじっと待ってなきゃ」


明命「は、はい・・・」


よほど触りたいのか、しゅんっとなってしまった周泰ちゃん。


薫「周泰ちゃんなら大丈夫だよ。そうなるのも、そう遠くないはずだから元気だそ」


明命「は、はい!」


そして再び散歩を再開した。

猫の接し方についてや、可愛い仕草、豆知識で会話が弾み、笑ったり、驚いたりする周泰ちゃんは、呉の工作員という仮面が見えないほど、女の子らしさがにじみ出ていた。

気づけば日が暮れてきていて、城壁の上で城下町を眺めていた。


薫「もう夕方になっちゃったね」


明命「はい。そろそろ戻りますか?」


薫「そうだね。今日は付き合ってくれてありがとう」


明命「い、いえ! 私の方こそ身になるお話を聞けて嬉しかったです!・・・あ、あのそれと」


薫「ん?」


明命「改めて、これからもよろしくお願いします!」


薫「うん。こちらこそ」


微笑み合う僕たち。

あっ、これは真名を聞けるチャンスだ。


明命「それではお部屋までお供します!」


薫「周泰ちゃん。ちょっといいかな?」


明命「はい?」


薫「え、えーと・・・」


きょとんと振り向く周泰ちゃん。

うっ、やっぱり緊張する。

こういう場合は「真名で呼んでいい?」と聞けばいいのか? いや、これはストレート過ぎるのではないか。じゃあ、それを匂わす言葉を───


薫「これからは僕のこと・・・薫、でいいよ」


明命「? 薫様、ですか・・・それなら、私も」


正面で向きあう。

ど、動悸が・・・。


明命「姓は周、名は泰、字は幼平、真名は明命! 薫様、よろしくお願いします!」


薫「っ、こちらこそ」


スっと手を差し出すと、おそるおそると"明命"ちゃんは手をとってくれた。


薫「じゃあ帰ろっか」


明命「はい!」


夕暮れでオレンジ色になった城下町を歩く。

お互いそれまで無言だったが、不意に明命ちゃんが口を開いた。


明命「薫様、申し訳ありません」


薫「? どうしたの、急に」


明命「本当は護衛に就くその時には、真名を許すつもりでした」


薫「・・・? う、うん」


つまり、誰かに安易に真名を許すな、って言われていたのか。


薫「そうなんだ」


明命「・・・聞かないのですか?」


薫「もう関係のない話だもん。時期は遅れたけど、真名は許してもらえたから」


明命「・・・」


薫「ぷっ、どうしたの? そんなにほうけちゃって」


明命「いえ・・・会った時にも思いましたけど、不思議な方だと」


薫「不思議?」


明命「心が綺麗だというか、邪気がないというか。裏がないというか・・・とても不思議です」


薫「はははっ、友達にもよく言われた」


明命「ご友人がおられるのですか?」


薫「僕にだっているよ・・・」


明命「? 顔が暗いですよ」


薫「ううん、何でもないよ。じゃあ行こっか」


僕にだって友達は、少なからずいる。

今頃どうしているのかな・・・?










蓮華SIDE


蓮華「明命は、真名を許したのね」


思春「はい。確認しました」


蓮華「そう・・・」


明命は空腹を忘れるぐらい真面目だ。

命令とあれば、素直に真名を教える純真な心を持っているから、釘を刺しておいたけど。

胡散臭くはあるけど、悪人っていう訳ではないようね。

姉様からは積極的に関わりなさい、と言われているが、私はまだ南条を信用していない。

相変わらず、姉様は勝手なんだから・・・。


蓮華(それに・・・あの者の天の血を、孫呉に入れるなんて)


他の者には知らされていない。

姉様、冥林、祭の三人は乗り気だった。

孫呉の血を引く私も納得しなければならないんだけど・・・。


蓮華「はぁ・・・」


思春「大丈夫ですか、蓮華様?」


蓮華「ええ、心配しないで・・・思春、鍛錬に付き合ってもらえないかしら」


思春「今から、ですか。根詰め過ぎるのはあまり勧めませんが」


蓮華「いいの。邪念を振り払いたいだけだから。いいかしら?」


思春「御意」

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