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真・恋姫†無双~三人の御使い~  作者: 泣き虫
呉編
14/35

第一話「南条薫」

呉に関しては本当に勉強不足です・・・

「いてっ」


カビが生えている木の板が、頭に落ちてきた。

どうやら、長い間使われていない小屋らしく、天井の木の板が腐っていたようだ。


「どうしてこうなったんだろう」


水泳部マネージャーの事務作業を終わらせて、帰宅途中に頭がクラっとなって、気づけばこのオンボロ小屋でフランチェスカの制服のまま拘束されていた。


「うーん、制服がしわにならなければいいんだけど・・・もう二日経ってるから、諦めたほうがいいね」


今月は倹約月間だったのに、無駄な支出が出ちゃったな~。

その時、小屋の戸から足音が聞こえてきた。ご飯の時間だ。


「は~いご機嫌いかが~?」


「孫策さん、毎度言うようにこの状態で放置されて、機嫌が良い訳ないでしょう」


「仕方ないでしょ。見ず知らずのあなたを保護してるだけでも、感謝してほしいわ」


「それは、僕が"天の御使い"だからでしょう」


「そうね。その通りよ」


何でも管輅っていう占い師が、乱世を鎮静させるため天の国から御使いが遣わされる、という占いをしたらしい。


「今は黄巾党が暴れているけど、漢王朝が腐敗している今、戦乱はこれでは収まらない。まっ、それはそれで私達にとっては好都合なんだけどね」


黄巾党・・・社会の授業で聞いた覚えがある。

僕が今いるこの世界は三国志時代なのだ。

そして目の前で、スープを口移しで飲ませようとする女性は、小覇王と恐れられた孫堅の子、孫策。


「ちょっと、またそうやってふざけないで下さい!」


「ん~、[ゴクッ]、あら、いいじゃない。これを逃したら一生経験できないかもよ」


「そういうのは、将来約束した人としかしないと決めていますから」


勿論、そんな貞操観念は持っていない。


「じゃあ、私なんかどう?」


チラッと生脚を際どいところまでまくる。

褐色のツヤツヤしてそうな脚にドキッとしてしまったが、すぐに逸らした。

すると、ニマニマ顔した孫策さんが胸元へ抱き寄せてきた。


「やっぱ可愛いわね、薫は! からかい甲斐があるわぁ。さて・・・」


「また、お酒ですか?」


孫策さんが持ってきたのは一升瓶。それとおちょこが一個。

孫家に伝わる宝剣で拘束を解かれた僕は、一升瓶を空け、おちょこに注ぐ。


「政務とか大丈夫なんですか? 一応、孫策さんは偉い人なんでしょう?」


「一応って何よ、ぶーぶー。大丈夫よ。冥林が・・・周瑜が全部やってくれるから」


この世の中に真名ってものが存在することは聞いた。

真名は親族を含め、本当に心を許した相手にしか呼ばせない神聖なものらしい。


「いや大丈夫じゃないんじゃ・・・昨日だって、周瑜さんが孫策さんを連れ戻しに───


「しぇ~れ~ん~!」


「あ、やばっ」


小屋の出入り口で、殺気だだ漏れの眼鏡をかけた美女こそ、周瑜さんだ。

昨日も同じ展開があった気がする。


「やはりここに居たのだな」


「あ、あはは~・・・じゃあまた夜にね、薫!」


一升瓶とおちょこを押し付けられ、小屋の出入り口とは逆の方へ走り出す孫策さん。

そのまま古びた壁を斬り開き、逃亡してしまった。

周瑜さんは追う気もないようで、ため息をつきながら僕の隣に座った。


「はははっ、大変ですね」


「まぁな。もう慣れたものだが・・・私にも一杯、注いでくれるか?」


「え、はい」


おちょこを手渡し、そこにお酒を注ぐと周瑜さんは控えめに酒に口をつけた。


「実は少々話したいことがあってな。まずはお前の住む場所に関してだ」


「ようやく、この小屋から出られるんですね」


「まぁそうだな。といっても、これまで通り自由に動けるわけではない。だが、お前が天の御使いだという確証が出たための処置だ」


「確証?」


「お前以外にも"天の御使い"が存在していたんだ。今は公孫賛のところにいるらしいが、その者の服装がお前のその服と酷似しているとのことだ」


酷似・・・? ということは、その公孫賛の所にいる人も、僕と同じフランチェスカの学生なんじゃ!?


「・・・周瑜さん、その人のもとへ行くことは?」


「無理だ。知り合いか?」


「分かりません。だけど、可能性はあります」


「なるほど。だがすまない。お前は孫呉に必要な存在だ」


「それなんですけど、天の御使いが稀少で手元に置くのは分かります。ですが、それだけとは思えないんですけど」


「・・・そうだな。せっかくだし、雪連の考えを話しておこう」


周瑜さんはおちょこを地面に置き、僕も合わせて一升瓶を横に置いた。


「我ら孫呉は孫堅様の亡き後、袁術の客将をしていることは説明していたな」


「だからこそ、今の戦乱に乗じて独立しようとしてるんですよね?」


「ああそうだ。だが、我らにそこまでの力がない。そこで、お前の天の血を孫家に入れようと考えた」


「血を入れる・・・まさかっ」


「そのまさかだ。雪連はお前を呉の種馬にする気なんだ」


「た、種馬・・・ですか」


つまり、孫家の女性と・・・つまり、そういう関係になって、子供を産ませるということだ。


「天の血が入れば、政治的な力が今よりも飛躍的にあがる。まだ家臣には話していないが、祭殿・・・雪連と一緒に南条を保護した黄蓋殿には好評だったぞ。私もその一人だがな」


「そ、そうなんですか・・・」


「ちなみに、明日の朝にはお前を家臣に紹介する予定だ。自己紹介で話す内容を考えておくのだな」


「えっ!? ちょっと急に言われても───」


「夜には使いが来る。それまでの辛抱だ」


待って!の静止を聞かず、周瑜さんは小屋から出て行ってしまった。

あんなこと言うもんだから緊張で動悸が激しくなる。


「ううぅ、自己紹介とか苦手なんだけど・・・」


寝よう。

藁で出来たベットに横たわり、目をつぶると以外にもすぐ睡魔がやってきた・・・







気づけば、空には暗くなり月は雲に隠れていた。

夜の冷気が徐々に僕の覚ましていく。


「ん・・・」


何か、鼻先がむず痒いので指でかく。

というか、孫策さんと周瑜さん、拘束し直さずに出て行ったね。


「・・・にゃあ」


(にゃあ?)


猫の鳴き声だ。

うっすらと目を開けてみたが、暗くてよく分からない。


「誰?」


「にゃあ」


猫ちゃん、君じゃない。

僕が尋ねているのは、その後ろにいる人物だ。

その時、雲に隠れた月が出てきて、孫策さんがぶち抜いた壁から光が注ぎ始めた。

そして猫と、猫を両手で突き出す少女の姿を確認した。


「えっと・・・君は?」


「はい、私は周泰と言います! 今後、南条様の身近のお世話をするように、と冥林様から言われて参上つかまつりました! そしてお猫様です!」


ぐいっと突き出されたのは、ただの猫。

何ジロジロ見てんだ、と言いたげに眼光が鋭くなっている。


「は、はぁ・・・それで周泰ちゃんが、周瑜さんが言っていた遣いの人なんだね」


「そうです! それでは付いてきてください」


周泰ちゃんは、僕と比べて一回りも小さいのに背中に日本刀のような長刀を背負っていて、鞘を引きずらないように滑車がついている。

刀と同じぐらい長い黒髪も特徴的。


「足元に気をつけてください」


「うん」


小屋が森に囲まれていたことに、僕は外に出て初めて気がついた。

孫策さんが朝昼晩と来るものだから、どこかの町近辺だと思っていた。

しかし実際は、森を抜けて、そこに待機させていた馬に乗り、5分ぐらい走らせるほど町から距離はあったのだ。


(この道のりで、スープも一升瓶も持ってこれたよね・・・)


「それでは部屋に案内する前に、広間に案内します。もう既に、みなさんお待ちですので」


「え? 自己紹介は明日って聞いてたんだけど」


「今後の方針に関わることなので、急遽早めに行われることになったんです」


「そ、そんな~・・・」


一気に足取りが重くなった。

その様子を見た周泰ちゃんが「ど、どうかされたのですか!?」と本気で心配されて、「大丈夫だよ」としか言えなかった。

文句を言っても仕方がない・・・広間の扉はもうすぐそこなのだから。


「失礼します。南条様をお連れしました。では、どうぞ」


「う、うん・・・すぅ・・・はぁ・・・よしっ!」


豪華な扉を両手で開くと、大きな長机に左右に座る臣下達。

中心に座っている孫策さんはニマニマと笑って、その隣で立つ周瑜さんは申し訳なさそうに会釈された。


「「「・・・」」」


(うっ・・・お腹痛くなってきた)


孫策さんに似た女の子(おそらく、孫策さんが言っていた妹の"孫権"さんなんだろう)が、鋭い視線を向けてくる。その背後で控える女の子なんて、今にでも喉首を切ってきそうな殺気を向けてきていた。

対して、コクンッ、コクンッと眠ってしまいそうな巨乳の女性もいるし、白髪の女性は品定めする好奇な視線で観察してくる。観察してくる人が黄蓋さんのようだ。


(や、やっていけるのかな、ここで)


呉の種馬、という言葉が脳裏をよぎる。

搾るだけ搾り取られて、ポイっと捨てられるんじゃないかと、僕はこの瞬間倒れそうになった。

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