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真・恋姫†無双~三人の御使い~  作者: 泣き虫
魏編
12/35

第六話「小さな英雄」

今回長めです

凪SIDE


真桜「凪、どないすりゃいいと思う?」


親友の一人である真桜は、机に項垂れている。

豊満な胸が圧迫されて苦しそうだが、それすら気にならないほど今の私たちには余裕がない。


凪「報告によると、村を囲むように四方に賊の集団、か・・・」


沙和「明らかに人手が足りないのぉ」


それだけじゃない。

一つ一つの賊の集団の人数は少ないが、今まで通り三班に分けて戦う消耗戦が出来なくなった。

平民と賊では、一人の力量差がかなりある。


凪「だが、やるしかない」


義勇軍は約100名。

武器は倒した賊から剥ぎ取った剣や、村にもともとあった錆びた剣のみ。


凪「部隊を四つに分ける。それぞれの隊長は私達三人は、確定として・・・」


真桜「あと、一人をどうするかやな」


凪「それも含めて、みんなを集めよう。最悪、村を捨てることになる・・・村長さん」


村長 男「仕方あるまい。いや、今まで生きてこれたのが奇跡のようなものだ。あなた達には感謝してもしきれません」


深々と頭を下げた村長は、一足先に家を出て行く。たぶん、村人全員を集めに行ったのだろう。

私達三人も村長の部屋から出る。

もう既に、村人の殆どが村長の家の前に集合していた。

その中に見慣れない格好をした、昨日の門番の人もいた。









村長らしき人の招集で、俺も流れに身を任せてここまで来た。

村長の家の前には、義勇軍を引っ張る三人組がいて、その中の楽進と一瞬目があった。


真桜「みんな知っているはずやけど、賊が村を囲むように攻めて来てはる」


沙和「そこで部隊を四つに分けて、迎え撃とうと思うのぉ」


妥当だと思うが、村人全員は既に負け戦を想像していた。

覇気がなく、目前に迫る絶望に早くも心が折れかけている。


凪「そこで、残り一つの部隊を指揮する人を、この中から選びたいと思っています。誰か」


・・・誰も手を上げない。

そりゃあそうだ。学級委員決めですら、立候補する生真面目が少ない。

自分の指示一つが、他の仲間の命を懸けるのだから、そこに飛び込む勇気がある奴がいたら、前の三人組が現れる前から賊を撃退できたはずだ。


凪「・・・」


真桜「お前ら、それでええんか!? せっかくここまで守ってきたってのに、ここで諦めるんか!?」


巨乳の姉ちゃんの言葉は、確かに村人の心にグサッと刺さっただろう。

だが、それはより一層絶望感を増させるだけで、逆効果になった。

横に並ぶ村長ですら、何も言えないんだから・・・。


沙和「う~・・・凪ちゃん、真桜ちゃん、どうしよ~?」


一向に話が進まない。

でも、賊はすぐそこまで近づいているのは事実。

静まり返った村・・・そこに一つ手が挙がる。それは、あまりにも頼りなくて小さい手だった。


男の子「ぼ、僕がするっ!」


そう進言したのは、6歳ぐらいの村の子だった。

その隣で母親らしき女性が、男の手を降ろさせ、ペコペコと謝っている。

だが、男の子は止まらない。


男の子「僕できるもん! 兵法読んでるもん! 僕だって戦いたいもん!」


この場にいる誰もが、今のセリフが胸に刺さらない奴がいるだろうか。

俺もその一人だった。


圭吾(・・・情けねぇな)


俺はここの村の人でなければ、この世界の住人でもない。

ただ、逃げてきた先がこの村で、巻き込まれただけ。

助ける義理もなければ、首を突っ込む義務もない・・・だが、


圭吾(関係ないんだよな・・・ガキが必死なのに、大人が必死にならなくてどうするよ)


気づけば、俺は手を挙げていた。

控えめに挙げたせいで、最初は気づかれなかったが、一人の村人が気づくと伝染するように、視線が俺に向けられた。


真桜「おおー! そこの兄ちゃん、やってくれるん!?」


答えられなかった。

ガキがあんなに必死になって、ようやく動いたことに情けなくて仕方がなかった。

巨乳の姉ちゃんは戸惑っていたが、気にせず話が先に進む。


凪「そ、それじゃあ、班を四つに分けます! 全員、いつでも戦闘に入れるようにしてください!」


その命令に蜘蛛の子を散らすように、村人は各々の準備に取り掛かる。

俺は「面倒なことになったぁ・・・」と後悔して立ち尽くしていると、ジャージのズボンが引っ張られた。

下を向けば、さっき手を挙げた男の子がいた。


男の子「僕も戦う!!」


震えて、鼻声交じりで頼りない。

でも、一般人の俺ですらこの子が持った覚悟の本気度を感じ取った。


母親「こら! ご、ごめんなさい!」


そこに母親が止めに入る。

しかし、男の子は離さない・・・それどころか、すがるように俺の足にしがみついた。


母親「やめなさいっ! ほら、早く安全なところに行かないと!」


男の子「いやだ! 僕も戦う! 戦えるもん!」


母親「もう、いい加減にしな───」


しがみつく男の子に手をあげてでも離そうとする母親の腕を、俺は止めた。

ハッと俺を見上げた母親の目には、涙が溜まっていて、腕の拘束を解くと強引に引き剥がす作業をやめた。

それでも俺の足から離さない男の子に、しゃがみこんで話しかけた。


圭吾「ガキ。お前、兵法 読んでるって言ったな?」


男の子「ぐすっ・・・うん」


顔を俺の足に埋めたまま頷く。

兵法っていうのはよく知らんが、作戦考えたりする頭のいいやつが読むもんだと、俺の中ではその程度の認識でしかない。


圭吾「じゃあ、これから俺らはどうすりゃ助かる? 確実に生き残れる方法は?」


母親「あ、あのこの子はまだ───」


圭吾「少し待て」


見向きもしないで言うと、母親は黙り込んだ。


男の子「っ・・・ずずっ・・・。このまま戦ちゃったら、絶対負けちゃう。だから、一箇所にまとめる」


圭吾「どうやって?」


男の子「村の、門と、回りは木材で覆ってる、から・・・それを燃やして通れなくする」


鼻声で途中途中聞き取れないが、ようは四箇所の門のうち、三つを通れないようにすれば必然的に賊は一箇所に集まる。

「李を捨てて桃に変える」の計、というのが"兵法三十六計"にあるらしい。

一を捨てて十を生み出せ・・・的な意味らしいが詳しくは分からん。

この場合、「退路を捨てて勝機を生み出せ」って感じか?

非常に単純な作戦だ。


圭吾「それだけで、止められんのか? 燃え尽きたら、普通に越えられるぞ」


男の子「燃えてる間に、どんどんワラをいっぱい持って来れば熱で触れられないもん。でも、そんな事をしなくても相手は、通れる場所を探して攻めて来るから、そんな心配ないよ」


圭吾「根拠は?」


男の子「相手からしたら、逃げ道を1つ失ったって思うから」


逆にチャンスだと思って、思惑通りに動いてくれるってわけか。

男の子は、6歳とは思えないちゃんとした考えを述べてくれている。

お前はコ○ンか・・・。


圭吾「・・・んじゃ、ちょいとそれを話してくるよ」


男の子「僕も行く!」


なお食いついてくる男の子の頭をガシガシと撫でる。


圭吾「おめぇは充分戦ったよ。あとは兄ちゃんに任せな・・・おめぇが考えた作戦が、村を救うんだからよ」


男の子「・・・うん」


俺の発言に気持ちが満足したのか、諦めたのかは定かではないが、男の子は母親に手を引かれ安全な場所に歩いていく。

時折、俺の方を振り向いてくるが、手を振ることも笑顔を浮かべることなく、俺はあの三人組のもとへ行く。

村長の家をノックなしで入ると、待ってましたと言わんばかりに俺を歓迎する巨乳の姉ちゃん。


真桜「待っとったで! ほれ、ここに座り」


圭吾「いや、その前に言うことがあってな」


凪「っ・・・」

沙和「っ・・・」


真桜「あんさん、もしかして今更辞退するつもりじゃないやろな?」


目が怖ぇよ・・・。

俺は、あの男の子が言ったとおりに三人に作戦を告げた。


凪「・・・なるほど。確かにそれも手ではありますけど」


真桜「仮にこの戦いで勝っても、その後はどうすんねん? 復旧する前にまた襲撃されたら、万事休すや」


圭吾「じゃあ、全滅覚悟で戦力を四つに分けんのか? 昨日を見る限り、そんな事をやったら確実に俺らは死ぬ」


真桜「そんな事は言わんでも分かっとる!」


圭吾「なら、先の分からん事を言って迷うんじゃねぇ。生き残るためには、これしかねぇと俺は思ってる」


凪「・・・分かりました」


真桜「凪!?」


凪「この人の言う通りだ。今は生き残るために、やれる事はすべきだ」


真桜「せやかて、この作戦を考えよったのは、さっきの子供やないか」


凪「そうだとしても、やるしかない・・・あの、えっと・・・?」


圭吾「? ああ、俺はあずまだ」


凪「アズマさん・・・(変わった名前だな)・・・では、あなたにこの作戦の指揮をしていただきたい。私達三人は今まで通り三班に分けて、賊を撃退───」


圭吾「あーそれなんだが、もっと良い事を思いついてな。こっからは俺の考えだ」


凪「? それは・・・」


真桜「・・・」

沙和「・・・」


三人の好奇な視線なんか気にせず、俺は作戦名「命は大事に」を伝えた。

作戦名とは一切関わりない内容に、三人は目を開かせた。


真桜「それ、面白そうやん!」


凪「おい真桜!」


真桜「ああ、すまん・・・」


圭吾「なんだ? 物作りは好きな方か?」


真桜「うちの専売特許や! んでんで? どないなもんを作ればええんや?」


沙和「おおー、真桜ちゃんが燃えてるのぉ」


凪「はぁ・・・これから戦いだと言うのに」















「おい、どうなってんだこりゃ!?」


門の外には賊が100名。

その中の仲間の一人が叫んでいる。

彼らの目の前には、燃え盛る炎。四つの内一つの門が、燃え続けている。


「・・・こりゃ、燃え尽きのに時間かかるなぁ。よし、移動するぞ!」


「おいおい、村を囲んで一網打尽にする作戦じゃなかったのか?」


「こんな状態じゃそれも無理だろ。逆に考えても見ろ。あいつらは逃げ道を一つ捨てたんだ。俺らの思う壺だ」


作戦通りにはいかないが、有利なのは変わらない・・・と余裕綽々で村の外周を回る。

すると、別の門から攻めようとしていた仲間達100名と合流する。


「ここもか?」


「お前らのとこも燃えてんのか・・・あいつら、ヤケになって頭おかしくなってんじゃないのか?」


そしてまた外周を回る。

ついに、唯一燃えていない門に近づいて来ると、もう一つの賊の一団と合流。

300名の賊が一つの門の前に集まった。


「・・・おい、出てこねぇぞ?」


「というか、ここを攻めた奴らは───まさかあいつら、俺らを出し抜いたな!」


一人がそう言うと、餌に飛びつく猛獣のように駆け出した。

門を開け、目先にあるであろう金目、食料、女を期待する300人の賊だったが───


「なっ!?」


広がっていたのは、血を流してうめく100人の男達・・・先に突入していた賊だった。


「おい! 屋根の上を見ろ!」


門近くに建つ家の屋根に、村の男達が立っている。

驚くべきはその人数。

この村は、四つの門の近くに、旅人のため露店が開かれている。

中心部に近づくほど、建物の密度が薄くなる変わった村なのだ。


[ギギィ]

「おい、門が!」


門の近くの穴の中で身を潜めていた村人が、門を外側から閉めた。


「「「せーのっ!!」」」


それが合図で、声を合わせて屋根から降ってきたのは、伐採された丸太。

1メートル間隔で切られた丸太は、良い具合に転ばせる障害物と化した。

しかもそんなに広くない道に、300人近い男共がいれば、避けようとしてお互い身体がぶつかり、丸太に足を取られる。

丸太の動きは止まっているのに、統率の取れていない男共は勝手に転んでいる。

屋根の上では、村人がくすくすと笑っている。


「ここはダメだ! 店ん中に入るんだ!」


何人か無人になった露店に逃げ込む。

彼らを待っていたのは───


「ぐへぇ!?」


上からタンス・・・。


「ひゃぁ!?」


目前を通り過ぎる振り子で吊るされた包丁・・・。


「うぎゃぁぁ、虫ぃ!?」


子供がコレクションしていた害虫のオンパレード・・・。

賊にとっては運悪く苦手なものをぶつけられて、そのまま賊は気絶した。

その他にも罠が何重にも設置されていて、賊達は露店から逃げ出す。

そして、丸太で転ぶ。


「ここもダメだ! 駆け抜けろ!」


走り出した賊の上に、第二波の丸太が来る。

容赦なく頭部に当たって気絶する者、また足を取られて仲間に踏まれる者、踏んだことで転んで倒れる者・・・ここまででもう300人いた賊の半分以上は倒れた。


「よし、抜けた───んげぇ!?」


露店の密集地帯から抜け出した賊は倒れた。


「どうしt───[ドスッ]・・・石?」


駆け寄った賊が、ゆっくりと空を見る。

雲ひとつない快晴・・・しかし、点々と黒い物体が賊達めがけて降ってきた。


「おわっ!? あぶねぇぐへぇ!!」


「おばっ!?」


「いていてぇ!? ひぎゃ?!」


石の雨で前には進めない。

後ろは、倒れた賊の追い打ちをしていた村の男たちが、棍棒を持って不敵な笑みを浮かべている。

その中心には、敗走した仲間達が言っていた"物凄く強い銀髪の女性"

彼らは気絶した賊を足場にして、丸太を避けている。


「あ、ああぁ・・・」


300人もいた賊はもう十数名。

武器は逃げている際に落としている。

どうすることも出来ない賊が絶望していると、降ってきた石にぶつかって気絶した。













男の子1「わーい!」


女の子1「もう一回! お母さん、もう一回やりたい!」


子供達がキャッキャと騒いでいる原因は、李典に作らせた小型の投石機だ。

掌サイズの石しか飛ばせないが、村の子供や女でも力点には充分過ぎる。


圭吾「にしても、こんな早く作れるもんなんだな」


真桜「言ったやろ? 専売特許やって。うちのカラクリ技術は天下一品や!」


圭吾「おう。さすがだ!」


真桜「っ・・・そ、そない褒めんなや。照れてまうやろ」


李典が短時間で作り上げたのは、小型投石機20台だけではない。

丸太を効率に切断する"電動ノコギリ"ならぬ、"ゼンマイ ノコギリ"。こちらの方が、時間がかかった。

元々、彼女なりのレシピが頭の中で出来上がっていて、材料さえあればいつでも完成させられたらしい。

木材も結構余ってたから助かった。


沙和「でもすごいのぉ。こんな発想、沙和にはできないのぉ」


真桜「せやな。まさか村の子供達も戦力に入れるとは・・・あんさん、もしかして実は凄い人なん?」


沙和「確かに、変わった服着てるのぉ。呉服店で見たことないし、阿蘇阿蘇でも読んだことないのぉ」


圭吾「あんたらに言われたかないわ。お前らもきわどい服着てさ」


真桜「なになに? 興味ある?」


圭吾「近づくな、胸を強調するな痴女」


真桜「痴女ちゃうわっ!」


沙和「そうだよ、真桜ちゃんはまだ───」


真桜「あほっ! そこまで言わんでええねん!」


勝利の余裕から、俺らの会話を聞いていた村人達が笑っている。

すると、一人の男の子が寄ってきた。先ほど手を挙げた子だ。


男の子「ねぇねぇ、お兄ちゃん。僕、役に立てたかな?」


圭吾「は? 何言ってんの?」


不安そうに見上げてくる男の子の頭をガシガシと撫で、


圭吾「おめぇは、村を救った英雄だぞ。胸晴れ」


男の子「[ぱぁぁ]・・・うん!」


母親のもとに帰っていく男の子。

それと同時に、楽進が捕獲した賊を引っ張って戻ってきた。


凪「残りの賊は、門の外で縛り付けにしています。こいつが賊の指揮官のようです」


圭吾「あっそ。んじゃ、あっちの隅で話でも聞こうか」


ごつい男の顔は青痣だらけ。

たぶん、村人の恨みつらみを一心に受けたんだろうな。


圭吾「おい、お前の仲間はあとどれくらいいる?」


賊の頭「・・・」


圭吾「・・・楽進、肩の関節外せ」


凪「ハ、ハイ!」


俺の発言を聞いて驚く賊は、ゴキッと鈍い音と共に悲鳴を上げた。


圭吾「次は肘を外してもらう。話すな?」


賊の頭「話す! 話すからやめてくれぇ!!」


真桜「よ、容赦ないなぁ・・・」


圭吾「んで? あと仲間はどんくらい居るんだ?」


賊の頭「ひゃ、百人ぐらい待機させている・・・」


圭吾「そいつらは今どこ───「きゃあああああああっ!!??」───っ!?」


凪・真桜・沙和「「「っ!?!?」」」


さっきまで居た場所から聞こえる悲鳴。

楽進に賊の頭を任せ、三人でそちらに向かう。


賊の下っ端「てめぇら! そこから動くんじゃねぇ! 動けばガキの喉元を掻っ切るぞ!」


そこには作戦を授けてくれた男の子を人質にとった賊だった。


圭吾「ちっ、一人逃してたか・・・」


賊の下っ端「まずは頭を解放しろ!」


男の子「っ・・・」


小剣の刃が男の子の首にくい込む。

近くで母親が、息子の危機に泣き崩れている。


賊の下っ端「早くしろっ!!」


圭吾「・・・楽進を呼んで来い」


真桜・沙和「っ・・・」


最後まで気を抜いてはだめだった・・・この慢心が敗北に繋げてしまった。

李典が楽進を連れてくると、楽進は唇は噛み締め、頭の拘束を解いた。

解いた途端、楽進を殴り飛ばす。


真桜・沙和「っ!」


二人は激情にかられたが、倒れながらも手を出して静止を促した楽進によって止められる。

すると、頭は次に俺の方へ歩み寄ってくる。


賊の頭「さっきの礼をしないと、なっ!」


圭吾「ぐふっ・・・!?」


ボディーブローをもろに喰らい、俺は一瞬宙を浮いて地面に倒れ込んだ。


賊の下っ端「頭ぁ!」


賊の頭「よくやった!・・・さぁて、次は外に縛り付けにしている仲間の解放だ。従わなかったら・・・分かってるな?」


母親の泣く声が一層、大きくなる。

「うるせぇっ!!」と頭が一喝するが、その泣き声は止まることはない。


賊の頭「ちっ・・・おい、ここで偉い奴は誰だ。付いてこい」


村長が重い足取りで、賊の下まで歩く。

先ほどまで無邪気に遊ぶ子供を見ていた暖かい目は、そこにはない。

そこで俺は男の子の方に目を移すと、目があった。

怯えて声も出ない様子だったが、目が合うと何かを決意したように頷いていた。


圭吾(よせ・・・勝手な真似すんな!)


目で訴えたが伝わることなく、男の子は呼吸を整えている。

そして、目の前にあった下っ端の腕にかじりついた。


賊の下っ端「いてぇ!? このガキっ!」


小さな反撃に、賊の頭もこちらの注意が逸れた。

そこに目にも止まらぬ速さで、賊の頭を殴り飛ばす影が通り過ぎた。

───楽進だった。


賊の下っ端「かしらぁ!?」


俺の近くに転がった賊のリーダー。

リーダーをやられて慌てる下っ端だったが、未だに噛み付いているガキを再び人質に取ろうとしたところで───俺が動いていた。

頭の中は真っ白だったが、"目の前で─の死んでいる姿"がよぎった。

過去の記憶の断片を強引に閉じ込めて、近くにあった石を思いっきり投げつける。


賊の下っ端「いぐっ!?」


凪「ハァアアアアッ!!」


渾身の上段蹴りが炸裂し、賊は放物線を描いて空を飛ぶ。

落ちてきた男の子を楽進がキャッチし、下っ端は落ちた衝撃で気絶した。


賊の頭「て、てめぇら・・・」


頭がフラフラな状態で起き上がると、近くにいた俺に掴みかかろうとしたが───


圭吾「んっ───」


その腕を取って、賊の勢いに乗せて背負い投げを決め込んだ。

「ぐえっ」と声を出して、頭は今度こそノックダウン。


圭吾「はぁ、はぁ、はぁ・・・ごほっ、ごほっ」


男の子の方を見ると、涙目のくせに笑顔を浮かべて、楽進に抱えられながら自信げに胸を張っている。


圭吾(やっぱ、今日の敢闘賞はお前のもんだな・・・)


こうして、長いようで短い賊との抗争に勝利し、今日はうまい飯が食えると俺は期待して───いたのだが、


村人見張り番「ちょ、ちょっとこっち来てください!」


見張り番の慌てた様子から、俺達は疲れた身体にムチを打って走る。

百人単位で縛り付けられている賊に目をくれず、遠い方ではためく旗を見る。


圭吾「曹・・・げっ!? やっべ、逃げねぇとっとどわぁー!?」


疲れでふらついたせいで、見張り台から落下する。

恥ずかしくも、俺はそこで・・・気絶した。














桂花「はい、ご飯」


圭吾「・・・」


目の前には、とてもテレビでは映せない代物が───


圭吾「だぁかぁらぁ───」


与えられたご飯を皿ごと地面に叩きつけて俺は叫ぶ。


圭吾「こんなんもん食えるかぁぁ!!!」


今日も俺の獄中生活が続く。

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