第六話「小さな英雄」
今回長めです
凪SIDE
真桜「凪、どないすりゃいいと思う?」
親友の一人である真桜は、机に項垂れている。
豊満な胸が圧迫されて苦しそうだが、それすら気にならないほど今の私たちには余裕がない。
凪「報告によると、村を囲むように四方に賊の集団、か・・・」
沙和「明らかに人手が足りないのぉ」
それだけじゃない。
一つ一つの賊の集団の人数は少ないが、今まで通り三班に分けて戦う消耗戦が出来なくなった。
平民と賊では、一人の力量差がかなりある。
凪「だが、やるしかない」
義勇軍は約100名。
武器は倒した賊から剥ぎ取った剣や、村にもともとあった錆びた剣のみ。
凪「部隊を四つに分ける。それぞれの隊長は私達三人は、確定として・・・」
真桜「あと、一人をどうするかやな」
凪「それも含めて、みんなを集めよう。最悪、村を捨てることになる・・・村長さん」
村長 男「仕方あるまい。いや、今まで生きてこれたのが奇跡のようなものだ。あなた達には感謝してもしきれません」
深々と頭を下げた村長は、一足先に家を出て行く。たぶん、村人全員を集めに行ったのだろう。
私達三人も村長の部屋から出る。
もう既に、村人の殆どが村長の家の前に集合していた。
その中に見慣れない格好をした、昨日の門番の人もいた。
村長らしき人の招集で、俺も流れに身を任せてここまで来た。
村長の家の前には、義勇軍を引っ張る三人組がいて、その中の楽進と一瞬目があった。
真桜「みんな知っているはずやけど、賊が村を囲むように攻めて来てはる」
沙和「そこで部隊を四つに分けて、迎え撃とうと思うのぉ」
妥当だと思うが、村人全員は既に負け戦を想像していた。
覇気がなく、目前に迫る絶望に早くも心が折れかけている。
凪「そこで、残り一つの部隊を指揮する人を、この中から選びたいと思っています。誰か」
・・・誰も手を上げない。
そりゃあそうだ。学級委員決めですら、立候補する生真面目が少ない。
自分の指示一つが、他の仲間の命を懸けるのだから、そこに飛び込む勇気がある奴がいたら、前の三人組が現れる前から賊を撃退できたはずだ。
凪「・・・」
真桜「お前ら、それでええんか!? せっかくここまで守ってきたってのに、ここで諦めるんか!?」
巨乳の姉ちゃんの言葉は、確かに村人の心にグサッと刺さっただろう。
だが、それはより一層絶望感を増させるだけで、逆効果になった。
横に並ぶ村長ですら、何も言えないんだから・・・。
沙和「う~・・・凪ちゃん、真桜ちゃん、どうしよ~?」
一向に話が進まない。
でも、賊はすぐそこまで近づいているのは事実。
静まり返った村・・・そこに一つ手が挙がる。それは、あまりにも頼りなくて小さい手だった。
男の子「ぼ、僕がするっ!」
そう進言したのは、6歳ぐらいの村の子だった。
その隣で母親らしき女性が、男の手を降ろさせ、ペコペコと謝っている。
だが、男の子は止まらない。
男の子「僕できるもん! 兵法読んでるもん! 僕だって戦いたいもん!」
この場にいる誰もが、今のセリフが胸に刺さらない奴がいるだろうか。
俺もその一人だった。
圭吾(・・・情けねぇな)
俺はここの村の人でなければ、この世界の住人でもない。
ただ、逃げてきた先がこの村で、巻き込まれただけ。
助ける義理もなければ、首を突っ込む義務もない・・・だが、
圭吾(関係ないんだよな・・・ガキが必死なのに、大人が必死にならなくてどうするよ)
気づけば、俺は手を挙げていた。
控えめに挙げたせいで、最初は気づかれなかったが、一人の村人が気づくと伝染するように、視線が俺に向けられた。
真桜「おおー! そこの兄ちゃん、やってくれるん!?」
答えられなかった。
ガキがあんなに必死になって、ようやく動いたことに情けなくて仕方がなかった。
巨乳の姉ちゃんは戸惑っていたが、気にせず話が先に進む。
凪「そ、それじゃあ、班を四つに分けます! 全員、いつでも戦闘に入れるようにしてください!」
その命令に蜘蛛の子を散らすように、村人は各々の準備に取り掛かる。
俺は「面倒なことになったぁ・・・」と後悔して立ち尽くしていると、ジャージのズボンが引っ張られた。
下を向けば、さっき手を挙げた男の子がいた。
男の子「僕も戦う!!」
震えて、鼻声交じりで頼りない。
でも、一般人の俺ですらこの子が持った覚悟の本気度を感じ取った。
母親「こら! ご、ごめんなさい!」
そこに母親が止めに入る。
しかし、男の子は離さない・・・それどころか、すがるように俺の足にしがみついた。
母親「やめなさいっ! ほら、早く安全なところに行かないと!」
男の子「いやだ! 僕も戦う! 戦えるもん!」
母親「もう、いい加減にしな───」
しがみつく男の子に手をあげてでも離そうとする母親の腕を、俺は止めた。
ハッと俺を見上げた母親の目には、涙が溜まっていて、腕の拘束を解くと強引に引き剥がす作業をやめた。
それでも俺の足から離さない男の子に、しゃがみこんで話しかけた。
圭吾「ガキ。お前、兵法 読んでるって言ったな?」
男の子「ぐすっ・・・うん」
顔を俺の足に埋めたまま頷く。
兵法っていうのはよく知らんが、作戦考えたりする頭のいいやつが読むもんだと、俺の中ではその程度の認識でしかない。
圭吾「じゃあ、これから俺らはどうすりゃ助かる? 確実に生き残れる方法は?」
母親「あ、あのこの子はまだ───」
圭吾「少し待て」
見向きもしないで言うと、母親は黙り込んだ。
男の子「っ・・・ずずっ・・・。このまま戦ちゃったら、絶対負けちゃう。だから、一箇所にまとめる」
圭吾「どうやって?」
男の子「村の、門と、回りは木材で覆ってる、から・・・それを燃やして通れなくする」
鼻声で途中途中聞き取れないが、ようは四箇所の門のうち、三つを通れないようにすれば必然的に賊は一箇所に集まる。
「李を捨てて桃に変える」の計、というのが"兵法三十六計"にあるらしい。
一を捨てて十を生み出せ・・・的な意味らしいが詳しくは分からん。
この場合、「退路を捨てて勝機を生み出せ」って感じか?
非常に単純な作戦だ。
圭吾「それだけで、止められんのか? 燃え尽きたら、普通に越えられるぞ」
男の子「燃えてる間に、どんどんワラをいっぱい持って来れば熱で触れられないもん。でも、そんな事をしなくても相手は、通れる場所を探して攻めて来るから、そんな心配ないよ」
圭吾「根拠は?」
男の子「相手からしたら、逃げ道を1つ失ったって思うから」
逆にチャンスだと思って、思惑通りに動いてくれるってわけか。
男の子は、6歳とは思えないちゃんとした考えを述べてくれている。
お前はコ○ンか・・・。
圭吾「・・・んじゃ、ちょいとそれを話してくるよ」
男の子「僕も行く!」
なお食いついてくる男の子の頭をガシガシと撫でる。
圭吾「おめぇは充分戦ったよ。あとは兄ちゃんに任せな・・・おめぇが考えた作戦が、村を救うんだからよ」
男の子「・・・うん」
俺の発言に気持ちが満足したのか、諦めたのかは定かではないが、男の子は母親に手を引かれ安全な場所に歩いていく。
時折、俺の方を振り向いてくるが、手を振ることも笑顔を浮かべることなく、俺はあの三人組のもとへ行く。
村長の家をノックなしで入ると、待ってましたと言わんばかりに俺を歓迎する巨乳の姉ちゃん。
真桜「待っとったで! ほれ、ここに座り」
圭吾「いや、その前に言うことがあってな」
凪「っ・・・」
沙和「っ・・・」
真桜「あんさん、もしかして今更辞退するつもりじゃないやろな?」
目が怖ぇよ・・・。
俺は、あの男の子が言ったとおりに三人に作戦を告げた。
凪「・・・なるほど。確かにそれも手ではありますけど」
真桜「仮にこの戦いで勝っても、その後はどうすんねん? 復旧する前にまた襲撃されたら、万事休すや」
圭吾「じゃあ、全滅覚悟で戦力を四つに分けんのか? 昨日を見る限り、そんな事をやったら確実に俺らは死ぬ」
真桜「そんな事は言わんでも分かっとる!」
圭吾「なら、先の分からん事を言って迷うんじゃねぇ。生き残るためには、これしかねぇと俺は思ってる」
凪「・・・分かりました」
真桜「凪!?」
凪「この人の言う通りだ。今は生き残るために、やれる事はすべきだ」
真桜「せやかて、この作戦を考えよったのは、さっきの子供やないか」
凪「そうだとしても、やるしかない・・・あの、えっと・・・?」
圭吾「? ああ、俺は東だ」
凪「アズマさん・・・(変わった名前だな)・・・では、あなたにこの作戦の指揮をしていただきたい。私達三人は今まで通り三班に分けて、賊を撃退───」
圭吾「あーそれなんだが、もっと良い事を思いついてな。こっからは俺の考えだ」
凪「? それは・・・」
真桜「・・・」
沙和「・・・」
三人の好奇な視線なんか気にせず、俺は作戦名「命は大事に」を伝えた。
作戦名とは一切関わりない内容に、三人は目を開かせた。
真桜「それ、面白そうやん!」
凪「おい真桜!」
真桜「ああ、すまん・・・」
圭吾「なんだ? 物作りは好きな方か?」
真桜「うちの専売特許や! んでんで? どないなもんを作ればええんや?」
沙和「おおー、真桜ちゃんが燃えてるのぉ」
凪「はぁ・・・これから戦いだと言うのに」
「おい、どうなってんだこりゃ!?」
門の外には賊が100名。
その中の仲間の一人が叫んでいる。
彼らの目の前には、燃え盛る炎。四つの内一つの門が、燃え続けている。
「・・・こりゃ、燃え尽きのに時間かかるなぁ。よし、移動するぞ!」
「おいおい、村を囲んで一網打尽にする作戦じゃなかったのか?」
「こんな状態じゃそれも無理だろ。逆に考えても見ろ。あいつらは逃げ道を一つ捨てたんだ。俺らの思う壺だ」
作戦通りにはいかないが、有利なのは変わらない・・・と余裕綽々で村の外周を回る。
すると、別の門から攻めようとしていた仲間達100名と合流する。
「ここもか?」
「お前らのとこも燃えてんのか・・・あいつら、ヤケになって頭おかしくなってんじゃないのか?」
そしてまた外周を回る。
ついに、唯一燃えていない門に近づいて来ると、もう一つの賊の一団と合流。
300名の賊が一つの門の前に集まった。
「・・・おい、出てこねぇぞ?」
「というか、ここを攻めた奴らは───まさかあいつら、俺らを出し抜いたな!」
一人がそう言うと、餌に飛びつく猛獣のように駆け出した。
門を開け、目先にあるであろう金目、食料、女を期待する300人の賊だったが───
「なっ!?」
広がっていたのは、血を流してうめく100人の男達・・・先に突入していた賊だった。
「おい! 屋根の上を見ろ!」
門近くに建つ家の屋根に、村の男達が立っている。
驚くべきはその人数。
この村は、四つの門の近くに、旅人のため露店が開かれている。
中心部に近づくほど、建物の密度が薄くなる変わった村なのだ。
[ギギィ]
「おい、門が!」
門の近くの穴の中で身を潜めていた村人が、門を外側から閉めた。
「「「せーのっ!!」」」
それが合図で、声を合わせて屋根から降ってきたのは、伐採された丸太。
1メートル間隔で切られた丸太は、良い具合に転ばせる障害物と化した。
しかもそんなに広くない道に、300人近い男共がいれば、避けようとしてお互い身体がぶつかり、丸太に足を取られる。
丸太の動きは止まっているのに、統率の取れていない男共は勝手に転んでいる。
屋根の上では、村人がくすくすと笑っている。
「ここはダメだ! 店ん中に入るんだ!」
何人か無人になった露店に逃げ込む。
彼らを待っていたのは───
「ぐへぇ!?」
上からタンス・・・。
「ひゃぁ!?」
目前を通り過ぎる振り子で吊るされた包丁・・・。
「うぎゃぁぁ、虫ぃ!?」
子供がコレクションしていた害虫のオンパレード・・・。
賊にとっては運悪く苦手なものをぶつけられて、そのまま賊は気絶した。
その他にも罠が何重にも設置されていて、賊達は露店から逃げ出す。
そして、丸太で転ぶ。
「ここもダメだ! 駆け抜けろ!」
走り出した賊の上に、第二波の丸太が来る。
容赦なく頭部に当たって気絶する者、また足を取られて仲間に踏まれる者、踏んだことで転んで倒れる者・・・ここまででもう300人いた賊の半分以上は倒れた。
「よし、抜けた───んげぇ!?」
露店の密集地帯から抜け出した賊は倒れた。
「どうしt───[ドスッ]・・・石?」
駆け寄った賊が、ゆっくりと空を見る。
雲ひとつない快晴・・・しかし、点々と黒い物体が賊達めがけて降ってきた。
「おわっ!? あぶねぇぐへぇ!!」
「おばっ!?」
「いていてぇ!? ひぎゃ?!」
石の雨で前には進めない。
後ろは、倒れた賊の追い打ちをしていた村の男たちが、棍棒を持って不敵な笑みを浮かべている。
その中心には、敗走した仲間達が言っていた"物凄く強い銀髪の女性"
彼らは気絶した賊を足場にして、丸太を避けている。
「あ、ああぁ・・・」
300人もいた賊はもう十数名。
武器は逃げている際に落としている。
どうすることも出来ない賊が絶望していると、降ってきた石にぶつかって気絶した。
男の子1「わーい!」
女の子1「もう一回! お母さん、もう一回やりたい!」
子供達がキャッキャと騒いでいる原因は、李典に作らせた小型の投石機だ。
掌サイズの石しか飛ばせないが、村の子供や女でも力点には充分過ぎる。
圭吾「にしても、こんな早く作れるもんなんだな」
真桜「言ったやろ? 専売特許やって。うちのカラクリ技術は天下一品や!」
圭吾「おう。さすがだ!」
真桜「っ・・・そ、そない褒めんなや。照れてまうやろ」
李典が短時間で作り上げたのは、小型投石機20台だけではない。
丸太を効率に切断する"電動ノコギリ"ならぬ、"ゼンマイ ノコギリ"。こちらの方が、時間がかかった。
元々、彼女なりのレシピが頭の中で出来上がっていて、材料さえあればいつでも完成させられたらしい。
木材も結構余ってたから助かった。
沙和「でもすごいのぉ。こんな発想、沙和にはできないのぉ」
真桜「せやな。まさか村の子供達も戦力に入れるとは・・・あんさん、もしかして実は凄い人なん?」
沙和「確かに、変わった服着てるのぉ。呉服店で見たことないし、阿蘇阿蘇でも読んだことないのぉ」
圭吾「あんたらに言われたかないわ。お前らもきわどい服着てさ」
真桜「なになに? 興味ある?」
圭吾「近づくな、胸を強調するな痴女」
真桜「痴女ちゃうわっ!」
沙和「そうだよ、真桜ちゃんはまだ───」
真桜「あほっ! そこまで言わんでええねん!」
勝利の余裕から、俺らの会話を聞いていた村人達が笑っている。
すると、一人の男の子が寄ってきた。先ほど手を挙げた子だ。
男の子「ねぇねぇ、お兄ちゃん。僕、役に立てたかな?」
圭吾「は? 何言ってんの?」
不安そうに見上げてくる男の子の頭をガシガシと撫で、
圭吾「おめぇは、村を救った英雄だぞ。胸晴れ」
男の子「[ぱぁぁ]・・・うん!」
母親のもとに帰っていく男の子。
それと同時に、楽進が捕獲した賊を引っ張って戻ってきた。
凪「残りの賊は、門の外で縛り付けにしています。こいつが賊の指揮官のようです」
圭吾「あっそ。んじゃ、あっちの隅で話でも聞こうか」
ごつい男の顔は青痣だらけ。
たぶん、村人の恨みつらみを一心に受けたんだろうな。
圭吾「おい、お前の仲間はあとどれくらいいる?」
賊の頭「・・・」
圭吾「・・・楽進、肩の関節外せ」
凪「ハ、ハイ!」
俺の発言を聞いて驚く賊は、ゴキッと鈍い音と共に悲鳴を上げた。
圭吾「次は肘を外してもらう。話すな?」
賊の頭「話す! 話すからやめてくれぇ!!」
真桜「よ、容赦ないなぁ・・・」
圭吾「んで? あと仲間はどんくらい居るんだ?」
賊の頭「ひゃ、百人ぐらい待機させている・・・」
圭吾「そいつらは今どこ───「きゃあああああああっ!!??」───っ!?」
凪・真桜・沙和「「「っ!?!?」」」
さっきまで居た場所から聞こえる悲鳴。
楽進に賊の頭を任せ、三人でそちらに向かう。
賊の下っ端「てめぇら! そこから動くんじゃねぇ! 動けばガキの喉元を掻っ切るぞ!」
そこには作戦を授けてくれた男の子を人質にとった賊だった。
圭吾「ちっ、一人逃してたか・・・」
賊の下っ端「まずは頭を解放しろ!」
男の子「っ・・・」
小剣の刃が男の子の首にくい込む。
近くで母親が、息子の危機に泣き崩れている。
賊の下っ端「早くしろっ!!」
圭吾「・・・楽進を呼んで来い」
真桜・沙和「っ・・・」
最後まで気を抜いてはだめだった・・・この慢心が敗北に繋げてしまった。
李典が楽進を連れてくると、楽進は唇は噛み締め、頭の拘束を解いた。
解いた途端、楽進を殴り飛ばす。
真桜・沙和「っ!」
二人は激情にかられたが、倒れながらも手を出して静止を促した楽進によって止められる。
すると、頭は次に俺の方へ歩み寄ってくる。
賊の頭「さっきの礼をしないと、なっ!」
圭吾「ぐふっ・・・!?」
ボディーブローをもろに喰らい、俺は一瞬宙を浮いて地面に倒れ込んだ。
賊の下っ端「頭ぁ!」
賊の頭「よくやった!・・・さぁて、次は外に縛り付けにしている仲間の解放だ。従わなかったら・・・分かってるな?」
母親の泣く声が一層、大きくなる。
「うるせぇっ!!」と頭が一喝するが、その泣き声は止まることはない。
賊の頭「ちっ・・・おい、ここで偉い奴は誰だ。付いてこい」
村長が重い足取りで、賊の下まで歩く。
先ほどまで無邪気に遊ぶ子供を見ていた暖かい目は、そこにはない。
そこで俺は男の子の方に目を移すと、目があった。
怯えて声も出ない様子だったが、目が合うと何かを決意したように頷いていた。
圭吾(よせ・・・勝手な真似すんな!)
目で訴えたが伝わることなく、男の子は呼吸を整えている。
そして、目の前にあった下っ端の腕にかじりついた。
賊の下っ端「いてぇ!? このガキっ!」
小さな反撃に、賊の頭もこちらの注意が逸れた。
そこに目にも止まらぬ速さで、賊の頭を殴り飛ばす影が通り過ぎた。
───楽進だった。
賊の下っ端「かしらぁ!?」
俺の近くに転がった賊のリーダー。
リーダーをやられて慌てる下っ端だったが、未だに噛み付いているガキを再び人質に取ろうとしたところで───俺が動いていた。
頭の中は真っ白だったが、"目の前で─の死んでいる姿"がよぎった。
過去の記憶の断片を強引に閉じ込めて、近くにあった石を思いっきり投げつける。
賊の下っ端「いぐっ!?」
凪「ハァアアアアッ!!」
渾身の上段蹴りが炸裂し、賊は放物線を描いて空を飛ぶ。
落ちてきた男の子を楽進がキャッチし、下っ端は落ちた衝撃で気絶した。
賊の頭「て、てめぇら・・・」
頭がフラフラな状態で起き上がると、近くにいた俺に掴みかかろうとしたが───
圭吾「んっ───」
その腕を取って、賊の勢いに乗せて背負い投げを決め込んだ。
「ぐえっ」と声を出して、頭は今度こそノックダウン。
圭吾「はぁ、はぁ、はぁ・・・ごほっ、ごほっ」
男の子の方を見ると、涙目のくせに笑顔を浮かべて、楽進に抱えられながら自信げに胸を張っている。
圭吾(やっぱ、今日の敢闘賞はお前のもんだな・・・)
こうして、長いようで短い賊との抗争に勝利し、今日はうまい飯が食えると俺は期待して───いたのだが、
村人見張り番「ちょ、ちょっとこっち来てください!」
見張り番の慌てた様子から、俺達は疲れた身体にムチを打って走る。
百人単位で縛り付けられている賊に目をくれず、遠い方ではためく旗を見る。
圭吾「曹・・・げっ!? やっべ、逃げねぇとっとどわぁー!?」
疲れでふらついたせいで、見張り台から落下する。
恥ずかしくも、俺はそこで・・・気絶した。
桂花「はい、ご飯」
圭吾「・・・」
目の前には、とてもテレビでは映せない代物が───
圭吾「だぁかぁらぁ───」
与えられたご飯を皿ごと地面に叩きつけて俺は叫ぶ。
圭吾「こんなんもん食えるかぁぁ!!!」
今日も俺の獄中生活が続く。




