第五話「ジェネレーションギャップ」
桂花SIDE
桂花「それで、アレは近くの村に身を寄せていると?」
兵士1女「はい」
桂花「その村が今、各地で討ち漏らした黄巾党の残党が襲っていると」
兵士1女「はい」
桂花「はぁ・・・」
参ったわ。
確かに、あいつを脱獄"させた"けど、死なれてしまっては元も子もない。
桂花「・・・今、華琳様は?」
兵士1女「劉備と名乗る義勇軍と共同戦線を張り、首謀者である張角を追い詰めている、と・・・」
共同戦線? 我が軍の規模ならば、そんな事をする必要は・・・。
しかし、華琳様が間違った選択をするはずがないし、今はそれよりもこっちの問題を片付けなければ。
兵士1女「どうされましょうか?」
桂花「・・・華琳様に報告。おそらく、早馬が着いた頃には討伐は終わってる。現状、ここにいる兵を動かすことはできないから、華琳様が直接アレを捕獲してもらわないと」
兵士1女「御意。私が行ってきます」
進言して部屋を出て行く。
部屋で一人になった桂花は、先ほどよりも大きなため息をついて、
桂花「私達が思ってた以上に、アレは手のかかる家畜のようね」
村人1男「賊が来たぞぉ!!」
誰かが悪口を言ったような気がしたが、賊の知らせにそんな気は消えた。
作業していた村人が、各々くわや斧を手に取り、女子供は村のさらに中心・・・村長の家に避難していく。
村人2男「お前も、ほれ」
圭吾「お、おう・・・」
渡された斧の刃には、べったりと赤黒い血が付着している。
本当に、今から殺し合いが始まるのか、と思うと震えが止まらなかった。
無意識に震えていると、ポンと肩に手を置かれた。
それは、三人の女性のうちの一人、体中に刻まれた切り傷が目立つ銀髪の女性だった。
凪「大丈夫。仲間を信じて、仲間を守る気持ちが強ければ必ず乗り越えられます」
そう言い、また他の人にも話しかけていく。
彼女は恐怖を少しでもほぐそうとして、回っているんだろうな。
年齢は俺と同じ? いやいや、たぶん年上だ。あんなに堂々としてるんだから。
凪「私達は、何度も賊達を撃退している! 恐れる必要はない!」
村人「「「「おーっ!!!!」」」」
圭吾「・・・おい」
村人3男「ん? どした?」
圭吾「前で指揮を取っている奴・・・名前、何て言うんだ?」
村人3男「楽進っていうらしい。すごいんだぜ。手や足から、得体しれないもの出して、賊を吹っ飛ばすんだ」
何それ? 鉄○か? ストリー○ファイターか?
まぁ、端から信じるつもりもないので、適当に流しておく。
凪「いつも通り、班を三つに分けて交代交代で前線に出る作戦で。一班は李典、二班は私、三班は于禁の指示に従ってもらいます」
こうして、俺達義勇軍総勢120名を40名ずつに分けられた。
俺は二班の楽進の班になる。
真桜「ほな、行くでぇー!!」
村人「「「おーー!!!」」」
先端にドリルがついた槍を構えた班長の号令に、村人は雄叫びとともに村を飛び出した。
次に前線に出る俺達は門の近くで待機。
圭吾「・・・」
目の前に広がるのは、テレビとかでたまに見る族同士の抗争の様子に似ていた。
だが、俺の知っている光景よりもさらに殺伐としている。
血が飛び散り、悲鳴がこだまし、雄叫びが続く。
圭吾(狂ってやがる・・・)
凪「よしっ、次は私達の番だ!」
村人「「「おぉーーーっ!!!」」」
圭吾「お、おぉー!」
始まってしまった・・・。
俺も狂った戦場に足を踏み入れていく。
二班が前に出てくると同時に、一班は下がってくる。
すれ違う村人は返り血でいっぱいだったり、負傷して肩を借りている村人もいる。
村人2男「おぉー!」
賊1男「ぎゃああ!?」
俺に斧を渡してくれたおっさんが、一人の賊の首元を錆びた剣で斬る。
キレが悪くなった刃は、賊の首から抜けないまま、おっさんは死体になった賊を踏み、引っこ抜こうとするが・・・
賊2男「しねぇぇ!!」
村人2男「ぁぎゃぁあぁ!?」
そこを突かれて、呆気なく首を斬られて絶命した。
圭吾「ぁ・・・」
死んだ。
首と胴体が離れて死んだ。
殺した賊は、興奮しているところを背後に回られた村人に殺された。
心臓を一突きされた。
圭吾「・・・な、何やってんだ」
一突きした村人は、賊二人に囲まれて地面に倒された。
すぐには殺されず、蹴られ、踏まれ続けている。
周囲にいる仲間は、自分のことで精一杯で助けに行けない。
圭吾「何、やってんだよ・・・」
何発か蹴りを入れて飽きたのか、剣先が村人に向けられ───
圭吾「何やってんだよ、おまぇらぁぁ!!」
自分でも驚くほどの叫びが出た。
一瞬、戦場にいる村人も賊も駆け出した俺の方を向いた。勿論、先ほどまで村人をリンチしていた二人の賊も。
走ってくる俺を賊が剣で切り伏せようとしたが、それよりも先に俺が振った斧が顔面に入った。
刃のない棒の部分で殴ったが、それでも鼻の骨が折れる鈍い音が聞こえた。
賊2男「てめぇ!!」
残った賊が俺を殺す気で剣を振り上げる。
だが、その動作が大振りであるため、振り下ろされる前の腕を抑えるのは簡単だった。
圭吾「こんっのぉ!」
斧を投げ捨て、がら空きの顔面を殴り飛ばす。
元の世界でも、ナイフを持った相手とやりあうことはよくあった。
カウンターのタイミングは、体が覚えている。
賊の体は放物線を描いて、地面に背中から倒れた。
賊2男「がはっ!?」
圭吾「おい、大丈夫か!?」
村人4男「あ、ああ。助かった───あんちゃん、後ろっ!!」
後ろを向くと、違う賊が武器を振り上げていた。
目の前に映る光景が、俺に"死"を感じさせる。
感じたこともない感覚は、ひどく気持ち悪くて、そして───どこか"肩の荷が降りる"のを感じた。
凪「ハァッ!!」
賊2男「ぐぁぁああ!?」
賊が風のように飛んでいく。
凪「大丈夫ですか!」
俺を救ってくれたのは、楽進だった。
武器を持っていない彼女は、村人の言っていた通り、得体しれない力で賊を倒したのだろう。
凪「三班と交代します! 急いでください!」
圭吾「あ、ああ!」
リンチされていた村人に肩を貸して後退する。
すれ違った村人も、何人か死ぬんだろう・・・やっぱり、この世界は、
圭吾「狂ってる・・・」
その日の襲撃は、十数名の村人の犠牲で撃退できた。
村は撃退できたことに喜び、"賊の死体"を焼いて宴を開いている。
俺はその光景に耐えかねて、門の見張り役を変わった。
圭吾「本当に、俺のいた世界とは違うんだな」
村の中心部から勝利の歌が聞こえてくる。
俺はそれが耳障りで仕方が無かった。
凪「あの! 少し門を開けても大丈夫ですか?」
圭吾「あ? ああ、別に問題ないぞ」
俺が答えると、楽進は門を空ける。
その様子を上から眺めていた俺は、彼女の寂しい背中を見て声をかけた。
圭吾「おい」
すると、楽進は振り向く。
圭吾「あんたは義勇軍の大将なんだろ? みんなの所にいなくていいのかよ?」
凪「真桜と沙和がいますから・・・私は、あまり騒ぐ空気に慣れないもので」
圭吾「まぁ真面目そうだもんな、あんた。じゃあ、何でここに?」
凪「・・・明日も賊は来る。そうなれば、また死ぬ人が出る。それを忘れないように、と」
その言葉に、ズキッと心に痛みが走る。
目を合わせていた楽進は、目を伏せて先ほどまで戦っていた戦場に目をやった。
俺もそちらに視線を送る。
あそこで人が死んだ。
遺体は回収したが、村人、賊が入り乱れて転がっている光景は目に焼き付いてしまっている。
凪「・・・ありがとうございました。もう戻ります」
圭吾「そうかい」
凪「・・・あの」
圭吾「なんだー?」
門を閉め終えた楽進が、また声をかけてきた。俺は戦場から視線を外さず返事する。
凪「あなたも宴に出ないんですか? ここの門の見張りは、あなたではないはずですが?」
圭吾「俺も苦手なんだよ、ああいう騒ぐの・・・お前と一緒さ」
振り向かないまま答えると、「そうですか」と楽進はそれだけ言って離れていった。
圭吾「人が死んだのに、喜べるかっての・・・くそったれ」




