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京女の公爵令嬢×元・浪速のトップ嬢。アップデートは薫り高きビジネスマナー(EQ)と共に  作者: 高瀬 八鳳


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EQは最強の武器であり、時に人をつなぐかけ橋となる

「まず、あらためて私の活動内容についてご説明いたします。私は、我が一門、そしてアップデート淑女の会の皆様に対し、自身を成長させ、その能力を人の役に立てることを目的として活動しています。そして、それはまわりまわって、この国の役に立つと信じています。女性の自立は、男性を貶めることにはなりません」


 私は、なるべく低く太く、よく通る声を意識して話す。

 そう、大企業の社長のように。

 ゆっくりと、自信満々に、一人一人の目を眺めるように周囲をゆっくりと見渡しながら。


「むしろ男性を助ける力が加わり、有能な人材の数が増える、つまり機会損失を防げます。身分にとらわれずに、今まで埋もれていた有能な才能を発掘し、それを活かせば、我が国はますます成長できるのです」


 即座に、宰相が切り返してくる。

 隠そうとはしているものの、彼の心の揺れは声に現れている。


「君のやっているのは、この国の根幹を揺るがす危険な行為だ! 女性を煽り、権利を主張すること、それ自体が国の成長を妨げるのだよ。君は多くの人間を自身の思想に染め、扇動した。もし、国家転覆を企てる者がでてくれば、君のその能力が利用されるやもしれぬ。どちらにせよ、君のEQスキルとやらを広める行動は、罪でしかないのだ!」


 彼の煽りにつられないように、私は、よりいっそう落ち着いた声を出す。


「宰相閣下は、どうやらわたくしが異能の持ち主だと危惧されているようですね。しかし、私は特別な能力を持っているわけではなく、ただありふれた作法の、今までにない使い方を提案しているだけなのです。そして、わたくしが何より大切にしているのは、仲間との連携、友情です。個人の成功より、仲間みんなで前進することを好みます」


 彼は、もう自身の感情を隠そうとはしない。


「何を、そのようなキレイ事は言い訳にすぎない! 詭弁だ!!」


 宰相の怒鳴り声、そしてその気迫は凄まじいものがあり、周りの保守派のオジイ共を、震え上がらせるほどだ。


「なんと言われましても、先達から伝えられてきたマナーは伝統そのものであり、わたくしは、マナーを愛しております。しかし、伝統とは、その精神を守りながらも、時代に適切なものであってこそ価値がある。いうなれば、木でできた館の朽ちた柱を削り、新しく添え木をしながら、大切に守っていく。それがわたくしの考える、伝統の守り方です。そして」


私は肚に力を入れて、宰相や保守派の一派を、正面から眼圧をあげて見据えた。


(うちの少年漫画のごとき魂の叫びを食らいなはれ!!)


「国の平和を憂う宰相閣下のお気持ちがわたくしごとき若輩者にわかるとは申せません。しかし、家族や友人、仲間の安寧を願う気持ちは、わたくしも負けはいたしません。国とは、つまりは人間です。互いに相手を敬愛する気持ち、思いやりを贈り合い、その気持ちが伝播すれば、どれほど良い共同体がつくれることでしょう」


 私はここで、目線を上にあげ、一呼吸おく。 いったん、ためをつくってからの。


「理想主義者だと言われようとも、わたくしは思うのです。これからは、刃で相手を傷つけて防衛するより、言葉で相手との間に橋をかけ、味方に引き入れる、そんな時代の到来を期待する、と!」


 舞台女優のように声をあげて、漢気溢れる役を演じきった私は、気がつけば扇子を振り上げていた。


 共に国を愛し、守りたいと言う私の主張と、自分の娘のまさかのマリアンヌ支持発言。自身の論がゆらいでいる宰相にさらに揺さぶりをかける。


「変化を拒むのは、対応能力がない木偶の棒だと自ら触れ回っているのと同じですわ。……わたくし達の憧れの聡明な宰相閣下は、いったいどこへ消えてしまったのかしら。 ねえ、皆様もそう思いませんこと?」


 扇子を持ちなおし、優雅に、しかし、戦士のごとき強者の存在感を放ちながら立つ私。


 聖女のような慈愛と優しさに満ちた笑顔、をつくっているつもりだが、目の鋭さと、隠しきれないどす黒いオーラが漏れ出ている。


 背後には、額に京の文字をもつ雅な狐。白い体を朱に染めながら、酷薄にもみえるうっすらとした笑みを浮かべ、私の高ぶりに呼応するように怪しく揺れている。


「……クッ……。無礼な……」 


 狐様は見えていないはずだが、白狐の圧に押され気味な、宰相。拳はわずかに震え、額には冷や汗が光る。


「ちょおちょお、マリアンヌ姐さん」


「何かしら、アイリーン?」


「あんまり詰めすぎたらあかんで」


 そこへ、介入してきたのはアイリーン。不敵な笑みを浮かべながら、なぜかこの場にいる誰よりも気楽な雰囲気で話す。


 「何事もほどほどの方があんじょういくって、確かどっかの偉い人が言うとったはず。知らんけど」


 軽やかに、しかしドスのきいた声は、よく通る。


 彼女の背後には、虎が、額に黒黄のメガホンが記されたド迫力の虎が、彼女の気持ちと呼応するように吠えたのがみえた。


 私は、もう一歩、前に進んでクロージングにかかる。


「宰相閣下、そろそろ、血の流れない変革を、新たな方法を一緒に進めていきませんこと?」


 敬意と、そして愛をこめて。


 先程までとは違う、心からの笑顔を宰相に向ける。


 宰相が、不審そうな目でこちらを真っすぐに見かえす。


 私は、先程より、高めで感情のこもった聖母の声を意識する。


「わたくし達は、みなこの国を愛している同志なのですから。歴史の重みを知る殿下に国の盾としてしっかりと立っていただき、わたくしたち若輩者が言葉の矛をあやつり外圧とやりとりする。想像しただけでも、心が踊りませんこと?」


 今まで散々煽っていた私が、掌を返したように正論を吐く姿に、宰相がカッとなるのがわかる。


「な、何を……。理想ばかり並べおって! 現実の厳しさを何も知らぬくせに! かの事件でどれだけ国が混乱したか、王がどれほど尽力されてきたか、多くの血が流されたのだぞ。お前に、刃で切られた痛みと恐ろしさがわかるのか? まだ幼かった妹は恐怖と血の中で命を落とした! その痛みが……おまえに……!!」


 宰相は震える自身の手の傷に目をやる。


 きっと、過去の恐怖を、傷を見るたびに何万回とリピートしてきたのだろう。


(長時間の緊張はストレス過多となり、理性的な考えを阻害させる。ちょっと、深呼吸を入れた方がええなあ)


「皆様、ここでひと息ついて、脳に新鮮な空気をおくりましょう」


 私はそう朗らかに声をあげ、片手に扇子を持ちながら両手を掲げ、体全体で大の字をつくった。


「はい、大きく息を吸って、吐いて。吸って……吐いて……」


 私の言動に合わせ、アイリーンやヒューイット、そしてララネや夫人、宰相の娘も、同じように深呼吸をはじめる。


 宰相達は虚をつかれたように、唖然としている。


 王族はみな無言で、珍しい動物をみる目で、私達を眺める。


(いかが、このフラッシュモブ的深呼吸ウェルネスバージョンは。宰相へのアンガーマネジメント攻撃として有効みたいね。他の皆様の、見事なポカン顔もテンション上がるわ。フォーッホッホッ!)


 私は、ヨガインストラクター気分で、清らかで落ち着いたかけ声を上げる。


「はい、あと三回、吸って、吐いて」


 私達以外は誰も言葉を発せず、呼吸の音だけが響く、奇妙な沈黙の空間と化した。


 私は優雅な姿勢に戻し、宰相に再び向き合った。


「さて……宰相閣下。お伺いいたします。閣下の御心にいるのは、40年前のご家族様だけですの? 愛娘の御顔を、しっかりご覧になったことはおありですか? ゆっくり語らった事は? 今、目の前にいる、わたくし達、若い人間は、話す価値もない無用な人間なのでしょうか?」


 ハッと、宰相の表情が今まで見せなかった色合いにかわる。


 彼の脳内では、過去から現在への様々なシーンが浮かび上がった。


 最初に血まみれの母と妹の姿が。そして、その妹と幼い頃の娘の姿が重なり、現在の娘へと移行する。


 もはや無垢な子供ではない、意思をもった、大人になろうとしている目の前の娘の顔を眺めた。


(……いつの間にか、知らないうちに大人になっていたのだな。いや、私が見ていなかっただけか。目の前の現実が見えていないのは、私のほうなのか……)


 宰相は、無言でタチアナを見つめる。


 タチアナも臆せずに、ただ静かに父を見つめ返す。


 暫くの透明な沈黙の後、その静寂をやぶり国王が言葉を発した。


「さて、ここは次の世代を担うお前たちにも意見を聞こう。王子達はどう思う?」


 王の問いに、まず第三王子が答えた。


「わ、私はマリアンヌ嬢の意見はいいと思います。私の婚約者のララネがどんどん素敵になったのは、彼女のお陰で……。私もララネの魅力がわかったし、その、言い方はともかく、マリアンヌ嬢の話している内容におかしな点はみられないかと。そう、思います!」


 緊張しながらも、必死で私を推す発言をしてくれたシール殿下。

 ララネの飼育が順調にいっている証拠だと、胸が熱くなる。 


 次はわが婚約者、第二王子サイファの番だ。


「まあとにかく、私のマリアンヌがやることに間違いなどあろうはずがないよ。なぜ、みんなそんなこともわからないの?」と場違いな溺愛発言をして、みんなをドン引きさせた。


(ちょっと! ……ああもう、さすがに、この場では恥ずかしからやめてえなあ、サイファ。 いやいや、この件は保留にして、ひとまずスルーよ)


 変な雰囲気になったところに、第一王子である王太子が咳ばらいをした。


「さて、王太子として、この国を継ぐ者として、私はマリアンヌ嬢の意見は大変有意義なものだと感じています」


 その発言は、宰相、そして保守派の貴族達の顔を歪めさせた。


 彼らが口を開くより、ほんの少し先に、国王がこう告げた。


「今、王国は過渡期にある。マリアンヌ嬢の言う通り、有能な人材をとりこぼすのは国家の損失。改革を考える時期にきたようだ。宰相、そなたはこの国を構成する重要な大黒柱だ。マリアンヌ嬢達の意見を取り入れながら、これからも我が国の為に、尽くしてくれないか」


 まさかの、国王からの梯子外しに貴族たちは信じられないというように目を見開いて国王を注視する。


 まさか、本当に?


 今までの歴史が、この場で一気に変わった衝撃が皆を貫く。


 宰相の時代が終わり、若手が国政に入ってくることが、告げられたのだ。


 青い顔で脂汗を流し、震える保守派貴族たち。


 オセロの一気に逆転したかのような、スッキリした表示でそれを見る父公爵。


 完全には納得できないまでも、自身の負を察し……苦虫を嚙み潰したような顔で、しかし「仰せの通りに」と宰相はとりあえずの和解を受け入れた。


 国王が小さく頷き、宣言する。


「マリアンヌ嬢の現在の活動は、王家として認めよう」


 わーっと歓声があがる。


「そして、保守派の一派が、裏で少し手荒な活動をしていたとの報告も受けている。今後は、正々堂々と表舞台で切磋琢磨しながら、より良き国にしていく為に協力してほしい。みな、宜しく頼むぞ」


 顔を見合わせながら、苦い顔をする、保守派の貴族達。


 私はサイファを目で探す。彼はいつもの笑顔で私を見つめていた。


 私も瞬時に彼に笑顔を見る。そして再度、宰相と向き合った。


「マリアンヌ嬢。私は負けたとは思っておらぬ」


「わたくしも、閣下に勝ったとは思っておりませんわ」


「これからも、あなたの活動をしっかり見守らせてもらおう」


「ありがたきお言葉」


「最後に一つだけ、伝えておこう」


「なんでしょうか」


「娘を、人間にしてくれて、感謝する」


「彼女は元々人間ですわ。ただ、守られ過ぎたがゆえに、思考を忘れてしまっていた。彼女は閣下の知と強さを継承された有能な人材です。閣下、これからも我々の良き道しるべとして、そして監査役として、見守っていただけると幸いですわ。この国の良き未来の為に。今後ともよろしくお願い申し上げます」 


 私は彼に、心からの尊敬の念をこめて、カーテシーをおこなった。


 背後の狐様は、ほんのりとした薄紅色にかわり、ふわりと尻尾で宰相を撫でた。


 彼は、フッと笑みをみせた。


「たいしたものだ、マリアンヌ嬢。こちらこそ、あらためてよろしく頼む。」


 宰相の娘が、私の隣に進み出た。


「お父様、わたくしはお父様の娘であることを誇りに思います」


 そして、父の手をとり、傷を優しく撫でる。


 少し照れくさそうに、しかししっかりと父を見つめて話す娘の姿は、成長を感じさせた。


 宰相から一筋の涙がこぼれた。


 私は心のなかで、おっさん、今日のところはこれ位で許したるわ、と毒づきながら。同時に、こうも思った。


(今回のことは国王の駒として動かされた感あるわね。あの澄ました顔、さすが40年間国のトップに立ってきたタヌキオヤジだけのことはあるわ。もし、ヘマをしたのがこちらであれば、切り捨てられたのはうちらの方やった……。まあ、ええわ。こちらも断罪を逃れ、女性の社会進出も果たせた。利があれば細かいことにこだわる必要はあらしまへん)


 私は、ちらりと国王と王妃の顔を眺めた。


 いつものように、微笑の手前、のような二人の表情。

 感情が全くないわけではなく、でも出し過ぎてもいない、その普通さが不気味な二人の顔を。


 そして、思いっきりニィっと頬を上げる。


 会場の後ろにいる、アイリーン、父やララネ、淑女の会の皆、ノートン夫人達の所に駆け寄り、皆と喜びを分かち合う。


 アイリーンが小声でささやいた。


「姐さん、やったな。これで、王家御用達や。ちょっと心配したけど、まあ苦労の費用対効果としては十分ちゃうか」


「アイリーンや皆様のおかげで、なんとか乗り切れたわ。ほんまにおおきに」


「んで、本音のところは?」


「うちらをなめとったら、えらい目みることになりますえ、かしら?」


「ううう~~、マリアンヌ様、最高に尊いお言葉でしたわ」


「本当に、舞台女優のような美しさと凄みでしたよ、マリアンヌ嬢」


「マリアンヌ、確かに真剣で打ち合うような緊迫感がなかなかよかったぞ」


 ララネ、ノートン夫人、父も涙ぐみながら、私の手をとる。


 ジワジワとこれで安心だという気持ちがこみ上げてくる、そこへ声がかかった。


「マリアンヌ様」


 王太子妃の呼び声に、私は御前へと近づいた。

 王太子妃は笑顔でこう言った。


「お見事でした。あなたの行動、台詞、感服いたしました。わたくし、これからもあなたとの良い関係を維持していきたいわ」


「殿下、もったいないお言葉でございます」


 王太子妃の瞳も、また底知れない光が宿っている。


 それは、賛辞なのか友愛なのか競合視なのか、それとももっと別な感情が混じっているのか。


(この方も、幼少期からおつき合いがあるけど、もひとつ読めない方の一人ね。まあでも、嫌いじゃないわ。これからも、適切な距離を保ったよいおつき合いをしていきましょう。大口顧客候補でもあるしね) 

 

私達は、高位の貴族女性らしく互いに仮面を貼り付けたまま、会話を続けた。


 一方。


 王太子が父王にささやく。


「王は、この結末でご満足ですか?」


「かまわん。どっちにころんでもかまわなかった。だが、そろそろ、変革があってもよい時期だ。マリアンヌ嬢は伝統を上手く自分の陣営に引き込む力を持ち、ある種の派閥をつくった。この後、彼らをどう活用するかお前の役目だ」


「御意」


 父と兄の会話を聞きながら、聞いていないようなふりをするサイファ王子。


 (まあ、終わり良ければ総て良し、かな? マリアンヌが嬉しそうであれば、それが全てだから)


 そして……


 会場の端には、誰だかわからないほどボロボロの衣服をまとったドットが気配を消しながら立っていた。


 サッと同じく気配を消しながら、ドットの近くに足を進めるサイファ。


「持って帰った情報は私がうまく活用するから、お前は帰って休めと言っただろう。ひどい顔だぞ。この一ヶ月間、あまり眠れていないのだろう?」


「お嬢様の晴れ姿を見逃すわけにはいきません。私はマリアンヌ様の専属メイドですから」


「ドット、こんなことを女性に言いたくはないが、臭いよ」


「まあ、ほとんど風呂に入ってませんので仕方ないですね。ただ、大人しく情報収集だけに努めましたので、血の臭いはしませんから、言う程は臭くありませんよ」


「……いや、まあ、十分……早く湯浴みをしてくれ。しかし、よく出来た報告書だったよ。感謝する」


「殿下こそ、お嬢様のために色々動いて下さりありがとうございます」


「当たり前だろ。私のマリアンヌのためなのだから」


「いえ、私のお嬢様です」


 二人は、会場の端から、嬉しそうに笑う私と仲間の姿を見ていたそうだ。


 こうして、私の生存をかけた断罪ルートは、みんなの協力のお陰で回避することができた。


 一部の保守派連中とは対照的に、私達、そして宰相とタチアナを取り巻く空気は、明るく澄んだものにかわった。


 私とアイリーンは、それぞれの背後を眺める。


 九尾の白狐様の体は、真っ白な輝く白色に戻り、虎はんも爪と牙を隠した大きな猫ちゃんに戻っていた。


 まるで、白ちゃんとロッコウ君のように、可愛らしく穏やかな表情に。


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