表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京女の公爵令嬢×元・浪速のトップ嬢。アップデートは薫り高きビジネスマナー(EQ)と共に  作者: 高瀬 八鳳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/22

メンバー集結! サプライズゲスト登場に沸く御前プレゼン

 ひと月後、前回と同じメンバーが王城に召集された。


 そして、会場の後ろには、アイリーン、ヒューイット、ノートン侯爵夫人、そしてララネ達数人の女性の姿もあった。

 第二王子が根回しして、国王の許可を取ってくれたらしい。


 会場はなぜか、大広間に変更されている。

 前回より、参加している貴族の数が増えている。

 少なく見積もっても、30人は増えただろうか。


(どないな意図があるんかわかりまへんけど……。どなたさんが相手でも、こちらは全力でやらせてもらう、それだけやなあ)


 私は、気合を入れて完璧な令嬢の仮面をつけなおす。

 隣に立つ父公爵の表情は、前回と違い、何か吹っ切れたような達観がみてとれた。


 私と目が合うと、彼は小さく肩をすくめた。


(このひと月間、家族ともひと言も話してへんかったけど、この親父さんの変化は予想外やなあ。うちだけやない。人は、誰でも変化する可能性を秘めている。嬉しい誤算やわ)


 私は決戦を前に、少し嬉しい気持ちになれた。


 そんな思いを踏みつぶそうとするように、宰相は凄まじい鬼の気迫と共に、言葉を発する。


「では、はじめよう。マリアンヌ嬢、国の規律を乱した罪は大きい。この国は、我々が必死の思いでつくりあげてきた。諸外国からの干渉、干ばつなどを乗り越えて、やっと平和な時代がやってきたのだ。男性が外で働き、女性は内側で補佐する。これが当たり前で正しい在り方なのだ。その事をしっかりと理解し、反省するのであれば、若気のいたりとして罪を問わないこととしてもよいが」


「その前に、少しいいだろうか」


 宰相の言葉を遮るサイファの言葉を合図に、ララネともう一人のベールを被った令嬢、ノートン侯爵夫人、アイリーン、ヒューイットが前にでる。


 宰相も他の貴族も、何事かとサイファを見る。


「父上に許可は取ってあるよ。マリアンヌの前に、関係者諸君の言い分も聞いてもらおうと思ってね。その方が公平だろう?」


 ぎろりとサイファを睨み、それから国王に目をやる宰相。


 素知らぬふりの国王、微笑みをたやさぬ王妃。


 相変わらず穏やかな微笑みの王太子、王太子妃の二人に、緊張した面持ちの第三王子シール。


 貴族達も何が起こっているのかよく理解しないまま、しかし、この事態を興味深げに見入っている。 


 まず、ララネが淑女会長として、会の実績、成果、自分自身にどれだけマリアンヌのマナー・EQ知識が役に立つかを熱弁。


 会の参加メンバーや、自身の母である侯爵夫人達からの意見書を読み上げる。


「わたくしたち女性は、決して操り人形ではなく、考えをもった個の存在です。学び、実践しながら、社会の役に立つ人間として生きたい。自分に誇りを持つ方法を、マリアンヌ様は教えてくださいました。EQ知識は作法としてのマナーを越える、自己の確立と安定に役立つ学問と言っても差し支えないかと存じます。また、無益な武力での争いを避けることができる、つまり平和的かつ建設的な言葉による武器としても活用できるのです」


 緊張しながらも、しっかりと発言するララネの姿に、不覚にも涙が込み上げてきた。

 特別顧問として仲間になってくれた元・王宮のマナー講師、ノートン侯爵夫人も援護射撃をしてくれる。


「最初、わたくしもマナーを冒とくしていると感じました。しかし、実際に話すと、それが大きな誤解だとわかりました。彼女達のしようとしている事は、歴史や伝統の否定ではありません。基礎を踏襲しながらも、より良いものに改良しようとする、つまりアップデートなのです」


 うなずく、ララネやアイリーン。


「ア、アップデ……?」


 言葉が理解できず、毒気を抜かれたように、唖然とする宰相はじめ保守派の貴族男性達。 


 その様子をみて微笑む王太子妃。


「アップデートとは、革新、前に進むという意味だそうですよ」と小声で王太子にささやく。


「宰相殿、わたくしは、彼女達の提唱するEQを、実際に体験いたしました。今では、彼女たち、いえ、わたくしたちがつくる未来が楽しみでたまりません。伝統を大切にし、受け渡すことを使命とするわたくしが、ここに立つ意味をご理解いただければ幸いです」


 流石は、伝説のノートン夫人。

 その立ち姿は、上位貴族をも圧倒する程の凛とした威厳を感じさせる。


 勝手は同士として立っていた夫人の離反に、宰相は憤怒の表情をみせた。


 ノートン夫人はそれを真っ向から受け止める。


 ピリピリする空気に、ざわつく貴族達。


 そこで、ララネやアイリーンの後ろにいた令嬢が、前に出る。


 ゆっくりとベールを脱いだ、サプライズゲストの登場だ。


「タチアナ……? まさか……な、なぜお前がここに……?」


 驚愕の宰相、周りの貴族達もざわめく。


「お父様、いえ、宰相閣下。私からも申し上げます。これからのこの国の在り方を考え、わたくしはマリアンヌ様を支持いたします。このアップデート淑女の会の活動が、わたくしたちの未来に必須の学問であると進言いたします! 以前のわたくしは、ただ教えられたマナーを、その通りに行う人形に過ぎませんでした。今では、そのマナーをいつ、誰に、どのように行うか、そして『何のためにそれをするのか』を考えるようになりました。私はマリアンヌ様や淑女の皆様方と出会って、生まれてはじめて、自分の頭で考えるということを知ったのです」


「ありえない、嘘だ! こんなことが……」


 自身の娘の姿を、信じられないと見つめる宰相。

 その苦悶の表情にほんの少しだけ心が痛んだ。 


「ど、どういう事だ?」


「まさか、宰相の娘が、裏切ったのか?」


 大広間全体が、その場にいる者たちの動揺で大きく揺らぐ。


 そこに、空気感を無視して、アイリーンとヒューイットが前に出る。


「こんにちは、ホテル支配人のヒューイットです」


「ホテルマネージャーのアイリーンです。ホテルについて誤解されてる方もいはる思うんで、少し説明させてください。私の下町訛りはご容赦くださいませ。我々のホテルは様々な仕事の中継地として機能しはじめてます。国内外の物流の新規仕事の話は、この街へきたらまずこのホテルへ、という流れができつつあります。こちらの板をごらんください」


 アイリーンが大きめの紙を、紙芝居のように、国王や宰相に向ける。


 円や棒グラフにより、わかりやすいデータが示されている。


 アイリーンが、ドヤ顔でまくし立てる。


「オープン直後から、2日前までの最新の数字です。売上は勿論、宿泊者人数、客単価、身分は上級貴族、下級貴族、富裕層平民、一般平民と分け、目的として商用、観光、その他で区分しています。居住区で国内、海外からのお越しかも把握しています。出発時の質問表で、私達ホテルの、狙い通りの答えがもらえている事がわかります。他ホテルとの差別化、つまり元貴族様の館を改築した建物自体の高級感と、スタッフのEQを活用したマナーにより、お客様は高い満足感を得ています。複数回ご利用のお客様や、利用した方から聞いて来たというご紹介が多いのもその証拠かと。こちらには売り上げ、納税の数字が全て記録されています。勿論、マリアンヌ様への謝礼も含め、寸分の狂いもない完璧な台帳です」


 そのマシンガントークに皆、圧倒されながらも、データを興味深げに見つめている。


 選手交代で、ヒューイットが話し出す。


「このあたりの数字については、まだまだ不確定要素が多いので、今後もしっかり追っていくつもりです。また、私達のホテルは平民、そして女性が活躍できる場所だからこそ、この結果を実現できたと考えています。この客単価の高推移は、女性の細やかな気遣いと洞察力があったからだと考えていますので。そして」


 ヒューイットは、いったん言葉を切り、アイリーンを見つめた。


「私は彼女のような心強い伴侶を得られて、商売人としても、いち個人としても幸せです」


 そう言って、二カッと笑った。


(ちょっと、さすがにここで惚気は大物過ぎるやんかヒューイット! もお、アイリーンも嬉しそうな顔して、今ここがどこかわかってんの? 流石に王様まで、ちょっと引いてるやん)


 先ほどまでの深刻なムードが、一瞬にしておいおい、空気よめよ、意外と肝の据わった男だな、という呆れた雰囲気にかわる。


 アイリーンがその場を収めるように再び口を開いた。


「あの、この社会は、うちら平民や農民がいるからこそ成り立ってるんちゃいますやろか。王様やお貴族様が頭やとしたら、うちらは体や。食べたり、活動するには、頭だけでは生きられへんもんです。うちらは社会のちっぽけな歯車かもしれんけど、一人一人が立派で重要な部品やと思います。そのあたりを、もう少しわかっていただけたらなあと。この資料は、日々必死になって働くうちらの、血と汗と涙の結晶なんです」


 アイリーンは一度口を閉じ、ホールの貴族の全員と目を合わせるように、ゆっくりと目線を動かした。 と、同時に、背後にぶわわっとリアル・ロッコウ君、虎があらわれ、アイリーンと同じように前方を射殺しそうな勢いで睨みつける。


「身分に関係なく、みんなで楽しく平和に生きよう、それを合言葉にしたい思てますし、そんな国であってほしいと願います。あと……」


 きらりんと目を輝かせて続けるアイリーン。


「ホテルや店という事業はいわば人の和をつくる力があります。良い店をつくれば、良いお客様が集まる。割れ窓理論の逆……、ええと、親切な対応を提供すると、お客さんも親切に応えてくれる、つまり親切な人化現象が起こるんです。簡単にいうと、悪人が減りますねん。それが広がれば、事件の数がへる。よお考えたら、これがどんだけ国防に役立つか、武力やお金を使わずにすむ賢い理屈か。こんだけ言うたら、わからはりますやろ?」


 他の貴族の顔を先ほどより圧の強い眼で見渡しながら、最後にこう締めくくるアイリーン。 虎さんも、いつもの咆哮のポーズで、大広間を威嚇した。 ビリビリと、その声にならない声が、空気を震わせているのを感じる。


「百聞は一見に如かずや。まずは、皆さまもうちの従業員の顔を見にお越しください。馬丁が、門番が、そして食堂や清掃係りが、どれだけ誇らしげに働いているか。後ほど割引券をお渡ししますさかい、ぜひご検討くださいませ。以上です」


 アイリーンの言葉に、私はホテルで指導したスタッフ達の姿が、次々に頭に浮かんだ。


 最後に、ノートン侯爵夫人仕込みの完璧なカーテシーを決めて下がるアイリーン、そしてヒューイット。


 静寂に包まれた一瞬を見逃さず、すかさずサイファが前にでる。


 手には何十枚もの、紙の資料が握られている。


「私は陛下より動くなと命令されていたので、一切手をかしてはいませんが、ある方よりどうしてもこの情報をこの場で伝えてほしいと託されました。今朝、うけとったばかりの、近隣諸国の最新情報です。続けてもよろしいですか?」


「近隣……諸外国の最新情報」


「今朝ということは、本当に今の外国の情報か……」


「いったい、誰が、どうやって……」


 王、王妃が面白そうに息子をみつめ、貴族達にはざわめきが広がった。


 宰相は忌々し気にサイファをみるが、彼は全く知らん顔で国王を仰ぎ見る。


 国王は無言のまま小さく頷いた。


 「この最新情報によると、近隣10か国の内、女王制度の国と共和国を自認する国が最近誕生した。女性が跡継ぎとなることを認める国もここ数年で増えてきている。ここには、具体的な国名と実態、数字が細かく書かれている。誰もが喉から手が出る程欲しがる、各国の内部情報を含んだ詳細な情報だ。これを後ほど、王にお渡ししますよ。鑑みるに、我が国も昔の制度に胡坐をかいていないで、現状に即した改革が必要な時期にきているのではないか、ということではないだろうか?」


 サラリと爆弾発言をするサイファに、さすがに国王も苦い顔をした。


 宰相の表情は土気色に変わっていくように見える。


 保守派の貴族たちも、サイファの発言にはパニック状態だ。


 それらを微塵も気にすることなく、彼が微笑みながら私に告げる。


「マリアンヌ、最後に、君の言葉をみんなに聞かせてやってくれ」


 私は、伏せ気味だった顔をあげる。


(皆さま、素晴らしいサポートをありがとうございます。わたくしの最終意見報告に、そろそろうつらせていただきましょか)


 やる気に満ちた、ギラギラの目で皆さま方の顔をぐるりと見渡して。


 私は得意のいけずな笑みを浮かべる。


 私の背後で、過去一番、大きくゆらめく白狐様。その鋭い眼と徐々に紅に染まる体はどんどんと巨大化していく。九尾はブンブンと回転し、天井に届く勢いだ。


 大広間の全員の視線が、私に集まる。


(ほな、断罪ルートはお気持ちだけいただいて、今日この場で綺麗さっぱりお断りさせてもろてええやろか)


 私は肚にぐっと力を入れ、背筋を伸ばす。


(一世一度の晴れ舞台、しっかり務めさせてもらいます!!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ