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京女の公爵令嬢×元・浪速のトップ嬢。アップデートは薫り高きビジネスマナー(EQ)と共に  作者: 高瀬 八鳳


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15/22

勝負! 新旧マナー講師対決

 学園内、そしてホテルのトラブルが落ち着いて3ヶ月が経つ。 皆のお陰で事なきを得たと、本当に感謝の心でいっぱいだ。 あらためて、私には、力強い仲間がいるのだと感慨深いものがある。


 ただ、まだ油断はできない。


 彼らが次に何を仕掛けてくるのか……。

 今のところ、アイリーン達のホテルは順調に街の「インフラ」になりつつある。


 街中のリゾート地として、ビジネス接待の場として、実績をつんでいる。


 少し身分が上の貴族に対応していくうちに、平民スタッフ達も慣れてきて余裕がうまれてきている。 


 ホテルの人気と共に、ホテルで開催されるイベント「アップデート淑女の会」の知名度もうなぎ上りだ。


「マリアンヌ様、今日は前回からさらに20%アップの、60名が参加予定です」


「60名? すごいわね。資料は大丈夫?」


「勿論ですわ! 当日とび込みを鑑みて、80名までは参加可能なように用意をしておりますから」


「ララネ様……。すっかり立派な運営者兼、現場監督になられて……」


「フフッ……ありがとうございます。これも、全てマリアンヌ様のお陰ですわ。会員の皆様からも、感謝のお声が絶えませんわ。あの学園での事件があったからこそ、わたくし、今のこの活動が楽しくって仕方ないのです。それに、最近はシール殿下とお茶をする時にも、マナーについて色々聞いて下さるようになって。二人で一緒に新聞を読みながら勉強しているんですの。というていで、しっかり教え込んでいるのですけれどね」


 そう言って少し悪そうに笑うララネの姿は、本当に自信に満ちて輝いている。


「……わたくしも、負けないように頑張らなくてはね! 今日も宜しくお願いしますわ」


「はい、かしこまりました!」


 アップデート淑女の会の新メンバーのなかには、ベールをかぶって身元バレを防いでまで参加する熱心な令嬢達の姿も。

 勿論、そのような方には、身分をあえて聞くような野暮な真似はしない。まあ、会員料はしっかり前金でいただきますけれどね。


「勇気をだしてご参加くださり、ありがとうございます。もしご不便があれば、遠慮なくおっしゃってくださいませ。アイリーンさんが窓口になり、全力でサポートいたしますわ」


 表玄関と裏口を、それぞれの事情により、臨機応変に使えるよう便宜をはかるアイリーン。


 めんどうだと愚痴るスタッフに、アイリーンが元気よく指導している。


「接遇は誰に対しても同じ事してたらおもしろないねん。顧客ごとに、それぞれに合わせた対応が感動をよび、満足度をあげ、熱烈な応援者になってくれる。仕事とは、他人さんのお困り事を解決してこそ飯のタネになるんや。多少めんどうでも、あんじょうしたげてや。皆さん大事な、このホテルの未来の太客候補なんやから!」


 楽しそうに話すアイリーンの後ろには、『商売繁盛』『未来の太客』と書かれた手ぬぐいを手にするノリノリの虎様の姿が……。


(虎はん、進化し過ぎちゃう? 商売繫盛って、まあアイリーンの好きな言葉やけれども、けれどもやで)


 そんな風に思いながら、会場の前にある講師席に座った。


 机の上にある、本日の授業用ペーパーに記載されている自分の文章をチェックする。


 ララネ監修の、可愛らしくデコレーションされた装飾がなされたペーパーは、見てるだけでこちらの気分を上げてくれる優れものだ。




-----------------------------------------------------


『本日の皆さまへお伝えしたい言葉』


もし、世界でひとりぼっちだと感じても、その闇に飲み込まれないで。


助けを求めれば、それに応えてくれる人が、場所が、どこかに必ずあると信じるの。


信じるのが難しければ、かもしれない、でもいい。


世の中には絶対はないから。


大抵のことは、かもしれない。そんなもん。世界を狭めないよう、みんなで情報を共有しましょう。わたくし達は、いつでもここで、皆さまをお待ちしています。


------------------------------------------------------


 そこへ、この世界でのかつての師が乗り込んで来た。


 イボンヌ・ノートン侯爵夫人。私もマナーを学んだ、プロ中のプロフェッショナルだ。


「マリアンヌ・リーシェント公爵令嬢。ごきげんよう。久しぶりね。あなたの残念な行いを聞き、わたくしは愛弟子を再教育しにまいりました。あなたのやっている事は、マナーへの冒とくです。今すぐ、このような馬鹿げた会はおやめなさい」


 その立ち姿、そして話す声と言葉は、さすが伝説の王宮専属マナー講師。

 美しさと威圧感が同居する、素晴らしい方だ。


 久々の師の完璧な立ち居振る舞いを前に、こちらも襟を正す。


 私は、完璧な120%のカーテシーを行った。


「ノートン侯爵夫人、ご無沙汰しております。わざわざお足をお運びくださりありがとう存じます。久しぶりにお顔を拝見できて嬉しいですわ。ただ、なにか誤解をされていらっしゃいますね。わたくしはあなた様から得たマナーを今も実践しております。ただ、そこに少しおもてなしの心をつけくわえた理論を、皆さまにお伝えしているだけですわ」


 一歩も引かず、いつも以上に、高貴な微笑を貼り付ける。


「いいでしょう、では、皆さんがどちらのマナーを支持するか、聞いてみません事?」


「よろしゅうございます。ただし」


 私は彼女の顔をみながら、ゆっくりとこう続けた。


「審査は公平性が大切ですわ。審査は、貴族だけでなく、平民の方にもお願いしたいと存じます」


「平民に?」


 夫人は不快そうに片眉を上げた。


「ええ、当然ですわ。ここは、貴族と平民、どちらの身分の方も利用するホテルですもの。それとも、ノートン侯爵夫人はご自身のマナーが平民の方には通じないと……自信がないのでしょうか?」


「ホホホホ……。自信がない、わたくしが? 馬鹿馬鹿しい。どなたが相手でも、けっこうよ」


 真剣な顔でどう動くべきか悩んでいるララネ達、アップデート淑女の会の幹部たち。


 そこへ、明るい声が響いた。


「はいはいはい、マナー対決、勝負はこのホテル支配人のヒューイットと私、アイリーンが見届け人をさせていただきますね。本日、アップデート淑女の会にご参加の皆さま、は運がよろしいわ。今日はめったに見れない、一流のマナー講師の所作が勉強できますよ!」


 アイリーンの掛け声に合わせ、ララネ達も動き出す。


「皆さま、どうぞお席におかけくださいませ。まもなく、新旧マナー講師の方の、お手本をご覧いただけます。どうぞお席に」


(ノートン侯爵夫人とのこの勝負も、講座内容に組み込む厚かましさ。さすがアイリーン。そしてララネ達も、臨機応変に自分の頭で考え、動ける人材へと成長した。感無量やわ……)


 会場の前の方にスペースをつくり、机と椅子を5つ並べだすヒューイットとアイリーン。


(予想外やけど、ここは最大限、夫人を利用させていただきましょ。守破離。武道では、まず教えを守り、そして破り、離れる。それが道というもの。私も、師の教えを破り、離れてこそ、親孝行ならぬ師匠孝行ですから。手加減なしで、本気でいきまっせ!)


 そこに居合わせた、貴族と平民5名に事情を話し、審査員になってもらうことにした。


 そこで、どちらが快適に感じたかで点数をつけてもらうのだ。


 それを見守るアップデート淑女の会メンバー、盛り上がるお客様、ホテルのスタッフ、そして出入りの業者たち。


「なんか、おもしれえ勝負がみれるらしいぜ!」


「お貴族様のもてなし作法だって! ちょっと見にいこうよ」


「見たい見たい!」


 近隣の店の人間も、集まってくる。


 お題は、『5人のお客様に歓迎の言葉を伝える』こと。


 この一連の動作について、各審査員が「形式点」と「おもてなし点」の各5点、合計10点満点で点数をつける。


 おもてなしの言葉は、特に規制はない。


 5人の審査員に、交互に接遇を行う。


 一人目は宿泊客の子爵、中年男性。


 二人目は宿泊客の男爵夫人、20代。


 三人目はレストラン利用の男爵、30代。


 四人目は宿泊客の富裕平民、50才オーバー。


 五人目はレストラン利用の平民、20代。


「では、まずはわたくしからまいりましょう。手本をおみせしないといけませんからね」 


 ノートン侯爵夫人はそう言うと、5人全員に同じように完璧なカーテシーと、微笑みながらのおもてなしの言葉を繰り返した。


「ようこそいらっしゃいました。心より歓迎いたしますわ。どうぞ、ごゆっくりお楽しみくださいませ」


(確かに完璧だわ。あのカーテシーの頭を下げる角度、タイミング、スピード。全てが調和されて、本当に美しい。5名ともに、金太郎飴かロボットかというほど、ハンを押したように同じ事を繰り返す技術。さすがだわ。だけど……)


 私は、夫人が礼をする時の5人の表情を見逃さなかった。


(フフフッ。では、私の本領発揮といかせてもらいましょか)


 私は一人目の子爵には、最初に完璧なカーテシーを行ってから、こう話しかけた。


「ようこそいらっしゃいませ。今日はご家族様とご一緒ですか?」

「そうです。このホテルの噂をきいて、大浴場というものを体験しに隣領からきました」

「まあ、隣領から! ありがとう存じます。ぜひごゆっくり、温かいお風呂をお楽しみくださいませ」


 そして、最後の挨拶はこのホテルで採用している45度の最敬礼を行った。


 二人目の男爵夫人にも完璧なカーテシーを行ってから話しかける。


「ごきげんよう。ホテル時間はいかがでしょうか?」

「ありがとう存じます。とても楽しく過ごしておりますわ」

「もし、まだカフェ&バーをご利用でなければ、ぜひどうぞ。夕方の時間帯でしたら、お一人でもごゆっくりいただけますわ」

「そうさせていただくわ。あら、わたくし、ひとり利用とお話したかしら?」

「フフフッ、なんとなくそう感じましたの。自由な香りがするような」

「自由の香り。素敵ね。自由を堪能させていただくわ」


 彼女への最後の挨拶は、ダンスのような最敬礼を行った。


 三人目の男爵には、最初にカーテシーでなく、あえて45度のお辞儀をした。彼はリピーターなので、この最敬礼に慣れているのだ。


「いつもご利用くださり誠にありがとうございます」

「え、私のことを知っているのですか?」

「ふふっ、お客様からオコノミヤキの香りがしたもので」

「ははは、匂いでバレるんだね。でも、本当にこのオコノミヤキは最高だよ。黒いソースがたまらないんだ」

「はい、このホテルの名物ですもの。ぜひ、きなこ団子もご賞味ください」


 そう言ってから、最後に軽やかなカーテシーを行った。 四人目は富裕平民。軽く15度の会釈をしてから声をかける。


「ようこそいらっしゃいました。商談の進み具合はいかがでしょうか?」

「おお、有難い事に、うまく進みましたよ。おや、あなたはどうしてその事を?」

「スパイをしたわけではございませんのでご安心を。お客様のお持ちの、そのサイズの黒鞄は、商売をされている方々が好まれる、契約書がキレイに収まるサイズのもの。そして、晴れ晴れとしたお顔をされていらっしゃるので、商談がまとまったと推測したのですわ」

「ハハハハッ、これはやられた。いや、その通りです。かなわないなあ」

「ご商談の成立、おめでとうございます」


 この方には、締めに完璧なカーテシーで敬意をあらわす。


 五人目は平民男性。まずは、同じく15度の会釈をして。


「こんにちは、ようこそいらっしゃいました」とにっこりと笑いかけた。

「は、はい、こんにちは。お邪魔してます」

 焦り気味の彼の少し斜めに立ち位置をずらし、こう続ける。

「はじめてでいらっしゃいますか? 今日は何を召し上がりに?」

「あの、友達が美味しかったと言ったのを聞いて、僕も食べてみたくなってきました。あ、さっき別の人が言っていた、オコノミヤキです、はい」

「まあ、ありがとうございます! オコノミヤキはわたしも大好きですの。こんがり、カリカリした部分もたまらないのです」

「へえ、そうなんですね。ますます、楽しみになりました」

「この後、ぜひお楽しみくださいませ」


 そう言ってから、あなたに敬意を示しますと言う気持ちを込めた軽いカーテシーを行った。


 そして、私は審査員席を離れ、ノートン侯爵夫人の側へと戻った。


(一人目の子爵は、常に会場の外の誰かとアイコンタクトをとっていた。誰かと一緒にきている証拠。そして、ビジネスの緊張感はなし、つまり、親しい人間ときていると予想した。二人目の男爵夫人はその逆、誰も探す気配はなし。そして審査員という目立つ役を引き受けた。新しもの好きで物おじせず、余裕の雰囲気から、リフレッシュひとり旅だと推測。三人目は本当は常連だと知っているけど、それを言うと不公平やしな。さっきもオコノミヤキ食べてる姿をみたから、匂いという事にした。四人目は言うた通りで、5人目は、夫人の圧に一番ビビッてはったしな。リラックスしてもらうよう、立ち位置をずらした)


 審査員達は、手元に用意された紙に、「形式点」と「おもてなし点」を書きだした。


 堂々とした一部の狂いもない作法をみせた夫人。


 個々に違う言葉と対応を行った私。


 それを食い入るように見ていたララネ達、マリアンヌ親衛隊のメンバーと淑女の会の参加者。


「お二人とも、どちらもお美しいですわ」

「この所作を拝見できて、今日参加できて幸運ですわ」

「なんかわからねえが、すげえ気迫だなあ」

「ああ、お貴族様のマナーってすげえんだな」

「体って、あんなにキレイに動くんだね」

「お辞儀しただけで、なんか空気がかわるなんて、魔法みたいね」

「マリアンヌ様、なぜあのように個人の事情を読み解くことができるのかしら?」


 あちこちで、貴族も平民も皆が一緒になって感想を述べあっている。


「はーーい、5人の方、全員の採点がおわったようです!」


 アイリーンの声が響いた。 会場の空気が、ピンと張りつめたものに変わる。


 ヒューイットが、この場の責任者として、点数を合計してから、ホワイトボードに、5人の採点用紙を張り出した。


 みんなが食い入るようにボードを見つめた。


「では、発表します。点数が高いのは……」


 周囲の目が、私とノートン侯爵夫人に集中する。


 皆が、息を呑んでみまもる。


 ノートン侯爵夫人は自信に満ちた笑顔で私をちらりとみた。


 私はモナ・リザの微笑で応える。


(うちは、うちのEQをめいいっぱいぶち込んで接客した。負けるはずがあらへん!)


 その場の緊張はヒートアップしていくが、背後の狐さんは、あくびするようなどこ吹く風の態度で、私の心を落ち着かせてくれるのだった。


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