153。ラブラブしようぜ!
「に、人間だぞ!?」
「城兵を呼べっ!」
「囲めっ!」
フードを取り外したレイアの姿を見た途端、謁見間にいる魔族たちは騒ぎを立てて彼女を捕まえるように囲む。
「……人質していい?」
「いい訳ないでしょう?」
やっぱりこうなるか……そうレイアは内心で呟くと一緒に囲まれているイェリアに一応許可を取ってみるけど、当然却下された。
「完全に悪者になりたいの?」
「この状況を打破するにはそうするしかないけど?」
もしイェリアを人質にしたら魔族たちは誰も迂闊に動けないから、確かにこの場所から逃れるかもしれない。
しかしそうしたら彼女は完全に犯罪者、お尋ね者になってしまう。
「静粛にっ!」
どうしようかなと二人は静かに悩んでいると玉座から魔王は大きな声を出して、それによって騒いでいる魔族たちは全員困惑して黙ってしまった。
「各々の位置に戻れ」
「しかし魔王さーー」
「戻れと言ったはずだが?」
「ーーっ! 分かりました……」
命令に文句を言い出そうとしている魔族の一人は魔王に圧が掛けられると手に握っている得物を仕舞って、初期位置に戻った。
「なんだ、出来るじゃない」
「煽ってどうするのよ……?」
次々と自分達の位置に戻っている魔族達を見てレイアは肩をすくめるとイェリアは呆れて溜め息を吐いた。
「一応訊くが、精霊の女王である証拠持ってるか?」
「そんなのある訳ないでしょう?」
精霊に対して身分証を提供しろと? あんたメルヴァレイんとこの爺さんと同じだね、とレイアは自己紹介する度に訊かれる質問に対してうんざりしてきた。
「ほう? レンアルの爺知ってるのか?」
「懲らしめたわよ」
なにっ!? とレンアル町長の事を知っている魔族達はレイアの言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
「んで?」
身分証ないけどどうする? そう暗に訊いているレイアにしばらく黙っている魔王は問うた。
「証とか精霊王様から貰わなかったか?」
「証? うーん、あるけど?」
その質問に対してレイアは左手を顔の前に上げて、薬指に嵌めてある漆黒の指輪を見せつける。
「証拠になれないと思うんだけど」
期待は薄い。
当然だ。フェルの魔力を感じ、覚えないとレイアの指輪はただの結婚指輪でしかない。
「すまんがよく見せてくれないか?」
「……いいけど、イェリアにしか任せないよ?」
「え?」
突然出された自分の名前を聞いたイェリアは驚いて、何言っているの!? と言わんばかりに勢いよくレイアに振り向いた。
「任せたわよ?」
「そう言われてもーーん?」
溜め息を吐いて指輪を受け取った瞬間、イェリアは違和感を感じて自分の手にある指輪を見ながら首を傾げた。
「どうした、イェリア?」
「え? あ、いいえ、何でもないです」
ジッと動かない彼女は魔王に声を掛けられると我に返って、レイアに頷かれた後手を握って玉座まで歩いた。
「どうぞ」
「……」
やがて魔王の隣に来た彼女は指輪を見せると魔王の表情は少し険しくなって、その変化に気付いた彼女は大丈夫でしょうね? と一瞬でレイアに視線を飛ばして内心で呟いた。
「いや、十分だ」
「よろしいのですか?」
「ああ」
指輪を受け取らない魔王は頷いて、わかりましたと頷いたイェリアはレイアの所に戻った。
「それで?」
返された指輪を受け取って、感謝の言葉を述べたレイアは魔王の目を真っ直ぐ見る。
「……ふーむ、とりあえず用件を言うがいい」
黙ってはいるけど、魔王はどうしたらいいか分からなくてしばらく考えた結果、話を進める事にした。
「約一年前に空に光玉が飛んでたけど、知ってる?」
「そうらしいな」
「それについての情報を全部教えてほしい」
そうレイアは魔王の目を見ながら言い出して、再び沈黙した魔王はやがていいだろうと頷く。
「だが情報をまとめる時間が要る」
「構わないわ」
「用件はそれだけか?」
ええ、とレイアは質問に答えると魔王は立ち上がった。
「客人の部屋を準備しろ! イェリアは後で俺の事務所に来るように」
そう指示を出した後魔王は謁見間を出た。
▽
「失礼します」
ドアをノックして許可が下されるとイェリアは部屋に入った。
「……」
「どうかしましたか?」
ただ黙って自分を見ている相手に彼女は首を傾げた。
「いや、その喋り方どうにかできねぇのか?」
後ろ頭を掻いて、その人は溜め息を吐いた。
「そうはなりません」
「許婚なのに?」
「……」
そう、相手は魔王だ。
謁見間に出された指示通り、イェリアは彼の事務所に来た。
「仕事するために来たのですが?」
なぜ呼ばれたか大体の検討についた彼女は最初から仕事モードに入って、自分の許婚に対してもまるで上司と話しているような言葉使いをしている。
「あのなぁ、今は二人きりだぞ?」
そんな彼女に魔王は少し肩の力を抜いた方がいいんじゃねか? と言いながら席を勧めた。
「じゃあ仕事が終わったら普通に接触しろよ?」
「……いいでしょう」
仕事が終わったらビジネスの態度を保つ必要はないと思ったイェリアは向かいのソファに腰を下ろした魔王に頷いた。
「お前の連れだが、彼女の目的聞かされたか?」
「いいえ。一年前に上空に飛び去った光玉を追っている以外は」
確かにこの数ヶ月の間一緒に行動していてもレイアは何も言わなかった。
なぜ光玉を追っているのか、その光玉は何なのか、何も。
「そっか……」
「それがどうかしましたか?」
「彼女自身についてなんか聞かされたか?」
いや、なんでもないとイェリアの質問に答えた魔王は次の質問に移った。
「えっと、探検者で一国の王妃、そして現精霊王の妻と教えてくれました」
「それ、怪しいと思わねぇのか?」
属性盛りすぎだろう、そう改めてレイアの肩書きを聞いた魔王は内心で呆れた。
「思いました」
「今は違うと?」
「ええ」
会った間もないの時、確かに怪しいとイェリアは思っていた。ただの強い人間じゃないかって。
しかし数ヶ月間一緒に行動した結果、あまり自分の事を話さないけどレイアは悪い人じゃないと彼女は思い直した。
「彼女は精霊王の妻だと?」
「さあ? 確証はありません」
「そっか……まあそうだろうな」
人間と違って精霊に身分証はないから証明しろと言われてもできない、レイアもそれをする気はないから彼女は精霊王の妻である事を確認するには精霊王から直接聞くしかないのだ.
「それでどうします?」
「シェイドに訊いた方が早いんだがなぁ……」
あいつ何処で何をしてるか分からん、と魔王の脳内に後ろに小さなコウモリの羽が付いている可愛い女の子、闇の大精霊の姿が浮かんで、彼女の自由な性格を思い出して溜め息を吐いた。
「まあやる事は決まったけどな」
「……」
「な、なんだ?」
半眼になったイェリアの視線を受けた魔王は少したじろいだ。
「やる事はもう決まりましたか?」
「ああ、一応な」
実は彼女が魔王の事務所に来る前に魔王にはすでに計画があったのだ。
「じゃあなぜ私が呼ばれたのですか?」
ならなぜ彼女はこうしてここにいる?
それはーー
「ラブラブしようぜ!」
「時と場所を考えなさいっ!」
「そ、そんなぁ!?」
ーーくだらない魔王の願望ゆえにだった。
イェリア「まったく私の身になってください!」
魔王「そ、それは一つになろうとっ!?」
イェリア「バ、バカ! そんなわけないでしょう!?」
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