152。体験版みたいな物かもしれないじゃない
「いい? 変な事しないでよ?」
「わかってるわよ」
まるでいつも変な事してるような言い方だね、とレイアは半眼でイェリアを見ているけどーー
「大事な場面はいつもそうだけど?」
「え?」
「え? 自覚ないの?」
ーーとまあ実際にイェリアが指摘している通りだ。なにせレンアル町長と初めて会った時、レイアは突然喧嘩腰な態度を取ったからな。
「あれはあたしのせいじゃないからね?」
「わかっているわよ……その態度を魔王様の前で取らないでって言っているの」
自制心が足りないわよ、そうイェリアはレンアル町長の館で起こった出来事を思い出して溜め息を吐いた。
「わかったよ……」
黙ればいいでしょう? レイアは肩を落とした。
「イェリア様、魔王様がお見えになります」
そこでレイア達が待っている部屋のドアはノックされて、外から放たれた言葉を聞いた二人は立ち上がった。
「ん? どうしたの?」
ドアノッブに手をかけて突然動かなくなったイェリアに首を傾げたレイアは一体なにがあったか訊いてみるとーー
「頼んだわよ、レイアさん?」
ーー念押しされた。変な事しないでねと念押しされたな。
「だからわかってるってば……」
子供じゃないわよ、と何度も同じ事を言われたレイアは溜め息を吐いて、そんな彼女を見たイェリアはどうだかと内心で思って呆れた顔になった。
「な、なによ?」
「なにも」
流石にこれ以上念を押したらうざいと思われるから、彼女は肩をすくめた後前を向いてからドアを開けた。
「準備できたわ、案内して」
「分かりました」
外で待っている城兵に案内されて、魔族たちの謁見間ってどんな感じかなと思いながらレイアは付いて行く。
「普通の扉ね」
「……なに期待しているの?」
やがて大きな扉の前に着くとレイアはそうボソッと呟いて、それを聞いたイェリアは半眼になって振り返った。
「何かこう、禍々しい扉かなぁ」
「じゃあさっきの待機室は何だったの?」
空中に頭の中にある、下の隙間から禍々しい黒いオーラが漏れている浮き彫り付きの黒い大きい扉のイメージをジェスターで描いたレイアに、さっきまで高級ホテルの部屋みたいな待機室に過ごしていた事を忘れたの? どうやってその想像についた? と彼女の思考をあまり理解できないイェリアは呆れた。
「体験版みたいな物かもしれないじゃない」
あー、客を惹くために最初はいい物やサービスを提供されたけど、実際のブツはそんなによくないという話は世の中に多々あるよなぁ……。
さっき自分がいた部屋もその類の一つかもしれないとレイアは思っている。
「それ王城でやる?」
しかしそれをやる意味、得は王城側にはない。
魔王の威厳や凄さを表すため? そんなの演出は要らない、必要ないのだ。魔王である時点でそれらを既に持っているからな、少なくとも魔族たちの間に。
「それもそうね」
改めて言われるとレイアは納得して自分の頭に浮かべたイメージを捨てた。
「じゃあ行くわよ?」
準備いいよね? そう訊かれたレイアは頷くとイェリアは城兵に合図を送った。
「イェリア様とその連れのご登場です!」
大きな声を出し、イェリア達の来訪を知らせた城兵は扉を開けた。
開けた道の上に敷かれた赤い絨毯の上に歩いている二人に注目が浴びて、周りはヒソヒソとお互いに囁いた。
「……何かヒソヒソ話してるけど?」
前を向いているままレイアは前を歩いているイェリアに小声で言った。
「あんたの格好のせいよ……」
イェリアは領主として、何より魔王の許嫁としての立場はあるからそれなりの格好、綺麗なドレスを着ているに対比して、レイアはこの数ヶ月間の旅に愛用しているローブ、付いているフードを目深に被っているという格好をしている。
一つの国を君臨する王の前にする格好じゃないってわけだ。
「仕方ないでしょう?」
でも彼女の格好は仕方のない事だ。
もしフードを目深に被らなかったら魔族である事を示す物、角は頭に付いていない事がバレてしまう。つまり彼女は人間である事がバレるのだ。
大騒ぎになって事がややこしくなるより格好についてイチャモンにつけられるの方がマシだという思考の結果はレイアの今の格好だ。
「よくぞ参った、イェリアとその連れの方」
気にしても仕方がないからそのまま歩いて、やがて十分近付いた二人は足を止めると玉座に座っている魔王は声を掛けた。
「長い旅ご苦労だった」
立派なくるんっと上へ回る、山羊の角みたいな物を頭の両サイドにあって、ガタイがいい魔王は威厳ある声でイェリアたちを労った。
「もったいないお言葉です」
そう跪いているイェリアは答えた。
「だがイェリアよ、お主の連れにマナーはないようだが?」
「はい? 何をーーってレイアさん!?」
一体何の話? と思いながら魔王の視線を辿ったイェリアは腕を組んで立っているレイアを見て声が弾んでしまった!
「な、何やっているの!?」
なにその態勢!? 魔王様の前よ!? あれだけ変な事をしないでって言ったのに! イェリアはそう内心で叫んだ……。
「一応他国の王妃だから、そう軽々に跪けないのよ」
いいこと? あなたはもう探検者ではなく一国の女王ですわよ? 気を付けて他国に舐められないように振る舞ってください。
それはレイアが旅に出る前にアンナから注意された事だ。
「あ、そっか、それもそうね」
レイアの呟きにやっと彼女の肩書きを思い出したイェリアは納得した。
「イェリア?」
「っ! も、申し訳ありません!」
二人のやり取りを見た魔王はわざとらしく咳払いして、流石に今のは失礼と思ったイェリアは再び頭を垂れて謝罪の言葉を述べた。
「構わん。お主も楽にして良い」
ありがとうございます、そう感謝した彼女は立ち上がると魔王は話を続ける。
「して今日の要件は?」
「はい。ちょっと魔王様にお訊きしたい事がありましたのでこうして伺いに参りました」
「うーむ、後ろの人物に関係はあるようだな?」
「はい、こちらはーー」
「レイアよ」
突然イェリアを遮って前に出るレイアを魔王は睨んで、周りは騒ぎ出した。
「レ、レイアさん?」
「ここはあたしに任せて」
騒ぎを起こしたくないじゃなかったの? そう言いたそうな顔をしているイェリアにレイアは自信ありげな顔を浮かべウィンクした。
「……最後にあなたに任せた時、人の壁は壊されたけど?」
あー、レンアル町長の館にある訓練所の壁の事だな。
っていうかレイアのウィンク全然効いてなくてイェリアは呆れた顔になったよ……。
「あんたの為にやったのよ?」
「はいはいありがたい事ね」
これ以上なに言っても無駄と悟って、自分を止める事を諦めたイェリアに笑みを浮かべたレイアは再び魔王に向いた。
「精霊王マクスウェルの妻にして精霊王国マナフルの王妃、レイア・マクスウェルよ」
……結局フード外すんかい!
イェリア「あ〜城の壁が壊れる……」
レイア「あのねぇ、あたしでもTPOをちゃんと弁えられるわよ」
イェリア「え?」
レイア「え?」
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