151。お金ないわよ?
「あれは魔族の王都なの?」
馬車の窓の外を見ながらレイアはそうイェリアに確認した。
「そうよ」
どう? 中々立派でしょう? とイェリアは腕を組みながらドヤ顔を浮かべた。
コーゲンを旅立ってから数ヶ月間が過ぎて、魔族たちの王都の姿はやっとレイアの目に入った。
「確かにデカいね……」
その王都はまだ遠くにあるのにはっきりと見える幅が広くて高いレンガの壁に囲まれている。その大きさからレ王都の規模を予測したレイアはイェリアの言葉に頷いた。
「あたしの国よりね」
「何悔しい顔をしているの……?」
変な競争心を抱いている……。
「魔大陸には一つの国しかないのよ」
「え? こんな広い大陸に?」
普通、大きな大陸には複数の国がある。これは一つの土地より大陸を一つの国が管理するのはとてもじゃないが難しいからだ。
色んな所からの報告や目を通すべき書類は沢山あるし、やる事は多い。
「よく今も平和で暮らせるわね」
何より管理の目が届かない所は沢山あって、反乱が起こりやすい。
だから自分がこの数ヶ月間の旅に訪れた町や村、会った魔族たちの様子から魔大陸は平和である事を悟ったレイアは素直に感心した。
「起こった事あるよ」
欲がある限りいざこざは絶えないのよ……とイェリアは昔の事を思い出して溜め息を吐いた。
「でも魔王様の威厳によって解決された」
格好良かったわぁ、そう言ったイェリアは頬を赤らめた。
「……急に惚気ないでくれる?」
確かに急に来たね……切り替え早い。
「と、とにかく国は一つしかないから王都は大きいのよ」
咳払いして恥ずかしくなってきたイェリアはむりやり話を進めた。
「まあでもすごいと思うよ」
かつて反乱はあったとはいえ、たった一つの国がずっとこの広い魔大陸を支配して経営するのはすごい事だと同じく国を経営している身としてレイアはちゃんと理解している。
「でも最近不穏な噂聞いたけどね……」
「……どんな?」
とイェリアは急に俯いて、彼女の表情を曇らせるほど一体どんな噂があるか何となく検討についたレイアだけど、一応思いついた物を口に出さずに彼女は考え違いと願いながらイェリアに確認した。
「魔王様から聞いたけど、いくつかの貴族家の動きが怪しいのよ……」
「やっぱりね」
しかし見事に的中した。
力を蓄えて、兵士を集めて鍛えて秘密裏でこそこそ行動している貴族がいる、それはイェリアが魔王から聞いた話しだ。
「それってーー」
それはまるで戦争の準備をしているかのような行動だとレイアは思っている。
「まさか人間と?」
「わからない……クーデターの可能性もある」
クーデターとは他者、この場合は魔王の権力を法律を無視して奪取する行為なのだ。
「それで魔王は?」
「決定的な証拠はなくて何もできないから何も……」
何のつもりで兵士を集めて力を蓄えていると訊いてもただの訓練と治安を改善するためです、と答えられたら捕まえたくても捕まえないのだ。
「そうじゃなくて魔王もなんか準備してる?」
当然レイアも証拠なしにクーデターを準備している貴族は捕まられないと分かっている。彼女が知りたいのはそれに対して魔王はどんな対策を取るのか、どう動くのかだ。
「うーん、何も聞かされていないわ」
人差し指の先を自分の顎に添え、イェリアは馬車の天井を見上げながら記憶を漁っているけど何も出なかった。
「あとで魔王様に訊くわ」
それに、とイェリアは間を置いてから続ける。
「ーーレンアル町長に監視される事もあるしね」
怖い笑みを浮かべたイェリアに苦笑するレイアだった。
▽
「ふふ、あたしの国の勝ちね」
魔族の王都に入ったレイアは馬車の中から辺りを見渡し、ドヤ顔を浮かべてイェリアを見る。
城門を潜る先に綺麗な噴水、白いレンガからできた道と建物、所々に木があって賑やかなで、遠くに見える高い王城。
魔族の王都は中世に近い構成だ。
「……だから何その競争心?」
精霊と人間の国は一体どんな風景をしているか気になっていながらもイェリアはレイアに呆れて、話題を変えた。
「ところで王城に向かう前に行きたい場所ある?」
「……それわざと訊いてる?」
初めて訪れた街に行きたい所はいくらでもあるけど、レイアには事情があるから自由にフラフラと行けないのだ。
種族の問題でも知らない所の問題でもない、単純にーー
「お金ないわよ?」
ーーそう、問題はお金だ。
ディアたちの教えによって適応力が高くなったレイアはどんな環境でも生き残れる、お金も稼げる。
環境は魔大陸でも関係ないーーのはずだけど現に彼女にはお金がないのだ。
なぜ? 原因はーー
「あんたのせいだからね!」
「仕方ないじゃない! 早く着きたいでしょう!?」
ーーレイアの要望だった。
急いで王都に着きたい! と彼女は言った結果、王都までの道のりにある町や村にほとんどスルーした。
「それとこれとは別よ!」
「同じでしょう!?」
まあ最終的に同じだ。
自分の要望のせいでお金を稼ぐ機会は全然なく、レイアは貧乏人のステータスを得たのだ。
「奢るよ?」
まあいいわ、と理不尽な非難を受けたイェリアは溜め息を吐いて、お金がないなら自分が出して上げるとレイアに言った。
「あー、ありがたいんだけど遠慮しとくわ」
普通なら喜ぶだろうけど、レイアはちょっと気まずそうに顔を逸らした。
「なに遠慮しているのよ?」
旅中、一行はずっとイェリアのお金で旅していたからレイアの遠慮は本当に今更なのだ。
「だって壁の修理代を肩代わりするでしょう?」
メルヴァレイの町長であるレンアル町長の訓練所にある壁の事だ。
数ヶ月前にレイアはイェリアのためにそのレンアル町長と戦って話に出た壁を破壊した。当然その壁を直すためのお金はなく、イェリアはその責任を代わりに受けた。
「その事なら心配いらないわ」
しかしイェリアは呆れた顔で問題ないと断言した。
「レンアル町長は気にしないと思うよ」
それに、と言ってから彼女は更に続ける。
「もし要求が来たとしても魔王様に投げるわ」
「あー」
確かにレイアはイェリアのために喧嘩を売ったけど、彼女の存在がレンアル町長にバレたのはそもそもの原因だった。
それでなぜレイアの存在はレンアル町長に知られたかというとーー
「まああんたの魔王のせいだからね……」
ーー魔王の命令のせいなのだ。
念のために、万が一の事態のために魔王はイェリアが住んでいる町であるコーゲン、そしてイェリア自身の行動を監視するようにと魔王はレンアル町長に命令を下した。
レイアという人間がコーゲンに入って、イェリアと行動していると判明したレンアル町長はずっと彼女を排除したいと思って、ちょうど彼女に喧嘩が売られたからそれを買って戦う事になった。
そこで件の壁は戦いの最中でレイアの魔法に破壊されたのだ。
「払うと思う?」
「払わせてもらうわよ」
元々彼のせいだからね、とイェリアの言う通り、もし魔王はレンアル町長に命令を下さなかったらレイアの存在は彼に知らされず、彼の訓練場の壁は破壊されなかった。
魔王のせいといえばまあ、その通りだ。
「旅の経費も代わりに担がせてもらうわ」
「……それはちょっと違うと思うけど」
それは本当に違うよな……。
魔王「……はっ!?」
宰相「どうかしましたか?」
魔王「なんか最近いやな予感がするんだよなぁ……」
宰相「???」
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