5.帯刀
警察車両が駅前を抜けていく。
昨日の暴動の影響だろうか?普段見慣れない車両も走っていた。
この街は白嶺地方の中心都市で府庁が置かれているのもあり、それなりに栄えている。
約束の時間はまだ先だが、僕は駅前広場の銅像前で他の2人を待っていた。
定番の待ち合わせ場所だ。
昼過ぎまでの部活を終え、制服のままここにいる。
何故か今日は三芳が自宅に居たので帰らず、軽食を摂ってここに来た。
どちらが先に来るか、それによってこの後の行動が微妙に変わってくる。
渚を勝手に2時上がりとしながら、2時待ち合わせと言った楓は中々の策士だ。
いずれにしても、僕は最終的に渚と帯刀を二人きりにするつもりでいた。
渚は女の僕から見ても可愛い。大きな瞳に屈託のない笑顔。それだけでも充分なのに気遣いも出来る。
お嫁さんとしてこれ以上の存在は無いだろう。
この国では男女共に17で結婚ができるのだ。
もしかしたらと思うだけで胸が高鳴った。
「間に合った…」
振り向くと渚がそこに居た。走ってきたのか、息を切らしている。
「やぁ、お疲れ様。」
時間は約束の15分前だ。
「なんで、2時にしたの。かな?」
渚は息も絶え絶えに言う。
渚のバイト先からだと、普通に歩いたらここまで30分はかかる。
しかも、飲食店を昼の1時台になど、普通は中々抜け出せない。
つまり、なんとか早上がりした上で、ダッシュで来なければ絶対に間に合わない時間なのだ。
「それは楓に聞いてくれ。」
「もう、だ、動、けない。」
「少しくらいなら遅れても良いのに。」
僕は表情を押し殺して言った。
「だっ、て。置いて、行かれたら…」
僕は、人が好意を寄せている人を横から取ったりはしない。しないが、それでもあの言葉が渚には効いている様だった。
「そんな訳無いでしょ?」
僕は時間を確認する。
待ち合わせまで後7分くらいある。いい頃合いだ。
「ちょっと飲み物買ってくるから、渚はここで待ってな。」
「え、ちょっと…」
僕は渚を残し、駅前のコンビニに入った。
窓際の雑誌コーナーでは若い男女が数人、立ち読みをしていた。僕もそれに習い、適当な週刊誌を手に取る。
思った通り、そこからはちゃんと銅像が確認できた。
見れば丁度、帯刀が来たところだった。
帯刀は軍払下げのコートを着ていた。少しボロくて安いが、暖かいやつだ。野球帽を被っていて、顔はよく分からないが背丈を見るに帯刀だ。
2人は何か話している様だったが、直ぐに周囲を伺い始めた。
僕を探しているのかもしれない。
その後何言か話したように見えたが、そこから渚は下を向いてしまう。
帯刀は再び周囲を伺い始めた。
緊張しているのか?
最初はそう思ったが、何か様子がおかしい気がした。
もうちょっと会話しながら待つとかしないのかな?
10分位そうしていただろうか?
近くの若い男女も本を見ながら何やら話をしている。
渚が再び帯刀を見て、そしてまた下を向く。帯刀は相変わらず周囲を伺っている。
そう言えば帯刀の格好も何か違和感がある。確かにこの寒さだ。暖かいコートを着てくるのはわかるが、気になる女子と会うのにアレを着てくるか?マスクもしている。風邪でも引いたのだろうか?
渚、チャンスなんだぞ。と、渚の顔を見た。
今にも泣きそうな顔に見えた。
え?ちょっと待て。何があったんだ?
遠目でハッキリとはわからない。
僕は少し迷ったが、週刊誌を棚に戻すと店を出た。
「ごめん、お待たせ!」
「やぁ、待ってたよ。」
帯刀は言う。
「じゃあ行こうか。」
そう言って通りに向かって行った。
渚は相変わらず俯いたままで喋らない。
何があったのか気になるが、今は聞くのをやめた。
怒っているのかな?
渚は普段、滅多に怒らない。と言うか、僕は渚が本気で怒った所を見たことがないのだ。
僕は渚の様子を伺いながら帯刀について行った。
帯刀は通りに停まっているバンに近寄ると、横のスライドドアを開けた。
「乗りなよ。」
「え。この車、帯刀くんの?」
何か嫌な予感がした。
「良いから乗れ。」
気がつけば後ろに男達がいた。先程コンビニにいた若い男女だ。
まずい。
「ちょっと、帰る!」
「俺はお前に用があるんだよ。」
帯刀は冷たく言い放った。腕をガッシリ掴まれている。物凄い力だ。
渚を見るとポカンとしている。
「離して!誰か!」
僕は叫ぼうとして、声を詰まらせた。帯刀の拳が腹に食い込んでいた。
息が、出来ない。
視界が狭まり、意識が何処か遠くへ行ってしまうのが分かった。




