↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シケモク  作者: 桂朔
2/10

1.時を経て

灰緑色の飛行機が低空を飛ぶ。

僕は生憎詳しくないのだが、プロペラ機だ。

この国で一番多い戦闘機かもしれない。

それくらいよく見る機種だった。

あれからどのくらい経っただろうか?

短く刈り上げた髪がバサつく。

低空といっても、戦闘機のせいではない。

ただ、ちょっと風が吹いただけだ。

大きな公園の入口では、複数の散歩人とすれ違った。

この所雨が続いていた事もあり、今日の陽気はとても心地良かった。

普段なら部活をしている時間だが、この所道場が工事で使えない。顧問も何やら忙しいらしく、しばらく休みが続いていた。

ふと視線を感じる。

黒いジャージパンツにグレーパーカーの男。ご丁寧にフードまで被っている。

ランニングだろうか?

駐車場脇の水飲み場で水を飲んでいた。小柄だが、独特の雰囲気の男だった。

少し東に行ったところに軍の基地がある。そこの人間なのかもしれない。

視線を感じはしたが、気の所為だろう。

もしかしたら、僕の着ている制服に汚れでも付いているのかもしれない。

公園の入口から直ぐの所で、目的地に到着した。

そこは古びたカフェで、友人の渚につい先日教えてもらった場所だ。

入口の左右にはテラスがあり、小さなテーブルが並べられている。何組かが利用していた。

普段、こういう場所には来ない。

僕は胸の高鳴りを抑えるように店内へ入った。

「あ、朱莉!」

店内へ入ると直ぐに声をかけられた。

顔馴染みが2人。

僕は手を振って応える。

友人の渚はポニーテールを揺らす。喜びを表現しているようで、女の僕目線だと子犬のようで可愛い。隣の席を引き、僕の居場所を整えてくれた。

「話してたお勧め頼んでるんだけど、朱莉も同じのでいい?」

「うん!」

渚は本当によく気が利く娘だ。

お冷を運ぶ店員に、手早く追加注文を伝えた。

きっと結婚したら、良いお嫁さんになるだろうなと思う。

僕は一先ず運ばれたお冷を一口。

もう秋口だが、それなりの距離を歩いたのもあり喉が渇いていた。

一息ついて、店内を見渡す。

内装は木目を基調として落ち着いた雰囲気だった。

カウンターでは女性店員がエスプレッソマシンを操作していて、その傍らで隣国の音楽が控え目に聴こえてくる。何というか、この店の雰囲気にピッタリだった。

「良いところだね。」

「でしょ?」

向かいに座る楓が言う。

コチラは渚と違い、クールな印象だ。あくまで印象。別に笑わないとかそういうのではない。長身で細身だが、程よく筋肉質で健康的な身体つきをしている。大人びたその顔立ちで、肩に掛からないくらいの髪をかき上げる仕草がそう見えるのだ。完全に個人的な見解だ。

「楓が見つけたの?」

「見つけたっていうか…」

楓は左手を耳元にやる。

「家、こっちの方でさ。この公園、よく走りに来るんだよね。」

「あぁ、なるほどー。」

「流石、お嬢様は違いますなぁ」

渚が茶々を入れる。

「やめてよー。そんな事言ったら、朱莉の方が…」

楓はそう言って僕を見る。

「そうだよね!使用人って言ってたけど…私、使用人が居るお家なんて初めて行ったよ!」

僕の家には使用人がいて、名を三芳という。

父は多忙で家を空けることが多い。母がいない僕にとっては、母親みたいな存在だった。

「三芳さんは何ていうか、ほら。親が家空けることが多いから!家自体は至って普通だったでしょ?」

母が居ないことは誤魔化す。

今のご時世、片親というのは珍しい事ではない。

それを言ったところであまり意味も無いし、なによりそういう事は話さない風潮があった。

「そうかな?結構立派な家だったと思うけど。」

大げさである。

確かに門があり、庭付きではあるが。

そういえばこの間の勉強会、2人共どこか落ち着かない様子だったのを思い出す。

男の子の話が始まって直ぐにいつもの雰囲気に戻ったが。

「そういえばさ。帯刀君はどうなったの?」

思い出した話題の男の子だ。

「あ、その話?」

渚が恥ずかしそうに顔を背ける。

帯刀君とは、クラスで人気の男の子だ。

文武両道で身長も高く、優しげな顔立ちをしていて実際優しい。

おまけに名家の長男らしく、かなりの高倍率物件だ。

渚が2人きりで話す機会があったらしく、この間の勉強会はその話で持ちきりになってしまっていた。

「それがさ!カラオケ誘われたんだって!」

あのクールな楓が興奮気味に言う。

「おぉ!凄いじゃん!!」

「今度、皆で…どうかな?」

渚は俯きながら小さくなる。

何処に断る理由があるだろうか!

いや、あるにはある。しかし場の空気というものは大切だ。

僕はそっと心の戸を半分閉めた。

「失礼します。」

気がつけば店員が3人のテーブル前にいた。

静かにカップを置いていく。

その手には古傷が刻まれていた。

左目の脇にも小さな傷。右耳には穴も空いていた。

年齢を考えれば店主だろうか?

「少しばかり、声のトーンを落としていただければと思います。」

店主は言う。

「すみません。」

「いえ、ごゆっくりどうぞ。」

店主がその言葉を言い終えるか終えないか、その瞬間。店内にいた者、いや。この地域全域の人間の動きが止まった。

「空襲警報だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。