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穢血のカイン ~唯一の家族を失った俺は敵を喰う能力「穢喰」で最後の仕事を全うする~   作者: 成乃 和幸


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第9話 ハリネズミ&現実

「血……? いや違ぇ? やっぱ血? 寒ぃ、寒ぃ、熱ぃ、熱ぃ、痛ぇ!!」


穢れから数多くの棘が俺の体を突き抜けている。針山にでも落ちたような感じ。傷の隙間から風が入ってくるのが分かった。そのたびに視界がぐるんと揺れる。


「はぁ…はぁ……なんだこれ……息が……。こいつは……ハリネズミだったのかよ! 死にたくねぇ……死んでたまるかよ!! まだやり残したことがあんだよ、仕事があんだよ!!」


とは言ったものの、簡単に体が動くわけでもなかった。


「痛みか何か知らねぇけど全然動けねぇ……」


 数十分後、俺は痛みを感じなくなった。慣れちまったのかもな。目の前にいたハリネズミ型の穢れを踏みつぶし、自分に刺さっていた棘も抜いていく。一体を倒すと遠くからさらに現れた。見える範囲にいる穢れは残り六体。


「かかってこいよ……! 俺が可愛がってやるからよ……」


 挑発に乗ったのか、穢れは一斉に俺に向かって飛びだした。飛びだしてくると同時に、俺も腕を伸ばした。ほぼ無意識だ。肩の重さは人生一。こんな状況でもまとめ紙①を確かめちまうなんてな。


「やっぱりだめか……クソがァァ!!」


 六体いる穢れのうち三体が肩、次に腹、最後に脚。と俺を貫通させた。


「さすがに……血が出すぎか……? やべぇ、くらくらしてんのか? いや、吐き気か? それに寒気もする」


 くらくらしながらも多少の希望に賭け、腕を前に伸ばし続けると二体の穢れが棘とともに吸い込まれた。


「んあ…? 穢喰が使えた……? もう一体、頼む」


 二体は吸い込めたが、残りのもう一体はだめだった。「諦め」を拒んだ結果、自分に刺さった棘を抜いて相手に突き刺した。


 バタンッ、その瞬間、穢れとほぼ同時に力尽きちまった。


 数十分。いや、数時間が経ったであろう時に目を覚ました。寝ていたのか気絶していたのかはわからないが、体がもごもごと動いているような、そんな感覚は常にあった。熱くねぇし、痛くもねぇ。血濡れの寒さが少しあるくらいだ。心なしか水より重い気がする。


「天国ってほんとにあんだな……」


 周りを確認する。


「いや、ここは地獄か?」


 体もだ。


「ちげぇ……信じらんねぇけど天国でも地獄でもねぇ……現世だ」


 天国ならではの温かさや理想郷があるわけでもねぇ。地獄と言われても違和感は感じねぇ、肝心な閻魔大王がいねぇし、針の山もねぇ。よって、導き出された結論は「現世」っつうわけだ。


「俺の体はハチの巣になってんだっけ……。痛覚イカれたし、俺グロいの苦手なんだけどな」


 いっそのこと自分の体でハチを育てようと意気込んだが、触ってみると穴は開いてなくて、ハチ使いという称号とはお別れとなった。

 誰もそんな称号は欲しくないが、覚醒状態である俺にとってはどんな称号でも欲しかった。でも、殺人鬼の称号はごめんだ。


「ここ最近の人生は波乱万丈と言わざるを得ねぇよな……。あー、腹減った。飯あんのかな……でも今夜中だもんな」


 飯があるかないかの考察はここを出てからするとして、今は能力についてだ。


「それも出てからでいいか。でも動く気になれねぇな……俺の心は疲労困憊だってんだ」


 かといってこのまま出なかったら地下水路の亡霊と化し、変な都市伝説が生まれてしまう。それ以前に死にたくはねぇ。ここにも居たくねぇ。


「うだうだしてても仕方ねーのは分かってんのに動けねぇな……今日はここで寝ちまうか?」


 その考えが出始めた時点でおしまいだ。もう俺がここで寝るのは決定事項となった。今度こそ優雅な格好で眠ろうと試みる。数時間後、朝日は上り、と言いたかったが地下にいるため外がどうなっているのか分からなくて、目覚めの悪ぃ朝となっちまった。起きたときの格好はとても優雅とは言えねぇ、大の字。


「多分朝……だよな? あぁ、まだ体だりぃな。服も血だらけで黒くなってっし」


 このままの格好で行けば街中で見られること間違いなしだ。服は穴だらけで、もはや布切れだ。ズボンは汚く見える部分もあるが、ベースが黒いからあんまり目立ってはねぇ。


「あの狂おっさんふざけやがって。あんなアブねぇ穢れいんなら伝えとけよ」


 とぼとぼ、フラフラと来た道を戻っている。普段なら五分で戻れるところを多分二十分くらいかけて戻った。その時どんなことを考えていたかは断片的にしか覚えていねぇ。「ケツが痒ぃ」とかだった気がする。


 ドアを開けるとそこにはおっさんたちがいた。


「おぉ!! あのハリネズミトラップから生きて戻ったんか!! ごっついのー!」


 昨日からずっと同じ部屋にいたのかと思うと、笑えっけど、今はそんなことどうでもいい。トラップだったことに多少の怒りは覚えたけど、それ以上にどうやって穢れをあの場所にずっと滞在させていたのかが気になる。でも、今はいいや。


「狂おっさんてめぇ! 俺を殺す気かよ!! あんな強ぇ穢れいんなら教え――」


 傷だらけのおっさんは気味悪ぃ笑みを俺に向けている。


「ああー、わかったぜ、あれも試験だったんだな? まだ終わってなかったわけだ。性格悪ぃ」


 あの質問にはちゃんと意味があったらしい。多分、回答を間違えていたら返されたかもしれねぇ。その割には死体あったぞ。


「朝になっちまったわけだし、金だけもらって今日は帰るぜ」


 お金の使い道はもう決めてある。宿泊費、食事代に八割。自分のために使うのに二割だ。自分のため、といえば服もそうだし、まとめ紙やペンも買っておきてぇ。


「ほらよ。これでええやろ。結構な額やとおもうで? おみゃーさんは若ぇのにやりおるわ」


 金を受け取ると、先ほどまでの体のだるさはあっという間に吹き飛んだ。金の力は偉大なり。というやつだな。

 


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