第8話 穢牢&謎
軽く周りを一見すると、あんま清潔じゃねぇことはすぐに分かった。カビのようなにおいで充満しているからだ。
「なァ兄ちゃん、なんでおみゃーさんは殺されそうになってたんだ? 大罪でも犯したか?」
どうやら、この男たちには一部始終を見られていたみてぇだ。能力も確認済みか?
「犯しちゃいねーよ。俺はただ試験を受けに行っただけだ」
おっさん等は「ほぉーう」と言いながら、俺の腕に指をさした。
「もしかして、この気色悪い腕のせいだったりするか?」
気色悪い、か。ユルリカに「かっこいい腕」と言われてからどうも腑に落ちねぇな。前までは平気だったのにどうしちまったんだ。このままだと「穢れた血」耐性がなくなっちまうだろうが。
「そーだよ。俺の穢れた腕だ。じゃ、助けてくれてサンキューだったぜ」
話途中に立ち上がり、帰るそぶりをみせると、
「まあそんなせっかちになんなや。ここの連中は見た目こそ穢れてなくてもやってることは穢れ中の穢れや」
ここにはまともなやつが居ねぇ。それだけは今の一言でよくわかった。
「励ましどーも、俺慣れてっから気ィ使わなくていいぜ」
「励ましなんかじゃない。勧誘や勧誘。穢れ清掃してくれりゃ金渡す!! やらん選択肢なんてないようなもんやろ」
仕事は精鋭部隊と大差ねぇ。表か裏かってだけの違い。これほどまでの当たりくじがあったか? 何個かあった気がすっけど忘れちまった。
「一つ聞いておきてぇんだけど、人殺しとかはしなくていいんだよな?」
人を守ることを仕事にしている俺にとって、人殺しなど言語道断。回答によっては絶好のチャンスを逃すことになるわけだ。
「おみゃーさんはやんなくてええ。それはこっちが片付ける」
後々この団体はどうにかするとして、俺はひとまず利用されることにした。
「わかった、穢れ清掃、参加させてくれ」
そういうと、傷だらけのおっさんは軽く笑みをこぼした。葉巻を吸ったのか知らねぇが、歯が黄色、いや茶色にみえる。
「ようこそ、穢牢へ。まずはさっそく試験を受けてもらうでな」
俺は手を引かれ、奥へと連れていかれる。さっきまでのカビ臭は落ち着いたが、物が張り付きそうな密室だ。天気が悪いとき、洗濯物を家の中で干した感覚に近ぇ。
「これから質問をしていく。答えるだけでええ。回答によってはまだ穢れ清掃はさせられん」
周りを見ても武器らしいものは見当たらない。ここで殺される可能性は薄い、はずだ。仮に男たちがこっそりと武装をしていたらかなりまじぃけど。なにせ俺はあくまでも穢れ特化だから。
「りょーかい。じゃあさっさと始めてくれ」
「すまんすまん。じゃあ、もしおみゃーさんが死にそうになったらどうする?」
この質問に何の意味があるんだ。……考えるだけ無駄か。というかめんどくせぇ。
「死んだらそん時だろ。ま、死ぬ気はねーから努力はすっけどな」
おっさんたちは「はっはっはっ!」と豪快な声を轟かせ、俺の肩をポン、と叩いた。
手汗なのか、ベチョ、としていたのが気になったが、今更気にすることではねぇ。
「質問は以上! 合格や。このドアを開けて五分くらい歩いたところに穢れがいる。ちょちょいと退治頼んだで!!」
おっさんたちはそう言うと俺をドアの外へと押し出した。ここまで暗い道を通るのは初めてだ。星空が見えてきそうだぜ。パニックにならねぇか心配だったけど、意外と何とかなった。
「これからに備えて、まとめ紙①を確認すっかな。前俺が吸ったのが十五体だよな。上限はそこあたりか。いや、それだと能力を授かったわりに少ねぇよな」
五分ほど歩いたが、穢れのようなものは発見できねぇ。「騙されたのか?」と思ったその瞬間、俺の足にカラン、と音を立てて何かがぶつかった。ゴロゴロと転がっているような気がする。
「なんだよ、痛ぇな……穢れか?」
不思議に思いつつも、腹立った俺は足元を見た。
見えたのは、黄色味がかった球体みてぇなもん。
「なんだこれ、空洞になってんのか」
さらに顔を近づけた。眼窩が見えた。視線を横に動かすと、歯も見えた。これは頭蓋骨だった。死体なんて勘弁してくれよ。
「うおっ! な、なん……!」
抑えることなんてできねぇ、俺はこみ上げてきた異物を壁に寄りかかるように吐き出した。
「はぁ、はぁ。ッハ!」
指先の痙攣が止まらねぇ。それに、空気を吸おうとしても、途切れ途切れにしか入ってこねぇ。
「……ハッ、ハッ」
俺は手で胸を撫でた。
数十分くらい経ったか、俺はようやく落ち着いてきた。それでも立つのもきちぃ。
「ッ……」
口を袖で拭いながら、何とか立ち上がって先に進んだ。少しすると、ぽたぽたと水滴が落ちるような音が聞こえてきた。その瞬間、
「うわっ!! たまに心臓止めようとしてくんのやめろよ……」
上から突如と心臓のようなものが落ちてきた。暗くてあんま見えねぇが、凝らして見ると、
「あー? なんだ? ネズミ? もしかすると、こんなちっこいネズミが穢れ??? 余計に構えて損したぜ。さっさと検証してちゃっちゃと帰るぞ」
こんなところに長居はだめだ。俺の心がそう言ってんだよ。落ちてきたものを触ろうとしたとき、突如、卵が割れたような音が響いた。
「ん、何の音だ? 水路か――。ゲホッ!! 痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇえええええええええ!」
何だ、何が起きたんだ。下を見ると、自分のいたるところから液体が流れていることに気が付いた。




