第10話 朝帰り&番人
俺は、着ていた服を破って腕に巻き付け、地下水路を出た。この腕があるといろいろ厄介だ。
「ここどこだよ……ずいぶんと吹き飛んじまったんだな」
風景はたいして変わんねぇのに、見たことがねぇところだ。
「まあいいや。散歩だと思って楽しむか」
数時間街をうろうろした末、ようやく俺はユルリカの家に到着した。そんなプチ冒険の後にはさらなる試練が待っていた。それはユルリカの家にばれずに入るというものだ。運よく窓が開いている。
「よし、今このタイミングだな! 行ってやるぜ!!」
窓から入るのに成功はしたが、バゴンと見事なまでの転びを晒す羽目になっちまった。俺が使っていた部屋にはユルリカがいた。
「カインくん。どこに行ってたの? 散歩で朝帰ってくることってあるの? それに何その服。前着替えあげたやつすぐにぼろぼろにして。しかも血だよね?」
なんだなんだなんだ。ユルリカの雰囲気が全く違ぇ。それに近ぇ。ほぼゼロ距離じゃねぇか。ここまで饒舌な質問攻めを受けるのは初めてだ。
「えっと、街の清掃員の仕事を見つけたから始めてみたら……こんな時間になっちまってた」
俺は部屋の隅を見てみたり、天井を見てみたりと、ユルリカと目を合わせようとはしなかった。というか合わせられなかった。
「罰として、朝ご飯はなーし! 朝帰りはやめてね!! 本当に!」
飯があるかの考察を忘れていた俺だが、結果的にはなかった。今すぐにでも食べてぇ気持ちを抑え、能力の整理をすることにした。心頭滅却のためでもある。俺はベッドに腰かけた。
「昨日は対価に見合った成果はあったってことか」
まずはまとめ紙①の結果だ。
①穢喰には上限があるのか? (ある。十五体までみてぇだが、条件がそろうと限界突破するかもしれねぇ)
謎極まりねぇのは、
⑥俺は再生する? (目覚めたときにはあったはずの傷がなかった。わけわかんねぇ)
成果はあったっつったが、謎が深まるばかりで、結論は導かれなかった。
「まいったな……また試さねぇといけねぇじゃん。あの痛さって慣れるもんなのか?」
でも途中から痛み消えたっけな。
「でもやりたくねぇな……」
「カインくん、カインくーん。聞こえてますかー?」
「それにしても、あのハリネズミちっこいのに強すぎだよな」
「カインくーん!!!!」
「穢牢で稼いで生計を立てるにも、死体はみたくねぇよ――」
「カインくーーーーーーーーん!!」
「ッ!」
声もでなかった。今考えると、さっきから声が聞こえてきてたような気がすんな。というか、まだこの部屋にいたのか。
「わ、わりぃ。考え事しててさ」
「さっきは朝ご飯無しって言ったけど、せっかく作ったから、一緒に食べよーよ」
ユルリカの顔が少し赤く見える。もしかしてまだ怒ってんのか? 飯に毒とか入ってねーよな。
「いいのか? 一緒に食べてたら開店時間すぎちまうかもしんねぇぞ?」
俺がそう言うと、ユルリカは顔を少し傾け、ニカっと笑った。俺なんか変なこと言ったか。
「今日はパン屋お休みにしたの」
そんな簡単に休んでいいもんなのか? 八百屋は毎日やってたけどな。でも確かに、パンの匂いがしなかったな。焦げ臭い気はするが。
「だーかーら、今日はカインくんと一緒におでかけしたいと思いまーす!」
……。
予想と真逆の言葉だった。
「行くか行かないかは別として――」
「行くよ」
強制かよ。
「どこ行くんだよ?」
俺は少し息を整えた。
「服買ったり、ピクニックしたり、魚釣りしたりいろいろだよ!」
顔近くで握った手、俺の下から見上げてくるその目、甘い香りも相まって、昔おっさんと花畑に行ったときを思い出す。
「今日はとことん遊ぶか。俺もノッてきたぜ」
そうして、俺たちは急遽遊びに行くことになった。




