第11話 服屋&不器用
真っ黒い朝飯を食い折れた俺たちは、ユルリカの家を出て二十分くらい歩いたところにある街に来た。
「ユルリカ、ここでは何すんだ?」
ここは見たことねぇほどにぎやかで、子供が多い印象だな。それに、なんか美味そうな匂いもする。俺は手で太陽を遮りつつ、街の奥までを見据えた。その時、俺の左足に何かがぶつかった。
「ご、ごめんなさい……」
確認すると、そこには子供がいた。「ごめんなさい」という声がどうも震えている。
「大丈夫か? 次からは気ィ付けろよ」
子供はちらちらと俺を振り返りつつも前へと歩き出した。ばれてねぇよな、腕のこと。気配を感じ取ってあんなに震えてたのかもな。
「カインくんやっさしー!」
からかってんのか、いつもより声のトーンが少し高ぇ。
「で? どこ行くんだよ?」
「お洋服屋さん! 私も服欲しいし、カインくんにも新しいの着てほしい」
地下水路で稼いだ金が今日で全部なくなっちまいそうだ。
すぐ目の前にあった服屋に入った。少し煙たくて、鼻がムズムズする。上と下が繋がったような服、戦闘用なのか、鎧のようなものまであった。
「んだこれ! すげぇな!!」
「ねぇねぇ、これ見て! 可愛い?」
胸らへんに服を当てて、顔を右斜めに傾けている。
「可愛いとかあんまりわかんねぇんだよな。悪ぃ」
ユルリカは、頬をぷくうっと膨らませた。
「もお、そういうのは可愛いって言えばいいのに」
「俺にそんな高度なこと求めんなよな」
「ほら早く」
「……じゃあ、可愛い」
ユルリカの顔に笑顔が戻った。うん、そっちのがいい。
「本当!? これにしよーっと。カインくんのやつも選んでおくね」
鼻歌交じりに、店の奥の方へと歩いて行った。取り残された俺は、入口辺りにある鎧に手を伸ばした。これなら腕も隠せるし、悪くねぇ。でも、穢喰使えんのかな。
「腕だけでいいか」
思わず口に出すと、
「お、あんちゃんその鎧買うのかい?」
店の中をうろついてた店の人が俺の方へと近づいてきた。
「あー、鎧ってか右腕の部分だけなんだけど、買えるか?」
「珍しいねぇ。買えるよ」
「じゃあ、これで」
金を渡し、商品を受け取った。
「これ、右腕だけで何に使うんだい?」
「怪我しちまったんだよ。だから、な」
もしもの時のために考えておいてよかったぜ。
「そういうことか! 変なこと聞いて悪かったね」
俺は店の中にある鏡の前で立って、ユルリカを待っていた。
「お待たせ、カインくん」
後ろからユルリカの声が聞こえてきた。
「おう、じゃあ次行く――」
振り向いた瞬間、一瞬誰か分からなかった。ユルリカなのにユルリカじゃねぇような、大人っぽい気がする。さっきまで着ていた服じゃなくて、新しい服になっている。
「……」
「なんで何も言わないの」
「着替えたのか、ここで」
ユルリカはコクリと頷いた。
「カインくんのやつも買ったから着替えてきて」
少し不満げなユルリカから袋を受け取り、店の人に試着室まで案内してもらった。もう試着じゃねーけど。
「どんな服にしたんだ?」
袋の中をのぞくと、服みてぇなもんは見つかんなかった。
「あ? なんだこれ」
袋から出すと、黒いスカーフみてぇなもんが入っていた。一応身に着けて、試着室を出た。
「カインくんおかえり、どう? そのスカーフ」
「悪くねぇし、むしろかっけぇけど。なんでスカーフにしたんだ?」
「だってカインくん、首怪我だらけだから」
視線を感じる。生暖かい視線。
「いい彼女さんじゃないか。大切にしろよ、見せつけやがって」
店の人が俺の肩をドン、と叩いた。
「ってぇ! 何すんだよ。それに、彼女でもなんでもねぇ」
そう言いながら、俺たちは店を出た。




