第12話 屋台飯&悪人
食い物の匂いが漂ってるせいで、さっき食べたばっかなのに腹が減ってくる。
「次どこ行くんだ? にしてもにぎわった街だな。住みにくそーだ」
「次は食べ歩きしつつ、噴水広場で吟遊詩人の詩聞きたいな!」
俺は、ぽっけに手を入れて歩きだそうとしたが、一瞬固まっちまった。元々ぽっけに入っていたものがねぇ。ほかの場所を探したりしてみたが、どこにもねぇ。
「カインくん?」
「ねぇ……俺の相棒が……ペンが……」
街来てぶつかってった子供にとられたか。服屋に十五分くらい居たからもう近くには居ねぇよな。それに、さっきより街にいる人が増えた気がする。今度は大人ばっかりだ。
「どうする? あの子はもう近くにいないと思うけど」
「諦めっか……また新しいの買うわ」
悔しいが、仕方ねぇ。
「いいの? じゃあ屋台まわろっか」
道に沿って歩いていると、目新しい料理ばっかりが目に入ってきた。自然と体が吸いよされちまう。
「ユルリカ、これ買っていいか!?」
隣にいたユルリカの腕をつかんで引き留めた。
「グリッシーネ食べるの? じゃあ私も」
でけぇカップになみなみ入ったかぼちゃベースのスープ。その上に山かのように豪快に盛り付けてある野菜と焼かれたパン。ニンニクの香りが大半を占めてんな。
「私が食べさせてあげる! 口開けて」
「あ? 別にそれくらい一人で食えるっての」
顔を後ろに引いても、ユルリカのスプーンが迫ってくる。
「でもでもでもさ、右手鎧だし、食べにくそうだよ」
後ろに倒れちまいそうだ。観念した俺は、素直にユルリカに食べさせてもらった。口に入れた瞬間、ペンをなくしたことなんてどうでもいいくらいグリッシーネのことで頭が埋め尽くされた。
「なんだこれ! 美味すぎんだろ。かぼちゃとニンニクって意外と合うんだな。それに、上に乗ってるパンもしなしなになってて食いやすい」
大きい声だったのか知らねぇが、周りの奴等だけじゃなくて店の人までがニヤニヤしてやがる。
「私も久しぶりに食べるなー!」
俺に食わせたスプーンをそのまま使っている。汚いとか思わねぇのかよ。さすがに俺でもおっさんと同じやつは使わなかったぞ。
「おいしい!」
ほっぺに手を当てて微笑んでいる。俺もユルリカに食べさせたくなってきた。
「ユルリカ、俺が食べさせてやる! 口開けろ」
「え? カインくんが? そんな!」
俺ん時とは違って素直に口を開けている。目もパッチリだし、なんか犬みてぇだ。
「熱ぃかもだから冷まして食え――」
俺がユルリカにスプーンを運んでいるときに、近くから怒鳴り声みてぇな声が聞こえた。
「おいガキ! てめぇなに金盗ろうとしてんだよ!」
視線を向けると、クソでけぇ男が子供の胸倉をつかんでいる。よく見ると、俺にぶつかってきてペンを盗ってきた子供だ。
俺が人をかき分けて近づこうとしたときには、スプーンを持ったままのユルリカが先に男たちの前へと飛び出した。
「何してるの!? あなた大人でしょ? 子供相手に暴力なんて……!」
人込みで見失っちまって、ユルリカの声だけが聞こえる。声の方へと急ぐが、人が邪魔で思うように進めねぇ。騒ぎのせいか、俺の前には見えるだけでも五十人くらい居る。肩はぶつかるし、背伸びをしてもでけぇ男しか見えねぇ。
「んだこの女。盗人のガキ庇うなんて随分な悪人だな」
「こいつ、よく見ると案外かわいいじゃねぇか。悪人なら成敗してもいいよなぁ」
「連れ込むか」
複数人の男の声。一人じゃなかったのかよ。人をかき分けつつ、前に進む。
「やめてっ! やめてよ……っ。ちがっ、私は……っ」
ユルリカの吐息混じった声が響く。ようやく姿が見えるようになると、彼女は酒臭ぇ男たちに手をつかまれていた。
「なあ、クソ共。俺の連れに何してんだよ。やっちまうぞ」
できることなら目立ちたくなかったが、仕方ねぇ。にしても酒臭ぇ。
「はっはっはっ! てめぇみたいなチビに何ができるってんだ?」
「カインくん! この人たち強いよ!」
「黙ってろこの悪人が、しゃしゃり出てんじゃねぇ」
俺の目の前でユルリカが突き飛ばされた。




