第13話 耐久&理不尽
「っ痛い……」
ユルリカは尻もちついたまま動きを止めている。
「まずはてめぇからぼこしてぇ、そのあと女なぁ?」
ふらふらとしながら俺に近づいてくる。気づいた時には拳が目の前にきていた。ここじゃ穢喰も使えねぇのによ。
ボコン、という音がすして、四十センチメートルくらい吹き飛んだ。すると、鼻の奥から鉄のような匂いがし始めた。この匂い好きじゃねぇんだよ。
「お、おい、てめぇなに笑ってんだよ」
俺は今笑ってんのか? そんなつもりなかったんだけどよ。
「痛ぇし、こんな状況にも反吐がでそうなんだけどよ。今までのことに比べりゃ可愛いもんなんだよ」
今は、俺が笑ってることを自覚できた。
「そっかそっか、強がっちゃってんのか。ガキだから」
男たちは声をあげて笑い出した。ってか周りの奴等は何で見てるだけなんだよ。普通助けにくんだろ。
「まあいいや、死にてぇなら殺してやる」
ボン、ボン、ボンと顔だけを計七回は殴られた。呼吸させる気すらねぇのか。あいつらの拳には血がついてやがる。多分俺のだろーな。俺は鼻から出ている血をスカーフにつけねぇこと、ユルリカに手出しさせねぇことだけを気にするようにした。
「バケモンかてめぇは……全然死にやがらねぇ」
「こいつ、多分あと何回やっても死なねーんじゃねぇか?」
「仕方ねぇな」
男たちは俺抜きで話を進めると、俺に背を向けた。
「なんだァ? もうあきらめちゃうんだな」
俺がそう言うと、男たちの拳が震え出した。
「諦めじゃねぇ。時間の無駄だろうが」
酒の匂いだけを残して去っていった。周りの奴等は男たちの方向ばっか見てやがる。顔がおかしい。ユルリカは胸に手を当てて安心しているように見える。俺は立ち上がり、ユルリカのもとへと近づいた。
「カインくん、大丈夫? ありが――」
「ふざけんな! よそ者が余計なことしやがって!」
「どうしてくれんだ! この街ももうおしまいだ……」
「私、まだやり残したことあるのに」
俺に石、木などを投げつけてくる奴、泣き出す奴。そんな奴らの姿ばっか目に入ってくる。
「んだよ、俺なんか悪ぃことしたかよ!!! ふざけんじゃねー! 問題は解決だろーが」
問いかけても返事がねぇ。それどころかさっきより石の威力が上がってきている。首とか下半身とか急所ばっか狙ってくる。まじで殺す気かよ。
「こっちです!」
俺のペンを奪った子供が走りながら手招きをしている。俺は、ユルリカをおんぶして迷わずついて行った。追ってきているみてぇだが、周りの人が邪魔なのか石とかを投げてこねぇ。
俺たちは近くにあった裏路地に入った。
「ここなら……多分大丈夫です」
ユルリカを下ろし、俺は壁に寄りかかった。少し濡れているが、気に障るほどじゃねぇ。
「大丈夫か、ユルリカ」
「うん、私は。カインくんのほうが心配だよ」
「俺も大丈夫だ。にしても、なんなんだあいつら……俺でなきゃぼこぼこにしてるわ!」
俺たちは子供を助けようとしただけで、手出しはしてねぇ。この子供が金を盗もうとしたにしてもあれはやりすぎだ。もしかして、とんでもねぇ悪人なのか。
「皆、怯えてるんです」
「じゃあなんでそんなやべぇ奴から金盗ろうとしたんだてめぇは。もっと相手選ばねぇと死んじまうぞ? まあ、盗みのアドバイスなんてしたかねーんだが」
急に眠気が来た。瞼をこすってもこすってもあくびが出ちまう。
「あの人たちが……一番お金持ち」
クソ野郎共を優遇するんだな、この世界は。
「お母さん、お父さんは何してるの?」
ユルリカが口を開いた。
「最近、出ていきました」
親無しで生活してたのかよ。俺より全然過酷じゃねぇか。かといって、俺がしてやれることなんて何一つとねぇ。
「じゃあさ、家、来る?」
「良いんですか……? こんな盗人で」
ん? 盗み……? 俺まだペン返してもらってなくねーか!? 危うく忘れるところだったぜ。
「ペン、ペン返せ!! 俺の相棒なんだぞ!」
子供は、目を震わせながらだんまりとしている。
「ちょっとカインくん、怖がらせないであげて! もう、ほんと女心も子供心もわかってないんだから」
今のが怖かったのかよ。子供ってわかりにきぃな。俺ん時もこんな分かりにくかったのかな。
「わ、悪ぃ」
「ペン、返してあげてね」
ユルリカがニカっと口角を上げると、子供はペンを俺に返した。ユルリカの手とは違って少しべたっとしていた。
「あんがとよ」
まあ俺が感謝すんのもおかしい話だけどな。
「んで? こっからどーすんだ?」
二分くらい待ったけど反応がねぇ。
「なんで無視なんだよ!」
「あ、ごめん……なんか疲れちゃって」
確かに俺も体が重い気がする。ここ、ハリネズミでねぇよな?
「じゃあ少し休むか」
「そうしよ」
ユルリカの頭が俺の肩に当たった。俺の首元に髪の毛が当たってくすぐってぇ。でも。嫌な気はしなかった。




