先輩、離れてください。
「ははっ、、そんな怖がんないでよ。」
そう言いながら私の横の壁に手をつく先輩。
「どこから聞いてた?」
少し近い彼に驚きながら話す
「最後のほうです。」
「ほんとに、少ししか聞いてません。」
"ほんとに"の部分を強調する。
「そう…じゃあさ、」
「先輩。まず横にある手を離してください。」
話を遮って先輩に言う。
先輩は少し顔を顰めたと思ったが、1つ瞬きをしたら
先程の微笑んでいた表情に戻っていた
少しして口を開く先輩。
「…君、逃げるかもしれないから。それに、」
──今思えば、先輩の名前は一条凪。
私の中学校の卒業生だ。その頃はあまり名前を
聞かなかったが、何故だろう。
この学校では入ってきたばかりの1年生にも
名が広まっている有名人だと言うのに。
それにしても、人気だと言われている王子様と
絡んでいたら女の子たちの目線が怖い。
さて、どう言ってこの場を離れるか…
「ぇ………ねぇ……ねえ!!」
──先輩の声で自分が会話に集中してなかったことに
気付かされる。
「すみません、あまり聞いてなかったです。」
「…さっきから、人の話遮ったり聞かなかったり、
何考えてるのかな?」
静かな声なのに、逃げ場がない。
──聞いてなかったことにすればいい
そうしたら先輩は王子様で、
私はいつも通りの生活をおくることができる。
「…先輩ってほんわか王子様って呼ばれてますよね?」
「…だったら?」
「私、この件誰にも言いませんよ、だから、
離して貰ってもいいですか?」
先輩は、
少し考える素振りを見せて、
1歩、距離を詰めた。
「聞いてないってことにするの、やめない?」
「ぇ…?」
──先輩がなんで素を隠しているのか、
私には分からないけれど、私が聞かなかった
ことにすれば、全てが円満に行くのに。
先輩のことが、
分からない。
そんな私の気持ちを汲み取ってか、先輩は少し笑う。
「困るんだよね。
見られた上に"知らない"って顔されるの」
その笑顔が、怖い
「だからさ、俺の秘密、守ってよ」




