32.勝利の祝杯
村への帰り道は賑やかだった。
リゼットは俺の無茶を叱っていたが、ノアはずっと俺のことを褒めていた。
サーシャは、陽動組に無理をさせすぎたとずっと謝っていた。
勝ったんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。
だが、こういう真面目さがあるからこそ、みんなに慕われるのだろう。
村の広場に到着すると、サーシャが大声で叫んだ。
「ゴブリン共を討ち取ったぞー!」
サーシャは、布にくるまれたコマンダーとクイーンの首を頭上に掲げた。
その声を聞き、周りにいた村人たちが俺たちを取り囲む。
「本当ですか……? 本当にゴブリンを?」
「ああ! ほら見ろ!」
布をほどくと、村人たちが息を呑んだ。
その首を見た瞬間、一人の村人が歓声を上げた。
「本当だ……!」
「やったぞ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
気づけば、村中が歓声に包まれていた。
俺たちは酒場に連れていかれ、ゴブリンの巣穴での出来事を根掘り葉掘り聞かれた。
「ゴブリンを討ち取った英雄たちに乾杯!」
村長がコップを掲げると、村人たちがそれに続いた。
村人たちは大声で笑い、抱き合っていた。
昨日とは、まるで別の村みたいだった。
「あんたら、ゴブリンの巣穴を潰したらしいな?」
横を見ると、昨日酒場で出会った男が立っていた。
確か、以前の襲撃で家族を失った男だ。
「……ありがとう。仇を討ってくれて」
男は涙を流しながら俺の手を取った。
その手は震えていた。
「いや、俺たちは依頼をこなしただけで……」
「それでも、ありがとう。本当に――」
その後も、男は俺たちに何度も頭を下げた。
気づけば、もうお昼過ぎになっていた。
村人たちの興奮も少しずつ落ち着いてきたころ、俺たちは酒場を後にした。
村人たちにはしばらく滞在してくれと頼まれたが、俺たちはそれを断った。
村はまだ復興途中だ。
いつまでも俺たちが歓待されていても、村のためにはならない。
村の広場には二本の棒が立てられ、先端にはゴブリンの首が刺さっていた。
俺たちが村を出るとき、村人たちは総出で俺たちを見送ってくれた。
「私、先生とパーティを組めて本当によかったです」
リゼットがしみじみと語った。
「師匠がいなかったら、陽動組は全滅してた。師匠はさすがだな!」
ノアはこの調子で、ずっと俺を褒め続けていた。
「俺も二人とパーティを組めてよかったよ。ありがとう。感謝してる」
俺がそう言うと、二人は照れくさそうに笑っていた。
難しい依頼だったが、受けてよかった。
正直、少しだけ誇らしかった。
自分のやってきたことが、ちゃんと誰かの役に立ったと実感できたからだ。
村を出てから三日目の夕方。
俺たちはようやくテルンに到着した。
疲れ果てていたが、ギルドの報告をしなければならない。
サーシャがギルド嬢のクレアに報告していた。
「ウォーリアーにソーサラー、それにクイーンとコマンダーまでいた。数は……80匹以上はいたと思う」
そう告げた瞬間、クレアが目を見開いた。
口を半開きにして、理解が追いついていないようだった。
「そ、そんな……」
クレアは青ざめた顔で、何度も報告書に視線を落とした。
「本当に申し訳ありません。こちらの調査不足でサーシャさんたちを危険な目に遭わせてしまいました」
その後もクレアは何度も頭を下げ、俺たちの働きを称えてくれた。
それぞれが冒険者タグを魔導端末にかざし、討伐数を確認してもらった。
報酬は後日ということになりそうだ。
「実は『灼熱の誓い』の人たちもこの依頼受けていたんですよ」
俺が報告している最中、クレアは俺にそっと耳打ちしてきた。
「やっぱりエリクさんが『灼熱の誓い』を支えていたんですね! エリクさん、今のパーティですごく楽しそうですし、これからも頑張ってください!」
クレアは胸の前で両拳を握り締め、俺を励ましてくれた。
「これはオフレコなんですけど……もしかしたら今回の件でランク昇格もあり得るかもしれません。今回の依頼ランクはBでしたけど、実質Aランク依頼のようなものでしたし、前回倒した炎獄蠍の件もあります。ランク昇格は十分あり得ると思います」
ランク昇格の条件は、強さはもちろん、依頼達成によるギルドへの貢献も重要視される。もしかしたら本当に、Bランクに昇格できるかもしれない……
サーシャ、俺、新人組のリーダーがそれぞれ報告を終えた。
「依頼達成の祝賀会はまた明日にしよう。今日は疲れているだろうからゆっくり休んでくれ。またいつか、このメンバーで依頼を受けよう!」
サーシャは最後まで笑顔だった。
本当にいいリーダーだと思う。
俺たちは再会を約束して、別れを告げた。
「先生、今から私たちだけで依頼達成の祝賀会しませんか?」
「賛成だ! 師匠、いいだろ!?」
リゼットが提案するとノアがそれに賛同した。
「そうだな。よし、行こうか!」
俺たちは、酒場「月明りの女神亭」へ向かった。
「かんぱ~い!」
俺はコップに入ったエールを一息で飲み干した。
最高にいい気分だった。
「リゼット、あまり飲みすぎないようにな?」
「わ、わかってます……」
リゼットは肩をすくめ、小さくなった。
依頼を完遂し、誰一人欠けることなく帰ってこれた。
村人たちにも感謝され、ギルドの評価も上がったことだろう。
最高の夜だった。
――少なくとも、このときまでは。
食事を終え、店の外に出た。
突然、今一番聞きたくない声が聞こえた。
「よお! エリクじゃないか! 久しぶりだな!」
振り返るとレオポルドが立っていた。
その後ろには、イザベラとセオドアの姿もあった。
――最悪だ。
一気に心が沈む。
せっかくの気分が、台無しだった。
次で最終回です。




