30.ゴブリンの巣穴突入②
「そっちの班はエリクがリーダー。みんなそれでいい?」
サーシャの言葉に、全員が静かに頷いた。
「ゴブリンクイーンがいるだろうから、アタシたちはまずそいつを潰す。それからゴブリンコマンダーだ」
俺は短く頷く。
「エリクが正面から踏み込んだら、アタシたちも突入する」
「わかった」
それからサーシャたちと別れ、奥へと進んだ。
通路の幅は、大人三人が並んでも余裕がある。
ノアを先頭にして隊列を組んだ。
誰も口を開かなかった。
「【ライト】を消せ」
先頭のノアが立ち止まり、リゼットに告げる。
光を消すと真っ暗闇になった。
だが、通路の奥が少しだけ明るい。
その光が、ゆっくりと近づいてくる。
――ゴブリンの話し声。
「援護頼むぞ」
ノアが駆けだした。
「雷槍!」
リリアの杖から雷が走る。
雷光がノアを抜き去り、先頭のゴブリンを撃ち抜いた。
直後、松明を持っていたもう一匹のゴブリンもノアによって倒された。
そのまま道を進んでいくと、通路の端のゴミが増えてきた。
「待て」
ノアが俺たちを止めた。
その視線の先――
天井近くには骨がぶら下がり、足元には細い糸が張られている。
警報装置。
気付かずに歩いていたら、足に糸を絡ませて広間のゴブリン共に気付かれていただろう。
ノアが罠を解除した。
「【ライト】を小さくしろ」
リゼットが【ライト】の光を絞る。
通路の奥が少し明るい。リゼットは【ライト】を解除した。
「ここからは俺が前衛を張る」
背負っていた盾を左手に装備する。
「相手は大人数だ。ゴブリン共を呼び寄せてここで待ち受けるか?」
ノアが俺に話しかけてきた。
「いや、俺たちの目的は陽動だ。サーシャ組の奇襲を成功させるためにも、できるだけ派手にやったほうがいい。広間に打って出るぞ」
ノアは小さく頷いた。
「俺は前衛を張る。ノアは自由に動いてくれ。お前の判断に任せる。エミールは支援。リリアとルナは後衛火力。リゼットは最後尾。通路側の警戒を頼む。万が一新人組がやられていたら――後ろからもゴブリンが来る」
みんなは静かに頷いた。
通路の先にはこちらを警戒している二匹のゴブリンが見えた。
ノアと俺は駆け出した。
「岩弾!」
ルナの岩弾がゴブリンの体に命中し、吹き飛ばす。
もう一匹のゴブリンがそのことに驚き、俺たちに背を向け走り出す。
ノアがそいつに飛びかかり、息の根を止めた。
俺は、岩弾が命中し仰向けになっているゴブリンにトドメを刺した。
そのまま広間へ飛び出す。
ゴブリンの半数が床に寝転がっていた。
ピーーーーーーーーーー!
広間に響く耳をつんざく笛の音。
寝ていたゴブリンたちが跳ね起きる。
おそらく起きていたゴブリンが鳴らしたのだろう。
俺は近くにいた、まだ事態を把握できていないゴブリンに剣を振り下ろし、始末した。
ノアも俺から離れ、寝起きのゴブリンに襲い掛かった。
「炎球!」
リリアから放たれた炎球が、寝ぼけているゴブリンの群れへ突き刺さる。
爆炎が弾け、数匹のゴブリン共がまとめて爆散した。
寝ぼけているゴブリンの胸に剣を突き刺し、順調に数を減らしていく。
寝ていたゴブリン共は丸腰で、倒すのは簡単だった。
しばらく暴れた後、眠りから覚めたゴブリン共は、とある一つの部屋に殺到し始めた。
武器庫だ。
俺は近くに倒れていたゴブリンの首を掻っ切り、その頭を頭上に掲げた。
「どうした!? お前らの味方がやられてるのに逃げだすのか!?」
大広間中に俺の【大声】が響き渡った。
【挑発】。
人数制限はあるが、特定の範囲の敵のヘイトを自分に集めることができるスキルだ。
10匹以上のゴブリンが俺に向かってきた。武器を持たず素手で向かってくる奴らも多い。
【挑発】にかかった奴の動きは単調で読みやすい。
俺は盾を構え、正面から受ける。
その時だった。
「ウヴォォォォォォォォォ!」
腹の底に響くような咆哮が、上から叩きつけられた。
視線を上げる。
二階の通路には、鉄兜に皮鎧のゴブリンが仁王立ちしていた。
ゴブリンコマンダーだ。
その声が響いた瞬間――
その場の空気が、コマンダーに上書きされる。
【挑発】が、消えた。
素手のゴブリンたちは武器庫へと逃げる。
棍棒を持ったゴブリンたちだけが、俺との間合いを測るように睨みつけた。
「防御向上!」
エミールの支援魔法だ。
全身を薄い膜が覆う感覚。
これなら、多少の無茶をしても問題ないだろう。
「炎の壁!」
リリアが左側面に炎の壁を張った。
通路を背にしているので、正面と右から来るゴブリンだけを考えればいい。
不用意に突っ込んできたゴブリンを剣で一閃する。
それだけで、ゴブリンたちは距離を取った。
明らかに恐怖していた。
距離を取ったゴブリンたちは、炎球と岩弾で確実に数を減らしていった。
ノアはヒットアンドアウェイで、ゴブリンの死角から変幻自在に攻撃を繰り出している。
戦況は確実にこちらへ傾いていた。
――押し切れる。
そう感じた瞬間だった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」
再びコマンダーの【咆哮】が広間に響き渡った。
地面が震えている。
――違う。
震えているのは、俺の脚だ。
視線を上げる。
取り囲むゴブリンたちの背丈が、さっきよりも一回り大きく見えた。
「む、無理! 死にたくない!」
振り返ると、ルナが通路に向かって走り出していた。
「ルナ!」
ルナは一瞬だけ振り返る。
「ごめんなさい!!」
杖を持つ手は震え、顔は引きつっていた。
ルナは、そのまま戦場から逃走した。
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