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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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29.ゴブリンの巣穴突入①

 夜明け前。

 俺たちは荷物を宿屋に預け、最小限の荷物だけで村の外に集合した。


 サーシャは、木製の小さな笛を新人パーティのリーダーと俺に手渡した。

 笛には紐が付いており、首にかけられるようになっている。

 サーシャ、新人、俺の三人が合図役だ。


 使う場面は、あまり来てほしくはないが……


 村を出て森に入ると、会話は最小限になった。

 ゴブリンの巣までの距離、作戦の確認、笛を使うタイミング。

 新人組は、似たような質問を何度も繰り返していた。


 俺たちは森の小道を、ひたすら奥へと進んでいった。

 

 少しだけ空が白み始めた頃。

 突然、先頭を歩くサーシャが立ち止まり、片腕を水平に広げた。

 止まれの合図だ。


 ゆっくりと腕を下げていく。

 ――身を屈めろ。


 俺は視線の先を追ったが、何も見えない。


 誰も喋らない。

 耳を澄ませても聞こえるのは、鳥の声と虫の声、風に揺れる木々の音だけだ。


 サーシャは中腰のまま背中の矢筒から矢を一本抜き、弓を構えた。


 一点を見つめ、矢を引き絞る。


 矢の先端が、何かを追うようにわずかに動く。


 サーシャが指を離した。


 その瞬間。


 矢が消えた。


 俺には軌道すら捉えられなかった。

 数十メートル先、草むらの奥に矢の羽根(はね)がちらりと見えた気がした。


 サーシャは草藪をかき分けて奥へと入っていく。

 代わりにリアが先頭に立ち、周囲を警戒する。


 やがてサーシャが戻ってきた。


 手には血の付いた矢が握られていた。


「はぐれだろう」


「はぐれ?」


 ルナが尋ねた。


「斥候なら、普通は二匹以上で動く。今のは群れから離れたゴブリンだろう」


 サーシャは近くの葉で矢尻の血を拭った。


「行こう」


 俺たちは再び歩き始めた。


 小道を外れ、獣道のような細い道を進んでいく。


 東の空に太陽が顔を出し始めた頃。

 俺たちは、視界が少し開けた場所に出た。

 目の前にあるなだらかな丘の中腹には大きな穴が開いていて、その前ではゴブリンたちが五匹たむろしていた。


 ゴブリンの巣だ。


 俺たちは姿勢を低くし、サーシャの指示を待った。

 サーシャは周囲に目を走らせ、注意深く観察している。


 サーシャが弓矢を構えた。

 矢が放たれた瞬間、遠くの木の上から何かが落ちた。

 おそらくゴブリンだ。


 巣の前のゴブリンたちには気付かれていない。


「ノア、気付かれないようにあいつらの背後に回れるか?」


 サーシャがノアに尋ねた。


「任せろ」


「よし。まずアタシが弓矢で数を減らす。その後は自由にやってくれ。攻撃のタイミングは任せる」


 ノアは小さく頷くと、静かに行動を開始した。


 しばらくして、ノアが位置に着いた。


 サーシャが弓を引き絞り、少し離れたゴブリンに狙いをつけた。

 一瞬だった。音もなく倒れたそいつに他のゴブリンは気付かない。


 サーシャはさらにもう一匹に狙いをつける。

 それと同時に、木の影に隠れていたノアが動いた。 


 サーシャの矢が命中した。

 突然倒れたことに驚く他のゴブリンたち。

 ゴブリンたちの死角から近付いていたノアは、そのうちの一匹の背後に忍び寄り首を掻っ切った。

 矢の命中とほぼ同時だった。


 ノアは、隣にいたゴブリンに素早く近づき、一瞬で仕留めた。

 直後、最後の一体の頭をサーシャの矢が貫いた。


 初めての連携とは思えないほど息ぴったりだった。


 俺たちは、他のゴブリンがいないことを確認してから巣穴へと近づいた。

 近づくにつれ、血の匂いが濃くなっていく。


 足元に転がっているゴブリンに目が行った。首元には笛がぶら下がっていた。

 見張りに笛を持たせる知能があるのか……

 これから戦う相手を想像し、俺は口元を引き締めた。


「よし、ここまでは予定通りだ。新人組はここで見張りをする。いいな?」


 男の子三人が元気な返事をする中、一人の女の子が手を上げた。


 ルナだ。


「私も巣の中に同行したいです」


 皆がサーシャを見つめた。


 一瞬の静寂。


 少しして、サーシャはルナに笑顔を向けた。


「いいねー。お姉さんそういう熱い子好きだよー。じゃあ一緒に行こうか」


 サーシャがルナの頭を撫でた。

 ルナは頬を緩め、「えへへ」と小さく笑った。


 サーシャは本当に空気を作るのがうまい。


「じゃあここに残るのは戦士、ヒーラー、盗賊の三人になるね。大丈夫?」


 新人組のリーダーらしき戦士の子は、力強く返事をした。


 穴の入り口には、ゴブリンの頭蓋骨の小さな山が築かれていた。


「ソーサラーだな」


 サーシャが俺に語り掛けてきた。


 ゴブリンソーサラー。

 独自の言語を操り、魔術も使えるらしい。

 昔資料を読んだが、まともな情報はほとんどなかった。


「アタシ、ソーサラーのことあんまり知らないんだよね。知ってる?」


「いえ、俺もあんまり……」


「そっかー。まあ、何とかなるでしょ」


 視界の端でリゼットが杖を握り締めるのが見えた。

 ここまで来て引き返す選択肢はない。

 ――やるしかない。


 サーシャとノアを先頭に、俺たちは洞窟へ入った。


「【ライト】」


 リゼットが魔法を唱えると、頭上に光の玉が浮かんだ。

 松明より少し明るい光の玉が、洞窟を照らし出す。


「この先に二股の分かれ道があるみたいだから、まずはそこまで行こうか」


 しばらく進むと、二股の分かれ道に出た。一方の通路は広く、もう片方はやや狭い。


「パーティを分けようと思う。アタシとガレットが細いほうの道に行くから、君たちは広い道を進んでくれない?」


「分かった」


 俺が返事をすると、リゼットとノアも頷いていた。


「待って……私は反対」


 後ろからリリアが出てきた。ボリュームのある癖の強い黒髪に隠れて表情は分からない。


「もしかしてリリア寂しいの? アタシと離れるのが――」


「茶化さないで。別にそんなんじゃない。ただ……チームを分けるのは危ないって思っただけ」


 ノアだけは会話に加わらず、周囲を警戒していた。


「うーん……どっちか一つの道を選んだら挟み撃ちの危険があるって昨日も言ったよね? 忘れちゃった?」


 サーシャの手がリリアの手を包み込んだ。


「べ、別に、忘れてはないけど……」


 サーシャは優しくリリアを抱きしめる。

 耳元で何か囁いているようだ。


「っ!? ば、馬鹿! 死ね!」


 リリアはサーシャを突き飛ばすと、両手で杖を構えた。


「こ、殺す! 今ここで殺してやる!」


 リリアの言葉を聞いて、リゼットがすぐに割って入った。

 リリアの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


「落ち着いてください、リリアさんっ」


「リリア、あんまり時間もないし、別行動でいいよね?」


 しばらく鼻息を荒げ興奮していたリリアだったが、杖を下ろした。


「……勝手にしろ」


 結局、俺たちは二手に分かれることになった。

 片方は、サーシャ、ガレットの二人組。

 もう一方は、エリク、リゼット、ノア、リリア、エミール、ルナの六人組だ。


◇サーシャ視点


 エリクと軽く打ち合わせをした。


「ファイア」


 リリアが魔法で松明に火をつけた。


「ありがとう。リリア、気を付けてね」


「……あなたもね」


 リリアが小声で呟いた。

 サーシャは満足そうな笑みを浮かべながら、松明を手に狭い通路の奥へと進んでいった。


 サーシャが先行し、ガレットが後に続く。

 サーシャたちは、大人二人がやっと通れるほどの狭い通路を慎重に進んでいった。


 奥へ進むにつれ通路の端のごみが増え、ゴブリン特有の獣臭い匂いが濃くなった。


 通路の奥の曲がり角が、少し明るいことに気付いた。


 「ガレット、ここで待ってて」


 サーシャは松明をガレットに預けた。


 足音を極力立てないように、慎重に近づいていく。

 曲がり角の奥から、いびきが聞こえてきた。

 角に辿り着くと、ゆっくりとその先を覗いた。

 曲がり角の先にはまだ通路が続いている。


 その奥に、ぐっすりと眠るゴブリンが一匹見えた。

 部屋の天井には小さな穴が開いていて、そこから朝の日の光が降り注いでいた。


 ガレットに手招きする。

 ガレットを呼び寄せると、サーシャはその場で待つよう合図し、先へと進んだ。


 部屋に入ると6体のゴブリンが眠っていた。

 藁が敷かれただけの粗末な寝床だ。


 サーシャは近くのゴブリンに近寄った。

 ナイフを握ると、そいつの口を押さえながら首に刃を押し込んだ。


 同じ手順で、残りのゴブリンも始末した。


「終わった。いいぞ」


 ガレットはゴブリンの死体を確認すると小さく頷いた。


「多分ここは詰所(つめしょ)だな。こいつらは見張りの交代要員だろう」


 部屋の奥には、さらに通路が続いていた。


 松明を掲げ、奥へと進む。

 しばらく歩くと、再び通路の先から光が漏れていた。


 ガレットをその場に残し、サーシャが様子を見に先へと進んだ。


 通路の先を覗くと、そこはかなり開けた大広間になっていた。

 天井の一部が抜け落ち、そこから空が見える。


 下の広間では数十匹のゴブリンが眠っていた。

 どうやら二階構造になっているらしい。


 眠っているゴブリンは多いが、起きている見張りもいる。

 部屋に入れば確実に気付かれてしまう。


 サーシャはガレットを呼び寄せた。

 エリクたちの突入のタイミングに合わせるため、気配を殺してその場に身を潜めた。

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