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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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27/33

27.フィーミル村到着

 旅に出て二日目の朝。

 基本的な隊列は変わっていない。

 一番前に黒鷹団(こくようだん)、真ん中に新人パーティ、そして最後尾に俺たちのパーティ。


 テルンの都市から離れるにつれ、人通りは少なく道も荒れ始めた。

 初日とは違い、見通しのいい平地は少なくなった。


 安全な場所では隊列は乱れ、空気も緩む。

 だが、森や山岳地帯を通り過ぎるときは、必然的に会話は少なくなった。


 深い森に差し掛かる。

 昼なのに薄暗く見通しも悪い。

 道幅も狭くさっさと通り抜けたい場所だ。


「付けられてる」


 後ろにいたノアが俺に知らせてきた。


「魔物か?」


「多分、(ウルフ)


「数は?」


「二か三」


 前に視線を送るとサーシャと目があった。

 くいくいと手招きされた。


 速足でサーシャの元へと向かう。

 一行は歩みを止めていない。

 ヒーラーのエミールが、新人組に何かを話していた。

 女魔術師のリリアは地図を広げ、現在地を確認しているようだった。


森林狼(フォレストウルフ)に付けられてる」


 サーシャの口調は、いつもより鋭かった。

 俺と話している間も視線を森へ走らせている。


 突然、右手側から狼の遠吠えが聞こえてきた。

 それに応えるように、別の狼が遠吠えをする。


「みたいだな」


「襲ってはこないだろうが、一応警戒はする。このままのペースを保ったまま森を抜ける」


「分かった」


 俺は後ろへ下がり、リゼットとノアの元へ戻った。


「警戒はするがこのまま森を抜ける。いいな?」


「はい」

「分かった」


 二人とも落ち着いていた。


 一方、新人たちは少し動揺しているようだった。

 その中でもルナは杖を両手で握りしめ、いつ襲ってきてもいいように身構えている。


 森の奥で草が揺れた気がした。

 視線を向けるが、何も見えなかった。


 十分後。


「よーし。森林狼は諦めたみたいだな。でも油断せず行こう」


 サーシャが後ろを向いて笑顔を見せた。


 その声を聞いた瞬間、新人組たちはお互いの無事を喜び合った。


「よかった……」

「もう大丈夫だよね?」


 俺はノアを見た。

 本当に大丈夫か?


 ノアは小さく頷き親指を立てた。

 どうやら危機は去ったみたいだ。


 それからは何事もなく進んだ。

 日が傾き始めた。

 山の中腹に差し掛かったあたりで俺たちは足を止めた。


 左手は谷へ落ちる崖。右手は切り立った岩壁だ。

 その岩壁の前には、野営するのにちょうどいい空き地が広がっていた。


 西の空がオレンジ色に染まっていく。

 エミールが魔結晶式点火器具で焚き火を起こした。

 それを横目に、俺はリュックから地図を取り出して広げた。


「おつかれ。どうだ、調子は?」


 サーシャが俺の隣に座り、地図を覗き込んだ。

 肩が触れた。


「今ここだろ? この山を越えたらもうちょっとだな」


「そうか」


「なんだ? 体調悪いのか? いいぞ。今日はアタシらだけで見張りするから、ゆっくり休むといい」


 俺を気遣ってくれてるのだろう。

 サーシャは俺の肩を抱き寄せた。


「いや、そういうわけには……」


「ほら、見てみろ。リゼットとノアもかなり辛そうだぞ」


 リゼットとノアが、ものすごい形相で俺たちを睨んでいた。


「いや、あれは体調が悪いというか……」


 ノアはサーシャのことが信用できないから睨んでいるのだろう。


 リゼットはルクス教の敬虔な信徒だ。

 ルクス教では、婚姻前の男女は節度を持って接するべきだと戒律で定められている。


 サーシャの豊満な胸が腕に触れた。


「……サーシャさん、ちょっと距離近いんじゃないですか?」


 ああ、リゼットさんが怒ってる。


「え?」


 サーシャは俺とリゼットの顔を交互に見た。


「あっ、えっ!? そ、そういう感じ!? じゃあ……リゼットごめんっ! リゼットの気持ち考えてなかった!」


 サーシャは俺から離れると、リゼットの手を取り頭を下げた。


「い、いや! そ、そういうんじゃないです! ただ、ちょっと距離が近いなって思っただけで……」


 尻すぼみに声が小さくなるリゼット。

 夕日に照らされているせいで顔が赤い。


 どうやらサーシャは、リゼットの胸元の太陽の刺繍を見て彼女がルクス教徒だと気づいたようだ。


 だが、リゼットにはひとこと言っておいた方がいいかもしれない。

 自分の宗教観の押し付けはよくないと。


 その後、食事の時間になった。

 今日の俺たちの食事は乾パンと干し肉とチーズだ。

 黒鷹団(こくようだん)がスープを作ってくれた。スープには野草ときのこが入っている。

 野草はヒーラーのエミール、きのこは魔法使いのリリアが採ってくれたものだ。


 新人組にチーズはない。

 逆に黒鷹団(こくようだん)の食事には、ドライフルーツが添えられていた。


 スープに干し肉を入れ、乾パンを浸して食べる。

 干し肉の塩分でちょうどいい味付けになっている。少し臭みはあるが、野草がその臭みを和らげてくれていた。

 何よりきのこがいい仕事をしている。きのこの旨味のおかげで、スープの味がぐっと美味くなっていた。


 夕食後、リリア以外を謎の腹痛が襲った。

 どうやら、夕方に採ったきのこの一部に当たりが混じっていたらしい。

 謎の腹痛は、リゼットが沸かしてくれたカモールティのおかげでだいぶ楽になった。

 ちなみに、リリアはエミールにこっぴどく怒られていた。


 見張りの時間。


「師匠、他にはどんなゴブリンがいるんだ?」


 ノアが昨日のゴブリン講義の続きを促した。


「そうだな……次に怖いのはゴブリンコマンダーだな」


「コマンダー? 司令官か?」


「そうだ。こいつがいると群れの危険度は一段階上がる。それぞれバラバラに動いていた群れが、コマンダーの元で一つにまとまる。そんなイメージだな。独自言語を操り、複雑な命令も出せる。もちろん人間に比べれば知能は劣るが――」


「そいつ自身も強いのか?」


「頭のいいゴブリンウォーリアーって感じかな。もちろん強いが、なにより頭がいいのが厄介だ」


 視線を感じて後ろを振り返った。

 新人組の魔法使いのルナが、三角座りをして俺の話を聞いていた。


「ごめん、声、大きかった?」


「いえ。不安で眠れなくて……」


「そっか。でも大丈夫。君たちは巣の外での見張りをしてもらうだけだから。危険は少ないよ」


「……はい」


 ルナは口を開いたが、視線を迷わせ結局何も言わなかった。


 遠征開始から三日目の朝。


「んじゃ、出発ー。村に着くのは今日の昼過ぎくらいかな。どうだ? 新人ちゃんたち、もうちょっとだけ頑張れそうか?」


「……いけます」


「オッケー。いい返事! まあ、何かあったらアタシらが何とかするからな」


 峠を越え、橋を渡り、林を抜けた。

 あまり人が来ないせいだろう。雑草は伸び放題で、道はかなり荒れていた。


 広葉樹の森を歩いている最中に、遠くから鐘の音が聞こえた。


 森を抜けると、遠くに村の家々が見えた。


「お、村が見えてきたな」


 フィーミル村に入った瞬間、すぐにゴブリンの襲撃を受けた村だと分かった。

 大人たちの顔が暗く、泣いている子供たちも多い。

 「何をしに来たんだ」と言わんばかりの顔で俺たちをじろじろと見定めているようだった。歓迎されている風には全く思えなかった。


 俺たちはまず宿屋へと向かい、大部屋を二つ借りた。

 ここからは個別行動だ。

 黒鷹団(こくようだん)は広場で聞き込み、俺たちは酒場で聞き込み、新人組は教会で聞き込みだ。


 俺たちは酒場に向かった。中に入ると客が一人、主人が一人いた。

 昼間だというのにべろべろに酔っぱらった男が、店の主人に一方的に絡んでいた。

 だが、店の主人は何も言わずにうんうんと黙って聞いているだけだ。


「すいません、ちょっとお話し聞いてもいいですか?」


「ああ!? なんだてめえ? 俺に喧嘩売ってんのか? いいぞ買ってやるよ」


 男はファイティングポーズをとるが、足元が覚束(おぼつか)ない。

 大振りの一発を繰り出すが、当然のごとく空振り。

 男はその反動で足をもつれさせた。


 転ぶ寸前に手をつくが、そのまま体が前に回る。

 一回転して、床に仰向けになった。


「マリアー! リリィー! なんで……なんでだよ……」


 酒場に男の声が響いた。

 俺は何も言えなかった。


「あんたら、冒険者か?」


 酒場の主人が俺たちに話しかけてきた。


「そうです」


 俺たちはカウンター席に並んで腰を下ろした。


「何か飲むだろ?」


「じゃあエールで」


「私は牛乳を」

「ボクも」


「あの人は放っておいていいんですか?」


 振り返ると、男は仰向けになったまま目元を腕で隠しながら声を殺して泣いていた。


「いいよ、俺たちにはどうすることもできねえからな……」


「何があったんですか?」


 酒場の主人は、ゴブリンの襲撃についてぽつぽつと話してくれた。

 家に火をつけられたこと。女子供が狙われたこと。食料が奪われたこと……


「俺はこの酒場を守ることで精いっぱいだった。そこの男は用事があって村から離れてたんだ。それで――」


 出されたエールを一気に飲み干した。

 だが味はしなかった。


「ごちそうさま」


 銀貨を置き、俺は席を立った。

 男の泣き声がいつまでも頭の中にこびりついていた。


 村を見て回ると違和感に気付いた。

 森側の見張り台はかなり以前に作られたものだが、その反対側の見張り台は最近作られたものだ。

 つまり、ゴブリン襲撃後に一つは作られたのだ。


 村人に話を聞くと、ゴブリンたちの侵入ルートが見えてきた。

 ゴブリンたちは森側ではなく、畑側から回り込んできた。

 当時は、見張り台がなく死角になっている場所だ。

 木柵(もくさく)を登り、数匹が村へ侵入したらしい。

 柵の外側には刃物を突き立てたような傷が残っていた。

 おそらく骨のナイフを足場にしたのだろう。


 侵入した後に火を放ち、村を混乱させた。

 松明を持って侵入したわけではない。

 火打石か火種で火を起こしたのだろう。 


 その後、混乱に乗じて本隊が正面から突入。

 もはやちょっとした軍師だ。


 ゴブリンたちは普通、そこまで頭が回らない。

 森側を警戒していれば、襲撃は防げる。

 そう普通なら……

 普通でない襲撃をしたということは、司令塔――つまり、コマンダーがいる可能性が高い。


「ゴブリンコマンダーってそんなにやばいのか?」


 俺の推理を聞いて、ノアが首を傾げた。


「分からない。俺もギルドの資料でしか知らないからな」


 この依頼、嫌な予感がする。

 俺たちは宿屋へと急いだ。

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