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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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26.サーシャたちとの遠征

 ギルド内で軽い打ち合わせをした後、サーシャと別れて外へ出る。

 辺りはすっかり日が落ちていた。


「……先生、随分サーシャさんと仲がよかったですね」


 リゼットさんが怒ってらっしゃる。

 どうやら、さっきのボディタッチが気に入らなかったらしい。


 リゼットは男女関係にはかなり厳しいからな。

 きっとそのせいだろう。


「師匠はもっとあの女にビシッと言うべきだ! 言づらいならボクから言ってやってもいい」


 ノアはギルドを出てからもずっとこの調子だった。

 いや、お前もちょっと前までは、相当馴れ馴れしかったけどな?


 しばらく二人の愚痴に付き合わされることになった。


「先生。ノアと二人で話したんですけど、私たちも先生と同じ宿に移っていいですか? あ、えっと変な意味でじゃなくて……ほ、ほら、連絡とか取りやすいですし……」


「あー、確かにそうだな。部屋に空きがあるか聞いておくよ」


 「灼熱の誓い」では、俺だけが別の宿だった。

 それ自体に不満はなかったが、もしかしたら同じ宿だったならもう少し理解しあえたのかもしれない。


「師匠、どうした?」


 ノアが俺の顔を下から覗き込む。


「い、いや何でもない。そんなことより、明日はかなり歩くことになるから早めに寝るんだぞ?」


「はい、先生」

「もちろんだ」


 リゼットとノアはいつも俺を気遣ってくれる。

 今回の依頼、リーダーとしてしっかりしなくてはな。


◇◇◇


 太陽が顔を出し始めた頃、俺は街の城門前へと到着した。


 リゼットとノアは既に到着していた。

 二人ともリュックを背負い、緊張した様子で小声で何か話していた。


「おはよう」


「おはようございます」

「おはよう」


 きれいにハモった。

 リゼットは医療装備、ノアは調理道具、俺は予備食料担当だ。


「忘れ物はないな?」


「はい」

「多分……」


 リゼットは大きく頷いたが、ノアは少し自信なさげだった。

 まあ大丈夫だろう。調理道具なんて、最悪なくても何とかなる。


 俺はサーシャのところへ向かった。


「今日はよろしくお願いします」


 頭を下げると、サーシャは元気よく笑った。


「エリク、固すぎるぞ。もっとリラックスリラックス。ほら、吸ってー、吐いてー」


 サーシャは俺の手を握り、頭上に掲げ、横に広げ、そして下ろした。

 深呼吸しろってことらしい。


 いきなり手を握られてドキッとした。だが、いつもと変わらないサーシャを見て口元が緩む。


「よし、いい感じにほぐれたな。お、新人ちゃんたちも来たみたいだ」


 サーシャは俺から手を離した。

 それから走ってきた子たちに大きく手を振っていた。


「先生、楽しそうですね」


 いつの間にか近くにいたリゼットが、むぅと眉根を寄せていた。


 遅れてきた別のパーティも、この依頼に参加するらしい。

 男三人、女一人の新人パーティ。

 だが、サーシャが選んだ子たちなら問題ないだろう。


 俺たちは、フィーミルに向かってテルンの街を出発した。


「先生、ゴブリンとゴブリンアーチャーは知ってるんですが、他にも種類がいるんですか?」


 街道を歩いている途中で、リゼットが俺に問いかけた。


「いる。そいつらの次に有名なのは、ゴブリンウォーリアーだな。あまり賢くはないが、二メートル近い身長で力も強い。まあ、動きはあんまり速くないから、落ち着いて戦えば問題ない」


「ボクでも勝てる?」


「そうだな。上手くやれば勝てると思うぞ」


 俺の話を聞くと、ノアは体を捻ったり拳を突き出したりし始めた。


「ガレットさんならどう戦います?」


 ガレット。

 黒鷹団(こくようだん)の前衛で、小盾とレイピアを操るカウンタータイプの剣士だ。冒険者ランクはB。

 鉄製の胸当て以外は軽装で、動きやすそうな格好をしていた。


「盾で弾いて剣で突き刺す。それだけだ」


 腰に差したレイピアに手をかけながらぼそりと呟いた。

 細身だが、よく鍛えられている。

 口数は少ない。だが、それが逆に彼の強者感を引き立てていた。


「ガレットは強いよー。うちが保証する。な?」


 後ろで新人パーティと話していたサーシャが、男二人の間に入ってきた。


「テルンで活動してる冒険者の中じゃ、対人戦だと最強かもな」


「……言い過ぎだ」


「んー、そうかな? なあ、エミールはどう思う? ガレット最強説について」


 エミール。

 黒鷹団(こくようだん)のヒーラーを担当している男。冒険者ランクはC。

 杖を持ち、灰色のローブを身に纏っている。

 今回参加するメンバーの中では一番の年長者だ。


「そうですね。トップレベルだとは思います。ただ、一番かと言われると……ギルド長に勝てますかね」


「あー……確かに。てか、グスタフが負ける姿想像できないかも」


 森を越え、丘を越え、日が暮れ始めた。


 新人パーティは、昼を過ぎたあたりから露骨に口数が減った。

 リゼットも辛そうだったので荷物を少し持とうとしたが、断られた。

 逆に、黒鷹団(こくようだん)とノアはまだまだ平気そうだ。


 新人組の一人が、目に見えて遅れ始めた。

 俺たちは平地の岩場近くで野営をすることに決めた。


 岩場の近くには、別のパーティが野営した跡があった。


「すいません。私のせいで……ご迷惑おかけします」


 新人組の女魔法使い――確かルナだったか。

 白の三角帽子と白のローブがよく似合っている。


「いや全然!? ってか、最初からここで野営するつもりだったし。ほら見て。地図に印してあるでしょ?」


 サーシャはそう言いながら地図を広げ、現在地を指さした。


「ルナはそういうの全然気にしなくていいからね? そういうのは計算済みだから。むしろ、新人なのにここまでよく頑張りましたって感じ」


 ルナの表情がわずかに和らいだ。


「サーシャさん、いいリーダーですね。みんなのことちゃんと見てます」


 隣にいたリゼットが、荷物整理をしながら俺に話しかけてきた。


「そうだな。ああ見えてちゃんとしてるよな」


「ふん、外面のいい奴なんていくらでもいる」


 ノアは腰に手をやり、俺とリゼットの前に立った。

 どうやらノアはまだ認めていないようだ。


 はいはい、いつものやつね。

 この旅が終わるころには、どうせ評価が反転してるんだろうな。


 夜の見張りは三交代制だ。

 まずは俺とリゼットとノアで焚き火を囲った。

 見張りと言ってもここは見晴らしもいいし、魔物が襲ってくる心配はほとんどない。警戒すべきは夜盗くらいだろう。


「昼の話の続きですけど、ゴブリンウォーリアーの他にはどんなゴブリンがいるんですか?」


「色々いるが……まずはゴブリンクイーンについて話しておくべきだな」


「ゴブリンクイーン?」


「そうだ。そもそもゴブリンがどうやって生まれるか知ってるか?」


「えっと、ダンジョン以外なら瘴気(しょうき)――自然発生するって聞いたことがあります」


「そう、その通りだ。だが、ゴブリンにはもう一つ増える方法がある……それがクイーンの存在だ」


「ゴブリンは基本、雄しかいない。ゴブリンクイーンは言うなれば雌のゴブリンだ。見た目は異様に肥大化したゴブリンで、戦闘力はほとんどない。だが、こいつはゴブリンを産むことができる。しかも、雄を必要としない。放っておけば、理論上は無限にゴブリンを産み続ける厄介な存在だ」


「今回の依頼にクイーンはいると思いますか?」


「可能性は高いだろうな。あまりにも条件が揃いすぎている」


 リゼットは不安そうだった。


「洞窟は嫌いだ」


 ノアが呟いた。

 盗賊は正面から戦うタイプじゃない。狭い洞窟内ではあまり自分の良さを発揮できないかもな。


 焚き火の横に置いていた砂時計の砂が落ち切った。交代の時間だ。

 俺はマントにくるまって眠るサーシャを揺すった。


 その隣でリゼットがリリアを起こしていた。


 リリア。

 黒鷹団(こくようだん)の女魔法使い。冒険者ランクはB。

 癖の強い長い黒髪と、伏し目がちな茶色の瞳。

 金糸(きんし)の刺繍が入った黒のワンピースに、大きめの黒い三角帽子。膝丈のスカートとブーツの間から、ほっそりした脚がのぞいている。

 炎魔法が得意だ。かなりの人見知りでもある。


 サーシャを起こした後、毛布を敷き、マントにくるまって寝転んだ。


 眠れない。

 焚き火の中の小枝がパキリと弾けた。


「リリアー。そっち行ってもいいー?」


「ダメだ」


 俺は少し目を開けた。


「く、来るなって言っただろ……! 近い近い近い!」


 サーシャがリリアに近づき抱き着こうとしていた。

 リリアは腕を伸ばしてサーシャを拒否している。


「いいだろ別に。みんな寝てるって」


「そういう問題じゃない……!」


 リリアは声を抑えていた。

 本気で嫌がっているようには聞こえない。気のせいだろうか。


「ペイラードの戦いのこと覚えてるか? あの時のリリア、めちゃくちゃ泣いてたよな? 『サーシャ、私を置いて行かないでー!』って。でも、最近じゃ全然アタシのこと頼ってくれなくなったよな……」


「し、知らないっ。覚えてないっ。だ、だから近づくな……!」


 座っていたリリアが後ずさり、サーシャが四つん這いで距離を詰めていく。


 くそっ! 焚き火が邪魔でよく見えない。


 俺は体を少し動かし、何とか見える位置に移動しようと――


「師匠、まだ起きてるのか?」


 後ろからノアの声が聞こえた。


 もうちょっとだったのに……

 俺は諦めて目を閉じ寝たふりをした。


 朝が来た。

 結局ほとんど眠れなかった。


「師匠、いい朝だな!」


「……そうだな」


 ノアの言葉に、俺は苦笑いを返すしかなかった。

 あとちょっとだったのに。

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