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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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25.ゴブリンの巣の制圧依頼

 リゼットとノアを誘い、俺たちは鍛冶屋へ向かった。

 約束通りなら盾が出来上がっているはずだ。


 ノアは鼻歌交じりに鍛冶屋までの道を歩いている。

 俺の後ろでは、リゼットが楽しそうにノアに話しかけていた。


 俺たちが鍛冶屋に入ると、ヴェルナーはテーブルの上から赤い盾を持ち上げた。


「ヴェルナー、約束の盾はできてるか?」


 表面には赤黒い甲殻が貼り付けられており、縁は鉄で補強され、盾全体が緩やかに湾曲していた。


「外側は甲殻だ。木より打撃には弱いが炎にはかなり強いぞ」


 ヴェルナーは盾を軽く叩いた。


「裏には補強の木材を貼ってある。これで甲殻だけの盾よりずっと丈夫になってるはずだ」


 ヴェルナーから盾を受け取った。

 盾の裏のストラップに腕を通し、取っ手を握る。

 横にしたり構えてみたりする。

 今まで使っていた盾と使い心地はほとんど変わらない。

 やはりヴェルナーに頼んで正解だった。


「完璧だ。ありがとう、ヴェルナー」


「そいつぁよかった。大事に使ってやってくれ」


「代金は必ず払うから……」


 あまり借りは作りたくないが、盾がないと仕事にならないからな……


「その件ならもう解決したぞ。後ろにいる嬢ちゃんたちが払ってくれたからな」


 豪快に笑いながら俺の肩を叩くヴェルナー。


「エリク、いい仲間を持ったな!」


 そう言い残すと店の奥へと消えていった。


 払った? リゼットとノアが? なぜ?


 俺はゆっくりと後ろを振り返った。


 優しく微笑むリゼットと、両手を頭の後ろに組み、目線を逸らしているノア。


「どういうことだ。説明してもらおうか」


 駆け出し冒険者にとって、金は安全を買うための手段だ。

 そんな大事な金を、なぜ俺なんかのために使うのか。

 本気で意味が分からなかった。


「ノアが言い出したんですよ。先生のためにお礼がしたいって」


「り、リゼット!? それは言わないでって言っただろ!? 二人で出したって!」


 お礼? なぜ?

 俺はタンクで彼女たちはヒーラーと盗賊だ。助けるのは当たり前だ。


「……お礼をされるようなことは何もやってないぞ」


 俺は眉をひそめてノアを見つめる。


「もしかして、ボク余計なことしちゃった?」


 ノアは叱られた子供みたいに体を小さくし、顔を伏せた。


「いや、怒ってるわけじゃない。ただ、そういうことされると、どう反応すればいいか分からなくて」


「先生、こういう時は『ありがとう』って言えばいいんですよ」


 子供に諭すような口調でリゼットが俺に言った。


 そうだ。

 俺たちは仲間なんだ。


 貸し借りの関係じゃない。困ってたら助ける。

 「灼熱の誓い」にいたときとは違う。もしかしたらこれが、普通なのかもしれない……


「……ノア、ありがとう。大切にするよ」


「――うん!」


 ノアは勢いよく顔を上げ、ぱっと笑った。


 リゼットとノアとパーティを組んでよかった。

 改めてそう思った。


 遠くから咳払いが聞こえた。


「終わったか? 終わったならそろそろ出て行って欲しいんだが――」


 ヴェルナーはハンマーを持ちながら苦い顔をして俺たちを見ていた。


「す、すいません!」


 俺たちは逃げるようにして鍛冶屋を飛び出した。


 盾を背負い、ギルドへ向かう。


 ギルドに入ると、昼前ということもあって朝より冒険者は少なかった。


「師匠、巨大猪(ビッグボア)ならボクに任せていいからな」


 ノアが俺にドヤ顔を披露するが、今日は迷宮に潜るつもりはなかった。


「いや、今日はこっちだ」


 俺がやってきたのは依頼掲示板の前だった。

 しばらく悩んだ後に、掲示板から依頼書を一枚引っぺがし、受付にいるクレアに差し出した。


「昨日の炎獄蠍ヘルフレイムスコーピオン戦の報告ありがとうございました。それではお気をつけて!」


 依頼の受付が終わると、クレアは俺たちに激励の言葉をかけた。

 俺たちはギルドを後にする。


「『(ボア)の討伐』? 巨大猪じゃなくて?」


 ギルドを出ると、リゼットが依頼書を読みながら俺に尋ねた。


「ああ。近くの村で猪が野菜を食い荒らしているらしい。その討伐依頼だな」


「依頼を受けるのはいいが、ちょっと簡単すぎないか? ボクたちならもっと強い魔物も相手にできると思うんだけど」


「まあ最初だからな。リゼットもノアも依頼はあんまり受けたことないだろ」


 二人が頷いた。


「依頼を受けるときに一番最初に見るのは、ランクだ」


「Dランク依頼って書いてあります」


「そうだ。俺はCランク、二人はDランクだから問題なく受けられる。基本は同ランクの依頼までだな」


「じゃあ私たちはBランク以上の依頼は、受けられないってことですか?」


「基本はな。共同パーティを組むなら話は別だ。Bランクパーティと組むなら、Bランクの依頼も受けられるだろうな」


 リゼットは「なるほど」と頷きながら依頼書を読んでいた。


 ノアは文字が読めない。

 内容をリゼットに尋ねながら、二人でああでもないこうでもないと話し合っていた。


 依頼は簡単だった。

 聞き込みをして森へ入り、猪の痕跡を見つけた。

 その後、ノアが単独で巣に近づき、猪を二頭を倒した。

 俺たちは村長に報告し、村を後にした。

 

「簡単だったな。ボクはもっと難しい依頼でも大丈夫だぞ」


「私はこれくらいの依頼でいいと思います。村人の方も喜んでいらっしゃいましたし、十分じゃないですか?」


 ノアには刺激が足りなかったようだが、リゼットは満足している様子だった。


 ギルドでクレアに報告をし、報酬を受け取った。


 もう夕方だ。

 受付には冒険者たちが列をなしているが、依頼掲示板の前は人が少ない。


 依頼を受けるつもりはなかったが、依頼の見分け方を教えようと掲示板へ向かった。


 二人に説明していると、隣から声が飛んできた。


「おー。エリクじゃん。久しぶりだな。元気してたか?」


 いきなり肩を組まれた。びくりと体を震わせ、声の主を見た。


 サーシャ。

 Bランクパーティ「黒鷹団(こくようだん)」のリーダーで、盗賊兼弓使いだ。

 金色のショートヘアにぱっちりとした黄色の瞳。

 動きやすそうな服装で、ダークグリーンのマントを羽織っている。横腹を大胆に露出した衣装だ。

 思わずその大きな胸に目が行ってしまう。


 革の腕当ては傷だらけで、歴戦の猛者を思わせた。


「サーシャさん? お、お久しぶりです」


「そんな緊張しなくて大丈夫だぞ。アタシとエリクの仲だろ? サーシャでいい。お、その子たちは、エリクの仲間か?」


 サーシャは、俺の後ろにいるリゼットとノアにウインクをした。

 リゼットは軽くお辞儀をし、ノアは眉をひそめサーシャを睨んでいる。


「そうですね。何とか迷宮をクリアできるくらいにはなったので、今は依頼のことも教えようかと思って――」


「いいね。立ち話もなんだし、ちょっと座らないか?」


 サーシャはギルドのテーブル席に視線をやった。


 俺たちはそちらへ移動する。

 椅子が足りなかったので、隣の席から三つ拝借した。


 こうして、俺たち三人と黒鷹団(こくようだん)の四人の話し合いが始まった。


「これなんだが、エリクはどう思う?」


――――――――――――――――――


フィーミルの森にあるゴブリンの巣の制圧

依頼ランク :B

依頼主 :フィーミル領主


依頼内容

フィーミルの森にある洞窟にゴブリンの群れが巣食っている。洞窟を制圧し、ゴブリンを排除すること。


討伐対象

ゴブリン、ゴブリンアーチャー、その他(上位種の可能性あり)


巣の規模

推定30~150体


報酬

ギルド規定に準拠


備考

・巣の位置は判明しているが、内部の偵察は十分ではない。

・待ち伏せの可能性もあるため、盗賊のいるパーティが望ましい。

・大規模な巣である可能性があるため、複数パーティでの受注を推奨する。

・ゴブリンの生態に詳しい者がいると望ましい。


――――――――――――――――――


「これ、何パーティで依頼を受けようと思ってます?」


「三パーティだな」


「……ギリギリですね」


 まず、洞窟突入組は必須だ。巣の制圧が目的なのだから当然だ。

 次に見張り役。万が一に備えて、ゴブリンの巣の外で退路を確保する役も必要だろう。

 最後に別動隊。なくてもいいが、自由に動けるパーティは絶対にあったほうがいい。


「この依頼、エリクたちにも手伝ってほしいんだが――」


「ちょっといいか」


 ノアが低い声でサーシャに詰め寄った。

 ……嫌な予感がする。


「師匠に対して馴れ馴れしすぎないか? 師匠はうちのリーダーだ。いきなり肩を組んできたと思ったら、依頼の手伝いをしろだと? ちょっと図々しくはないか?」


 ノアがサーシャに文句を言っている。

 お前も最初、かなり馴れ馴れしかったけどな?


「すまん! 確かにその通りだ。アタシはサーシャ。黒鷹団(こくようだん)のリーダーをやってる。一応Aランクってことになってるが、そういうのはあんまり気にしないでいいからな。よろしく頼む」


 その流れで全員が軽く自己紹介を済ませる。


「えーっと、アタシが馴れ馴れしいって話だったか? それは――」


「サーシャ、その話はいいからさっさと本題に入ろう」


 話が長くなりそうだったので先を促した。


「いいだろう。アタシらのパーティにはちゃんとしたタンクがいない。だから、頼りになるタンクのエリクに声をかけたんだ」


 サーシャは信頼できる冒険者だ。元傭兵で、俺よりもはるかに格上の冒険者だ。


「あまりにも情報が少なすぎる。勝算はあるのか?」


「なかったらこんな依頼受けていない」


 サーシャがにやりと口角を歪ませた。


 俺は受けてもいいと思い始めていた。

 だが、俺一人で決めていい話じゃない。


「ちょっと相談してもいいか?」


「分かった。ではアタシらは少し離れてる。みんな行くぞ」


 サーシャたちが席を離れた。


「俺は受けてもいいと思う。リゼットはどう思う?」


「危険だと思います。でも、先生がやるつもりなら反対はしません」


 リゼットはテーブルに視線を落としながら、しきりに指を動かしていた。


「ノアは?」


「あいつは気にいらない。でも、師匠がやる気ならボクは付いてく」


「なら決まりだ。二人ともいいな?」


 リゼットとノアは力強く頷いた。


 俺はサーシャたちを席に呼び戻した。


「どうだ? 決まったか?」


「ああ、よろしく頼む」


「さすがエリク! アタシが見込んだ男なだけある!」


 サーシャは椅子から立ち上がると、勢いよく俺に抱きついてきた。

 大きな胸が肩に当たって嫌でも意識してしまう。


「先生、鼻の下伸びてますよ」


 リゼットは冷めた目で俺を見つめていた。

 ノアはテーブルの上で拳を握り、今にもサーシャに食って掛かりそうだ。


 頼むから仲良くしてくれよ……

お読みいただきありがとうございました!

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